工藤キキ(くどう・きき)
アーティスト/ライター。NY在。日本の雑誌への執筆の傍ら、アートフードプロジェクト @chisonycとしても活動している。
“Downtown America”という新しい潮流
ニュー ヨークは人種の坩堝(るつぼ)と言われているけど、アップタウン、ミッドタウン、ダウンタウンとエリア別にまったく違ったカルチャーが根付いているだけ に、2015年にアッパーイーストサイドからダウンタウン/ミートパッキンディストリクトへと大胆にロケーションを移したWhitney Museum of American Artがポップで挑戦的なダウンタウン・メンタリティへとトランスフォームするのは当然のこと。“現在”のアメリカンアートを2年おきに紹介している Whitney Biennialが、新天地ダウンタウンへ移転後の初開催となる2017年。今回からティファニーがメインスポンサーとして向こう3回、2021年のビエンナーレまでサポートすることを発表。メインキュレーターとしてMoMA PS1のシニアキュレーターだったMia LocksとChristopher Y. Lewという新進気鋭のふたりが抜擢され、構想約1年半とはいえタイムリーでフレッシュなダウンタウンアートのニューリアリティを体感する絶好の機会を 作った。
フリーダムであるはずのニューヨークシティでさえ政権交代後のアメリカの鬱屈したムードに圧されているけど、一方でダウン タウンのアーティストを中心としたアートプロテストのグループ“Dear Ivanka”が発足したり、政権交代後にたびたび起きているプロテスト行動に多くのアーティストが参加したのを目にした。63のプロジェクトからなる今回の Whitney Biennialも、Occupy Wall Street(懐かしい!)から派生したOccupy Museumsや人種やクラス、ジェンダーそして国境、「ヒューマニティとは?」を問いかけるポリティカルな作品が多い。そしてダウンタウンアートにさま ざまなアングルから着目し、モード界でも大きな存在感を放っているNYのストリートブランド〈Hood By Air〉のCEOでもあるLeilah WeinraubがHBA以前から制作していたレズビアンのダンスドキュメンタリーフィルム“SHAKEDOWN”なども選出するなど、まさに近年のダウ ンタウンの流れもビシビシ感じさせるセレクション。キュレーションアドバイザーとしてLAのインディペンデント・アートストアのOoga BoogaのディレクターであるWendy Yaoが名を連ねることでウエストコーストのダウンタウンアートもおさえている。今回の見所のひとつが、ハドソン川を見下ろすSamara Goldenによるインスタレーション。万華鏡のように映る鏡のリフレクションを操り、アッパーイーストサイドあたりのファンシーなリビングルームからプ リズン、ハイエンドな病院にホームレスといったデストピアなアメリカの今を“逆さまの世界”で映しだした。
イマジナリーワールドとリアルワールドが交差する新しいポリティカルアートのニューチャプターともいえる、“Downtown America”という新しいアートのプラットホームを作り上げた刺激的な展覧会になっている。