このイラストの女の子をみたことありますか?
マムアンちゃんです。
タイの漫画家、ウィスット・ポンニミット(日本ではタムくんの愛称でお馴染み、以下タムくんと呼びます)の漫画『マムアン』シリーズの主人公で、タムくんの漫画に度々登場する女の子。ピュアなハートにびんびん響く邪気のないかわいらしさがありませんか?
バンコクを拠点に、イラスト、漫画、アニメーション、音楽などを制作しているタムくん。くるりの楽曲「琥珀色の街」、「上海蟹の朝」のPVやアーティストビジュアルなどで知っているひとも多いかもしれません。
そんなタムくんの個展『LR展』(エル・アール展)が、東京・六本木ヒルズA/Dギャラリーにて開催されています。
さっぱりとした清涼感のある展示空間は、六本木の喧騒にひっそりと現れたオアシスのよう。入り口にはこんなキャプションシートが貼ってありました。
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今晩、ラーメンかパスタ どっちにしようかな
今から、お母さんか友達か どっちに電話かけようかな
将来を選ぶ瞬間の自分 それが本当の自分
気持ちが生まれる前の 自分
何が悪い、何がいい と判断する前の瞬間の自分
それが本当の 自分
LR展を見て、うち帰って、感じてみてね
君になる前の、本当の 自分
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“本当の自分?”哲学的な問いから始まるLR展ですが、ギャラリー中央に設置されたインスタレーションを体験すれば、日常生活で酷使した脳みそが段々と柔らかくほどけて、タムくん問いかけが優しく伝わってくるはずです。
本作は、中央のモニターに映し出されるアニメーションを見て、その次に起こる展開を「自分なら?」と問いかけ、「左(L)に行くか右(R)に行くか」を選び、それぞれの異なる未来を楽しむ体験型インスタレーション。例えばこんな感じです。
次々と猟奇的に木をなぎ倒す したくん(タムくんの漫画に度々登場する男の子)。一輪の花の前にこんな選択が迫られる。
「ずっと悪かったから少しだけでもいい人になろう」(左のモニターへ)
「ずっと悪くやったし、最後まで悪くやろう」(右のモニターへ)
左と右のモニターでは選択した内容に合わせて別々の未来が展開されます。そうしていくつかのエピソードを選択していると、はたと入口のキャプションを思い出すのです。
将来を選ぶ瞬間の自分 それが本当の自分
なるほど! この作品はタムくん節で言うところの「本当の自分」が発見できる装置なのか。
更に真意を探るべく、オープニングパーティーに出席していたタムくんに話を聞いてみました。
-タムくん、こんにちは!
こんにちは!
-「LR展」とても楽しいです!
嬉しいな、ありがとう!
-「LR展」の構想はどこから生まれたんですか?
ええと、ボクは漫画家だから、いきなりアートやれっていわれてもできないんだよね。だけどストーリーものだったらできると思って、お話がある展覧会をしようと考えたんです。でもそれだけだと ただの漫画になるから、選択してエンディングが選べるものならみんな楽しめるかなと思ったのがはじまりです。
-“本当の自分”というテーマは当初から考えていたテーマなんですか?
それはね、展覧会の準備をしていて、自然と湧いたテーマです。ひとって、選んでばかりじゃない? 「今何をどんな言葉で喋ろうか」とか「トイレ行こうか、我慢しようか」みたいな。LにいこうかRにいこうか、そういう決断って毎日毎秒くらいあるじゃないですか?
-ありますねぇ。
そして、選んでいない瞬間こそピュアな自分、まだ結果が出ていない真ん中の自分なのかもしれないって考えたんです。だから、この展示を見て帰ったら、これもL/Rだねえと気がついてもらいたいです。「この曲良くない?/ださくない?」とか、そういうことを決めるまでの自分っていいじゃん? LRを選ぶ前の真ん中が気持ちいと思う。そんなピュアな自分の気持ち良さに気づいてくれたら一番嬉しいですね。
「LRを選ぶ真ん中の自分が気持ちいい」そんなタムくんの言葉に、「LR展」で素朴な状態にかえっている自分に気づかされた筆者でした。入場無料なのでみなさんも気軽に足をお運びください。あなたも決断の真ん中に立つピュアな自分に出会えるはず……!
尚、当展覧会では、紹介したインスタレーション作品の他、原画の展示やグッズの販売も行われています。合わせてお楽しみ下さい。
「Wisut Ponnimit LR展」
開催日時:2017年7月7日(金)~7月30日(日)
時間:12:00~20:00
場所:ROPPONGI HILLS A/D GALLERY (六本木ヒルズ アート&デザインストア内)
入場無料
HP: http://www.roppongihills.com/events/2017/07/002873.html
ウィスット・ポンニミット
1976年、タイ・バンコク生まれ。愛称はタム。
1998年バンコクでマンガ家としてデビューし、2003年から2006年まで神戸に滞在。2009年『ヒーシーイットアクア』により文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞受賞。現在はバンコクを拠点にアーティスト・マンガ家として作品制作の傍ら、アニメーション制作・音楽活動など多方面で活躍する。主な作品に「マムアン」シリーズ、『ブランコ』(小学館)、『ヒーシーイット』シリーズ(ナナロク社)など。2016年には、新刊『ヒーシーイットレモン』刊行、個展「ほっとすぽっと」開催、くるりの楽曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」PV制作を手掛けたほか、さいたまトリエンナーレ2016にも参加。