『カルテット』『それでも、生きてゆく』日常会話が輝きを放つ。脚本家・坂元裕二の心に残るドラマ

『カルテット』『それでも、生きてゆく』日常会話が輝きを放つ。脚本家・坂元裕二の心に残るドラマ

実力派の脚本家たちにより優れた作品が次々と生み出されている、 近年の日本ドラマ界。書き手の名で番組を選ぶという人も少なくない。今回はなみいる名手の中から、オリジナル脚本を得意とする人物をピックアップ。テレビドラマに造詣が深い岡室美奈子さんに、 各作家の見どころとおすすめの作品について語ってもらいました。

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坂元裕二

坂元裕二-

ここがスゴい!
☐徹底して弱い立場の人々に寄り添う
☐物語の細部を通して
他者への想像力を育む
☐心に染み込む、
なにげない日常会話の数々


それでも、生きてゆく
『それでも、生きてゆく』第11話。双葉と洋貴は、たった一度だけの 普通のデートをし、普通の会話をして、また離れ離れになる。

双葉 「飼育係とかやってみたかったですけど、あ、でもコアラは苦手なのでコアラ担当以外で」
洋貴 「えっ、コアラかわいいじゃないですか」
双葉 「えー、コアラよく見てみてくださいよ。コアラって鼻がとれそうじゃないですか」
洋貴 「どんな鼻でしたっけ?」
双葉 「なんかリモコンの電池入れるところの蓋みたいな。こう、パカってとれそうな」
洋貴 「電池入ってるとしたら単二ですかね」
双葉 「単二か、単三2本ですね」
洋貴 「あ、うち今単三2本あります」

───────『それでも、生きてゆく』11話より

「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」 巻 真紀 ───────『カルテット』3話より

記憶に残るドラマとして熱狂的なファンも多い坂元裕二作品。特徴のひとつに、弱い立場の人々に徹底的に寄り添う姿勢が挙げられます。『それでも、生きてゆく』は、殺人事件の加害者家族と被害者家族が出会う物語。設定自体思い切った試みだと思いますが、両者の恨み辛みという言葉だけでは決して語ることのできない複雑な感情を回を重ねて丁寧に描いた傑作です。被害者の母(大竹しのぶ)と犯人の文哉(風間俊介)が出会い激しく感情がぶつかる壮絶なシーンも見ものですが、それと対比するかのように何度も出てくる双葉(満島ひかり)と洋貴(瑛太)が交わす日常会話が珠玉。文字だけを見ると取るに足らない内容なんですが、そんなやりとりこそが物語の中で輝きを放つのです。『最高の離婚』で光生(瑛太)と結夏(尾野真千子)が繰り広げる夫婦喧嘩や『カルテット』の唐揚げレモン問題をはじめとする4人の食卓での会話もそうですが、坂元さんは何気ない会話をすごく大事にしている。それを演じる俳優たちの演技力も見ものです。

弱い立場の人に寄り添う姿勢は、他の作品にも見られます。たとえば『Woman』ではさまざまな立場のシングルマザーが取り上げられ、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』は地方出身者で格差社会に生きる若者が主人公。『anone』は不器用な人たちが寄り添う、擬似家族がテーマになっています。

他人の気持ちはわかり得ない、だけど想像することはできる。坂元作品は、現代社会で私たちが忘れかけている大切なことを考えさせてくれますね。


『Mother』(10)

30代半ばで独身、恋人もいない小学校教師の鈴原奈緒(松雪泰子)は、クラスで浮いている道木怜南(芦田愛菜)が虐待を受けていることを知り、怜南を誘拐して母親になる決意をする。逃亡する中で奈緒を捨てた実の親(田中裕子)との関係も徐々に判明する。家族、親子、母親とは何かを問いかける。*Huluなどにて視聴可

『それでも、生きてゆく』(11)

殺人事件で傷を背負ってしまった加害者の妹・双葉(満島ひかり)と被害者の兄・洋貴(瑛太)が、事件の15年後に出会う。当時少年Aだった犯人の文哉(風間俊介)を巡り、ふたつの家族の止まっていた時間が動き出す。悲劇とどう向き合い、少しずつ前を向いて生きていくかを描いた傑作。*フジテレビオンデマンド(FOD)などにて視聴可

『最高の離婚』(13)

震災が契機となり結婚した濱崎光生(瑛太)と結夏(尾野真千子)は性格も趣味も正反対で喧嘩ばかり。ついに勢いで離婚届を提出してしまう。ご近所の上原諒(綾野剛)と灯里(真木よう子)カップルも破局間近。そんな2組の30代男女を巡るラブコメディ。家族とは、夫婦とは、新しい時代の結婚観、男女観を提示した。*FODなどにて視聴可

『カルテット』(17)

巻真紀(松たか子)、世吹すずめ(満島ひかり)、家森諭高(高橋一生)、別府司(松田龍平)。ある日、偶然出会った4人は、弦楽四重奏(カルテット)を結成する。4人それぞれ人には言えない過去を抱えている。会話の面白さはもちろん、全員片思いの恋愛や、4人の過去、先の読めないサスペンス展開が見もの。*Paraviなどにて視聴可

Profile

坂元裕二
さかもと・ゆうじ

 1967年生まれ。大阪府出身。19歳でデビュー。『東京ラブストーリー』(91)をはじめ数々のテレビドラマの脚本を執筆。『脚本家 坂元裕二』など書籍も多数。

Navigator:岡室美奈子 おかむろ・みなこ

早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系教授。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長。専門は現代演劇やテレビドラマなど。演劇博物館で『大テレビドラマ博覧会』という展覧会を開催したり、ツイッターで発言するなどドラマ論に定評がある

Illustration: Tetsuya Murakami Text&Edit: Keiko Kamijo

GINZA2019年8月号掲載

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