フィジカルな悦びと楽しさに満ちたクリエイション
牛尾憲輔
音楽家
『ピンポン THE ANIMATION』の劇伴を担当して以降、『DEVILMAN crybaby』『日本沈没2020』で湯浅政明さんとタッグを組んできた、agraphの牛尾憲輔さん。
「もともと湯浅さんの『四畳半神話大系』が好きで、砂原良徳さん作・編曲のエンディングテーマを心のリファレンスにしていたので、最初に依頼をもらったときは、言語化できない喜びに打ち震えた記憶があります」
湯浅作品の魅力を、牛尾さんはこう捉える。
「物事を深く考えた謙虚な目配せがありながらも、フィジカルな悦び、楽しさに満ちているところかな。『ピンポン〜』の打ち上げで、スタッフさんと飲んだ流れでクラブに行ったんですが、最後まで踊り狂ってたのは湯浅さんで(笑)。なんて全身で悦びを表現をする人なんだ!と思った。過去作を観たときの気持ちよさとリンクして、湯浅組の一員として何をやるべきかが少しわかったんです」
どんなにキャリアを築いても、「絵が動いていて楽しい」という純粋なワクワク感にあふれている、とも指摘。そんな湯浅さん、「一人一人が監督であることを求めている」と牛尾さんにつぶやいたことがあるという。
「その姿勢があるからこそ、相手を否定せず、丁寧に会話をされるし、こちらがどういうものを作りたいかを考えさせる気がする」
劇伴づくりのプロセスは、曲数がわかるオーダー表を音楽監督が用意し、劇伴者がそれに合わせて曲を作るという流れが一般的。だが、湯浅組の仕事では、監督とイメージを共有するコンセプト打ち合わせを経て、まず牛尾さんが音楽の世界観を作り上げる。そして、出来上がったものを湯浅さんにプレゼンする、という流れを取り入れているのだそう。
「最初から関わらせてもらうとなると、通常より制作に時間もかかりますし、ご迷惑をおかけしてしまうのですが、自分も湯浅組のはっぴを着ているつもりで作ってます。それに、僕が作品に対して本気で考えて思ったことを伝えると、湯浅さんは面白がってくれるんです。もちろん微調整はあるんですが、作品の中に取り入れる方法を探ってくれる。それはすごく光栄で、うれしいことです」
牛尾さん曰く、いつも「面白いオッサン」として、作り手のアイデアを尊重する湯浅さんのオープンな姿勢は、年齢を重ねた先に自身が目指している像と重なるのだとか。
「これまで3本一緒にやらせてもらいましたが、それでスリーアウトにならないことを心から願ってます(笑)」