恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 中編

恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 中編

ユーミンの愛称で親しまれ、同世代のリスナーだけでなく、リアルタイムで曲を聴いたことのない世代までをも広く魅了する国民的シンガーソングライターの松任谷由実さんがデビュー45周年を記念したベストアルバム 『ユーミンからの、恋のうた。』とともに登場。〝Pure Eyes〟、〝Urban Cowgirl〟、〝Mystic Journey〟と名付けられた3枚組、1枚各15曲、計45曲からなる構成で紡がれたコンセプチュアルな作品だ。「45周年だから45曲ね」そう語るユーミンに、それぞれのアルバムに込めた想いから、公私ともにパートナーである松任谷正隆さんとの出会い、曲作り、日常生活、そして大好きなファッションのことまで、たっぷりインタビューした。本誌では、 歌の世界観をGINZAの視点で撮り下ろしたヴィジュアルとともにお届け。

Key Word  “私らしさ”

いつだって、ちょっとした制約がある方がいい ―yuming

3枚のうちの2番目のアルバム『Urban Cowgirl』には、日本語で「〝私〟で、生きてゆく。」というタイトルが添えられている。13曲目に収録された「Cowgirl Blues」の歌詞カードには、ユーミンからこんなメッセージも綴られていた。
「生きていく!喜びも悲しみもぜんぶ抱えて!」
しかと手綱を握りしめ、今日も〝私〟らしく都市を奔走するカウガールに向けた応援歌の数々。ユーミンが、自分らしくいるために心がけていることについて聞いてみた。
「時々『過去の作品だけでも悠々自適な暮らしでしょ。もういいじゃないですか』って言われることがあるんです(笑)。だけど、作品ができたときの快感がたまらないし、カタルシスを求めてるから曲を作るんです。何より自分のためなんです」
名声を得てもなお、ユーミンの創作意欲は止まることを知らない。
どんなアーティストにも曲ができて仕方がない時期という〝プライム・ピリオド〟があるというが、彼女にとっては80年代後半から95年くらいまでがまさにそうだった。
「黄金期と誤解されると、こうして今曲を作っている意味がなくなってしまうけど、偶然が面白いように重なって、想像もできなかった力が働いたんです。頭の中で言葉遊びをしていたら、無意識に韻を踏んで深い意味に通じたり。そのときの手応えを忘れずに、いつもそのレベルまで持っていく志で挑んでいます」
アルバムを絶やさず、自問自答し、音楽と自分に向き合い続けてきた45年間。今回のアルバムの特典となる過去の映像をチェックしていて、顔や、ステージ衣装の変遷を見て、これまでの長い道のりに思いを馳せたそう。
「リリース宣言をスタッフにすると、レコーディングからツアーを含めたプロモーションの予定が1年半先まで組まれていきます。もう逃げられない状況になるんですよね(笑)。あっという間の45年間でしたね。でも、そうしないとアイデアの回路が塞がっちゃうから、いいことなのだけど」

 

何かしら予定を作るのがユーミン流

そんなめまぐるしい速度で進む毎日を過ごすユーミンが〝私らしく〟いられるのは、どんなときなのだろう?「ちょっとした制約がある方がいいんですよ。本当だったらちゃんと練習をしなくちゃいけないときに、心地よい眠りが来るタイプ(笑)。余計なことを考えちゃうので、縛りがないとダメなんですね。だから何にも予定のない日なんて、まずないです。最近作った予定は、依頼を受けた番組の曲を作ること。もうすぐその納品なんですけど、私〝納品〟って言葉が好き。風圧を受けていたいんです。ポップをやっているけど、ジャズやクラシックのひとと同じようなプライドを持っていたいの」
音楽で勝負してきた、第一線で活躍する女性のひと言に、思わず背筋が伸びた。

 

〝脳内女優〟が物語を紡ぐ

情景がリスナーの頭の中に映し出される〝パノラマミュージック〟が彼女の作風だ。収録曲の「心ほどいて」では、「そしてヴェールをあげて 彼と向かい合うとき」という1フレーズだけで教会にいるシーンが目に浮かぶ。3曲目の「ひとつの恋が終るとき」では、「前も見えない雨が それぞれの道照らしてた」という歌詞で、土砂降りの雨のなか、それぞれ別の道を選択する男女の姿が浮かび上がる。ほかにも、元彼に会った日に限って安いサンダルを履いていた(「Destiny」1979年) ―この曲には日本中の女性が胸を衝かれたはずだ。
これまでに多くの女性を描いてきたユーミン。魅力的なヒロインはどうやって生み出されたのだろう?
「曲ができたら、そこに歌詞をのせていくんですが、これが一番面倒な作業。でも追い詰められると、その状況に相応しいキャラクターに扮した〝脳内女優〟が動き出すんですよ。三人称もあれば、一人称のときもある。頭に搭載したカメラから見える風景を歌詞にしている、そんな感じかな。自分の中から出てきたものであることは間違いない。だから、どの女性も私のなかにある要素ですね。それが曲調にインスパイアされて、くっきりしたキャラクター像が出来上がるんです。シンガーソングライターだからできる技ですね。そんなこんなで生まれたアルバムは、プチ人工知能のプレイリストとも言えるかもしれない」
〝脳内女優〟について、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組でも語っていた。人柄がにじみ出たユーモアのあるおしゃべりで広い層から支持を得ているが、FMとインターネットラジオでもそれぞれ人格があるという。
「前者はリリカルで、後者はギャグ漫画みたいな感じ(笑)。スタジオに行くと切り替わるんですけど、どちらも本当の自分なんですよ」
変幻自在にさまざまなキャラクターを演じ分けるユーミンは、インタビュー中にスタイリスト人格〝ルネ先生〟になって、服の着こなしのルールを指南して笑いをとるひとコマもあった。ファッションをこよなく愛する彼女に、ここ最近モードの気分であるウェスタンにもリンクする2枚目のテーマ、〝Urban Cowgirl〟というタイトルについても尋ねてみた。
「ウェスタンは5年周期で流行りますよね。都会派という意味のアーバン、そしてワイルドさを表現するカウガール。両極あるのがいいと思ってタイトルにしました。知性だけでは脆弱で、野性だけだと乱暴ものになってしまう。そのバランスが絶妙でありたいという願いを込めています」

 

インテリジェンスと優しさの関係性

では、ユーミンの考える知性とは、どんな存在だろう?
「知性って、優しさだと思う。他者を知るために本を読んだり、いろんなひとの話を聞くことで想像力が養われ、相手がどう受け取るか、わかるようになるんです。もちろん自分が痛みを知らないといけないけどね。勉強ができるかどうかなんてことは関係ないんです」

 

DISC 2 | Urban Cowgirl

ユーミン 松任谷由実 荒井由実 ユーミンからの、恋のうた。

1  ふってあげる 1988
2  思い出に間にあいたくて 1987
3  ひとつの恋が終るとき 2011
4  もう愛は始まらない 1985
5  TUXEDO RAIN 1987
6  心ほどいて 1989
7  街角のペシミスト 1981
8  NIGHT WALKER 1983
9   Nobody Else 1988
10    夕涼み 1982
11    雨のステイション 1975
12    幸せはあなたへの復讐 1988
13    Cowgirl Blues 1997
14    オールマイティ 1983
15   フォーカス 1982

 

■恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 前編はこちら

松任谷由実 まつとうや・ゆみ

1954年生まれ。1972年に「返事はいらない」で荒井由実としてデビュー。結婚後は松任谷由実として活動し、これまで世に送り出したアルバムは全38作品。4月11日に、3枚のアルバムからなるベスト盤『ユーミンからの、恋のうた。』をリリースしたばかり。9月からは全国アリーナツアーが予定されている。

 

Photo: Mai Kise Hair&Make-up: Naoki Toyama Text: Ayana Takeuchi  Special thanks: Quale

GINZA2018年5月号掲載

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