恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 後編

恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 後編

ユーミンの愛称で親しまれ、同世代のリスナーだけでなく、リアルタイムで曲を聴いたことのない世代までをも広く魅了する国民的シンガーソングライターの松任谷由実さんがデビュー45周年を記念したベストアルバム 『ユーミンからの、恋のうた。』とともに登場。〝Pure Eyes〟、〝Urban Cowgirl〟、〝Mystic Journey〟と名付けられた3枚組、1枚各15曲、計45曲からなる構成で紡がれたコンセプチュアルな作品だ。「45周年だから45曲ね」そう語るユーミンに、それぞれのアルバムに込めた想いから、公私ともにパートナーである松任谷正隆さんとの出会い、曲作り、日常生活、そして大好きなファッションのことまで、たっぷりインタビューした。本誌では、 歌の世界観をGINZAの視点で撮り下ろしたヴィジュアルとともにお届け。

Key Word  “旅/人生”

真剣に作った曲が、私を支えてくれている ―yuming

エスニックの要素を色濃く反映させた、エネルギッシュかつ実験的なナンバーもユーミンの作風には欠かせない。
そうした楽曲を中心に収めたのが3枚目の『Mystic Journey』だ。ここでは、20年前に訪れた砂漠地帯での思い出から、人生を旅に紐づけて読み解いていく。
「”旅を、やめない。”というスローガンを掲げているので、人生を旅にたとえて選んだ曲も多いですね」
さまざまな土地を旅してきたユーミンにとって、思い出に残る地をひとつ挙げるとしたら―?
「今でも忘れられないのは、30代の頃に訪れたパリ・ダカール・ラリー。多くのインスピレーションを生む経験をして、あのとき行っておいて良かったなとつくづく思い返します。今では芸能人がアフリカに行くテレビ番組が放送されることは珍しくないけれど、その当時は仕事を休んでまで行くなんて『ありえない!』と周りに驚かれました」
ユーミンは当時すでにヒットを飛ばすスターだった。そんな彼女をアフリカに誘ったのは、「ヤーミー」と呼んでいた親友で冒険家の山本昌美さん。当時、ボディコンがまだ浸透していなかった時期に率先してアーバンなスタイルを満喫していたユーミンに対し、山本さんは無骨なジャンプスーツをさらりと着こなしていた。
「ヤーミーに初めて会った時、なんて華やかな人なんだろう!って衝撃を受けましたね。日焼けした肌にダボダボのつなぎを着て、煤けたグリーンのベレー帽を被って。私とは対極のワイルドさにひと目見て憧れたんです。どうしたら彼女のように服を着こなせるのか考えたときに、『そうだ、同じ生活をするしかない!』と思ったんです」

 

人、自然、ドラマ 過酷な環境の中で見えたもの

思い立ったらすぐ行動。ユーミンはツアーを中断して、旅をしながらラリー競技をするパリ・ダカール・ラリーについていくことにしたのだ。
国境をまたいで昼夜走り続ける過酷な環境で繰り広げられる人間模様や、道中での出来事に心打たれて、帰国後には人生観ががらりと変わったという。
「私が戦うべき場所は東京でのポップのレースなんだと再確認したんです。腹を決めたというか。私、今キャリア20年くらいのひとたちに老婆心ながらに言っていることがあって。そこからの20年は、体調の変化もあるし、本当に長いんだよって。まあ、更年期は大人の思春期だと思っているけどね(笑)。私はメンタルにきたので、45歳から50歳前半まではずっと暗く重い霧がかかっていて、朝起きるのも辛かった。でも、調子が悪くても仕方がないんだって言い聞かせていましたね。皆平等だから、順繰りにやってくるんだぞって。しんどい姿を人に見せても仕方なかったから、努力して普通に振舞っていました」
年齢を重ねることは、心も体も決して楽なことばかりではない。けれども前進し続ける。頑張っても状況がすぐに変わらないことはあるが、そこにどれだけのエネルギーを注ぐかで、登る階段の高さとそこから見える景色が違うのだと勇気づけられた。

 

変わらないためには努力し続けることが必要

「物事は必ずしもスロープ状じゃなくて、進んでいくうちに必ずプラットフォームがあって、ふと気づいたらフェーズが変わっているんです。野心的とか向上心じゃなくて、普通でいるためにも前進していないと、人間落ちる一方なんです。だから、これを読んでいるひとには、キープは前進だと思ってほしいですね」
ユーミンが前進するためにひたすら打ち込んでいたのは、曲作りとライブだった。けれども、同じことを続けていてもプロセスを変えなければ意味がない、とも語る。

「たとえば、ステージ上のパフォーマンス方法も時代によって変えていかなくてはいけない。80年代中盤までは、自分でイメージを描いて衣装をデザインしたり、スタイリストさんに服を探してもらっていました。それ以降は主人が本格的に演出にまわったので、ジャッジを仰いでいるのですが、ステージ自体も大掛かりで技巧もどんどん複雑になり、照明も進化していった。そこで今までと同じ素材の服を着るとしたら、昔のような見せ方だと客観性がなくなってしまう。人生もそれと一緒で、同じことをやるにしても状況を把握してマイナーチェンジしていかなければダメなんですよ」
ユーミンのMystic Journey(神秘的な旅)はまだまだ続いていく。ぶ厚い雲で覆われた更年期を抜けた先に見えたのは、一体どんな景色だったのだろう。
「体力はがくんっと落ちたけれど、浮き沈みの激しいホルモンバランスが安定したので、気持ちはすっと楽になりましたね。そして、年を重ねたということも受け入れることができたというか。更年期なんて、『おーい』(下を覗き込むように手をかざす)って感じです」

 

妥協せず生み出した愛しい作品群

夫・正隆さんと、とことんまで意見を交わし、セッションを重ね、世に送り出した「ままこはない」と表現する45曲を詰め込んだ愛の結晶とも言えるニューアルバム。その制作を終えての感想を最後に尋ねてみた。
「『ANNIVERSARY』という曲の歌詞に”ひたむきならば、優しい昨日になる”というフレーズがあって、今まさに私自身がそう感じています。過去に助けられるんです。真剣に打ち込んだことは、必ず自分を支えてくれる。2人の間に600曲を授かるまでにさまざまなドラマがありました。打ち込んだ仕事量も半端じゃない。だからこそ唯一無二の作品群が生まれました。できるうちにたくさん仕事をした方が絶対いい。若いうちは真面目を冷やかすひともいるけど、怠け者は絶対勤勉になれないんだからね。昔の大家さんが『たゆまず進んでくださいね』と教えてくれたんですよ。これも本当にいい出会いだったな」

 

DISC 3 | Mystic Journey

ユーミン 松任谷由実 荒井由実 ユーミンからの、恋のうた。

1  満月のフォーチュン 1990
2  破れた恋の繕し方教えます 1984
3  砂の惑星 1994
4  朝陽の中で微笑んで 1976
5  輪舞曲 1995
6  ツバメのように 1979
7  シャンソン 2013
8  霧の中の影 2004
9   AVALON 2016
10    BABYLON 1985
11    きみなき世界 1997
12    Man in the Moon 1990
13    SATURDAY NIGHT ZOMBIES 1987
14    無限の中の一度 1992
15   July 1993

 

■恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 前編はこちら
■恋と人生の話をしに、ユーミンに会いに行く 中編はこちら

松任谷由実 まつとうや・ゆみ

1954年生まれ。1972年に「返事はいらない」で荒井由実としてデビュー。結婚後は松任谷由実として活動し、これまで世に送り出したアルバムは全38作品。4月11日に、3枚のアルバムからなるベスト盤『ユーミンからの、恋のうた。』をリリースしたばかり。9月からは全国アリーナツアーが予定されている。

 

Photo: Mai Kise Hair&Make-up: Naoki Toyama Text: Ayana Takeuchi  Special thanks: Quale

GINZA2018年5月号掲載

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