ベルリンを拠点にファッションデザイナーとして活動する濱田明日香さん。彼女のレーベル「THERIACA(テリアカ)」は、人が身につけるものをメディアに、プレイフルなアイデアを展開している。そのテリアカの展覧会「THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti展」が、2022年4月29日からデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で始まる。「編む」をテーマに、食べ物から日用品まで様々な素材でニットの可能性を実験した本展。そのプロセスや魅力について、濱田さんにお話を聞いた。
スパゲッティ、ストロー、本、ロープ!? “編むモノ”から考えてみた。「THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti展」@デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
——テリアカはいわゆるファッションブランドと違って、より実験的な活動も積極的にされていますね。
2014年にスタートしたレーベル「THERIACA(テリアカ/万能解毒剤という意味の言葉)」では、年1回コレクションを発表すること、それ以外の時間で本を作ったり展覧会をやったりすることの両方をやっています。私にとって、服を販売するビジネス的な側面から離れた表現活動はとても重要で。コレクションでの服作りと、そこには収まりきらないアイデアの実験を往復しながら制作しています。
Spaghetti Knitting Photo: Jiuk Kim
——今回のテーマとして「編む」に注目した理由は?
以前『かたちのニット』(文化出版局、2020年)という本を出した時に、集中して編み物に取り組んだんです。これは手芸本だったので素材も市販の糸を使用することが前提。でもそこに収まらないニットの面白さがあると気づいて。そこで、普段ニットの糸に使わない素材や、手袋とかセーターといった定番のかたちではない編み物を試そうと、このプロジェクトを始めました。
——展覧会のタイトルにも、ロープやスパゲッティが入っていますね。実験する素材はどんなふうに選んでいったのでしょう?
素材は、とりあえず細長いものだったら全部編めるんじゃないかと思って(笑)、色々試しました。食品はパスタの他にクッキーもやりましたね。どちらも編んだ状態で食べると食感がすごく変わって、味まで違って感じられたのが新鮮でした。
本のページを割いた短冊状のものを編むBook Knitting Photo: Jiuk Kim
ストローで編んだ素材感を再現したStraw Top Photo: Jiuk Kim
——とくにどんな素材が面白かったですか?
着られない素材だけど面白い表情になったものが多くありました。本とか雑誌のページを細く切って編んだものは、文字の出方によって部分部分の見え方が変わったり、ペラペラのものが編むと立体的に見えたり。ストローを細かく切って編んだものも、質感とか見え方が面白くて。そこで得た素材感を、着られる糸で表現し直すことも試しました。
Udon Bag Photo: Jiuk Kim
Lemon Dress Photo: Jiuk Kim
——一推しの作品はなんでしょう?
Udon Bagですかね。中綿を入れた太い紐状のものを作り、それを編んでいます。それからレモンが入っているネットから連想したLemon Dressは、ナイロンの糸特有の透け感とハリが特徴。これまではネットバッグなどに使われることの多い糸で、服に使うのはめずらしいみたいです。
——『THERIACA 服のかたち / 体のかたち』(2018年 torch press)でも、服とは無縁に見える日用品からインスピレーションを得ていますよね。こういう実験は、服やバッグだけではなくオブジェ的な作品にも展開できそうと思いましたが、服にこだわるのはどうしてですか?
実際に着るという行為は、飾るとか見るとかとまったく違う表現媒体だと思うので、身につけるものに落とし込みたいというのが活動の根っこにあります。着ることで人の気持ちが変わるとか、着て動くと見え方が変わるとか、絵画や彫刻とは違う、服ならではの表現の面白さがあるんです。一方ファッションはビジネスの側面が大きいので、その部分をなかなか追求しづらい。なので、テリアカでは様々なアウトプットの方法をとることで、「着ること」の表現の幅を広げたいなと思っています。
作品集『THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti』より 左 Yellow Sweater Mini 右 Hair Knitting
——表現の幅を広げるのに、一見服とは関係なさそうなものが役立っていると。
パッと見て「着られる」とか「服だな」と思えるものをヒントにすると、やはり発想にも限りがあるし、見たことあるものにしかならないような気がして。最近は日用品からアイデアを広げていくことが続いていますが、普段から色んなものにアンテナを張るようにしています。野良着とか民族衣装とか生活の必然から生まれた形には興味があるけど、基本的には服から発想を得ないということを心掛けていますね。
——コレクションや書籍など別の発表方法もとられていますが、展示はテリアカにとってどんな存在ですか?
それぞれ伝えたいことに合った場があると考えています。例えば人が着る服を見てもらうにはショップが一番いいし、本は言葉になるので考えていることをストレートに伝えられる。ショウも魅力的ですが、どうしてもインパクトの方が求められてしまうので、私の伝えたいことにはちょっと合わなさそうだなと。展示は、自分の世界観を作品だけでなく空間にも投影できるところが魅力です。
——今回の展覧会の見どころは?
今回は、完成品だけでなく試行錯誤とかボツにしたアイデアといった途中のものもそのまま出しています。私の頭の中を見てもらうような感じかな。今回は同じテーマで作品集『THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti』(発行:横田株式会社、制作:torch press)も出版しますし、色々なアプローチからニッティングの面白さを感じてもらえると思います。展示しているもののうち、いくつかは会場となるKIITOのショップでも販売しますので、そちらも楽しみにしていてください。
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濱田明日香
京都市立芸術大学、ノヴァスコシア芸術大学(カナダ)にてテキスタイルデザインを勉強後、デザイナーとしてアパレル企画に数年携わり、渡英。ファッションとパターンについて研究し、自由な発想の服作りを続けている。2014年、ロンドン芸術大学在学中に自身のレーベル“THERIACA”(テリアカ/万能解毒剤という意味の言葉)をスタート。ギャラリー、美術館やショップなどでの作品発表のほか、服の面白さを共有するツールとし本の執筆もしている。ベルリン在住。著書に『かたちの服』『大きな服を着る、小さな服を着る』『ピースワークの服』『甘い服』『かたちのニット』(文化出版局)、『THERIACA 服のかたち / 体のかたち』(torch press)がある。
THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti展
『THERIACA Yarn, Rope, Spaghetti』
今回のニットプロジェクトの作品集。作品ビジュアルのほか、制作風景やアイデアノート、インタビューなども掲載。
発売日: 2022年4月25日
価格: ¥2970(税込)
発行: 横田株式会社
制作: torch press
DARUMA STOREほか、Amazonでも販売予定