橋本徹が語る、90年代音楽業界の「世界同時郊外化」。すべては90年代からはじまった!

1990年代半ばの「世界同時渋谷化」現象。それは、エディター/ライターの故川勝正幸さんが「発見」したフレーズです。当時「渋谷系」と呼ばれた音楽を軸に盛り上がったカルチャームーブメントは、世界同時多発的に起こっていた現象で、世界中のクリエイターやおしゃれ感度の高い若者たちが「渋谷系的概念」を共有し、「好き!」「わかる!」と共感していたということなのです。「いいね!」ボタンもない、インターネット前夜の奇跡。アナログ時代最後のディケイドだったからこその 「渋谷化」だったのかもしれません。


SUBURBIA × SHIBUYA

「この本に選ばれているレコードの多くは 約20年以上も前に吹き込まれた作品だろうか。 いまこうした古いレコードにときめき 熱狂するのを見て、懐古趣味だとか、 あるいは当時いかに評価され難い文脈に立つ音楽だったか、 などとしたり顔で語るのは的外れなことだ。 ここに在るレコードは1990年代の今日、トーキョーで、 そして世界の都市で聴かれることをあらかじめ確信していた、 いわば“未来の音楽”なのだから」
(1992年刊行『Suburbia Suite; Especial Sweet Reprise』掲載の 小西康陽のコラム「small but smart talk.」より抜粋)


 

橋本徹の渋谷郊外
埋もれていたのは“未来の音楽”だった

1990年暮れ。『サバービア・スイート』という名のフリーペーパーが渋谷近郊のレコードショップに置かれました。(サバービア=)郊外の(スイート=)組曲。両面1色刷りでたった4ページしかなかったけれど、とびっきりおしゃれなデザインで、知られざる名盤についての“ウンチク”がギッシリ詰まっていた。イギリスのグラウンドビート、ブルーノートのオルガンジャズ、フィルムノワールのサウンドトラック……。当時学生の不肖筆者、これを手に取り途方に暮れたことを覚えている。それなりに文化的研鑽を積んできているつもりだったけれど、「知らない郊外」は広大なのだと。

 

橋本 自分が好きなものに対する共感者を増やせるチャンスが広がった時代でしたよね。音楽を作る人もそうだし、僕らみたいに編集や選曲をする人間もそうだし、ファッションやグラフィックデザインをする人もそうだろうし。そういった時代の空気感はあったと思う。90年代という時代にも渋谷という街にも。川勝さんが言った「世界同時渋谷化」は、そういうことにシンパシーを抱く人は世界中にいて、自分もアクションをとるんだという「宣言」だったと思うんです。感覚だけでカタチにすることができなかったことが、フリーペーパーだったり、DJだったり、表現したいことにたどり着きやすくなった、一歩踏み出せるようになった、それが90年代だったのかなって。

 

編集者であり選曲家でありカフェ店主でもある橋本徹さん。学生の頃からのレコードマニア。90年、大手出版社の雑誌編集者になるも「仕事だけでは学生時代に培ってきたことが表現しきれない」と冬のボーナスを注ぎ込み、知られざる名盤や映画を紹介するフリーペーパー『サバービア・スイート』を作った。すぐに評判を呼び、92年にはムック形態へと進化。橋本さんはその後、膨大な音楽知識を活かし、テーマ別で選曲・再編成したコンピレーションCDのプロデュースを行うように。なかでも『フリー・ソウル』シリーズは幅広い層に受け入れられ「コンピレーション」という言葉を世に広めることになった。

 

GINZA(以下G) 90年代は、「おしゃれ」が底上げされた時代だと思うんです。「この音楽を聴いて、この服を着て、この部屋に住むワタシ」的なものを意識する人が増えたというか。橋本さんの“サバービア”や『フリー・ソウル』は、そういう感覚を研ぎ澄ますための入門ガイドであり、概念だった気がするんです。

橋本 そういう気分って、90年代初頭、サザビーの「アフタヌーンティー」文化の影響が大きかったと思うんです。あそこでアルバイトをする女の子たちのセンスが、そういった空気感を形づくったんじゃないかって。ライフスタイルを気持ち良くするという発想。カッコ良く言えば、生活をデザインするという感覚。その心地良さに気づいた時代だったんでしょうね。

 

G 橋本さんはなぜ“サバービア”と言ったんですか? 子どもの頃から駒沢〜渋谷育ちなのに(笑)、なぜ「郊外」だと?

橋本 そこは、僕なりのオルタナティヴなんです。90年前後の音楽業界といえば、バンドブームやユーロビートがメインストリームでしたから、僕らはあくまでも「郊外」。たとえば、それは、U.F.O.(ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼイション)の3人はその頃「ラウド・マイノリティ」という言葉を使ったけれど、それとは別の言い方で距離感を出せたらいいなって。しかも、実際、僕らと似たような感覚をもつ人たちは、渋谷から少し離れた街に住んでいる人が多かったんです。

 

G 「世界同時郊外化」(笑)。いま、再び、そういった90年代的視点や感覚が注目されているのはなぜだと思いますか。

橋本 僕は、埋もれている音楽を掘り起こし、そこに違う角度から光をあて、新しい価値観を見いだす作業をしてきたわけですが、小西(康陽)さんは、それを“未来の音楽”だと言ったんです。流行は20年サイクルで巡ってくると言うけれど、いま90年代を掘り起こせば、いまの人たちが共感できる新しい価値観、知らない未来が出てくるんだと思うんです。リバイバルという言葉は好きじゃないけれど、螺旋階段のように上がりながら循環し戻ってくる、それが時代というものなのかなって。

橋本 徹

1966年東京生まれ。サバービア主宰。選曲を手がけたコンピレーションCDは250枚を超える。最新コンピも続々とリリース中。店主を務める「カフェ・アプレミディ」は渋谷消防署前ファイヤー通りに移転。

Art Direction & Design: Toshimasa kimura Photo: Gosuke Sugiyama(Gottingham Inc.) Text&Edit: Izumi Karashima

GINZA2014年6月号別冊付録