子供の頃、実家にあったバットマンの人形。頭の部分はプラスチック製で、顔から下の部分は布製で作られていて、私たち子供のお気に入りだった。ハードに人形遊びをするうちに、足の部分が内側にぐにゃりと変形してしまった。男らしく強いバットマンの印象とはかけ離れたその内股のプロポーションに、家族は人形のことを「ニセのバットマン」と呼んでケラケラと笑っていた。そんな思い出が蘇る、この気の抜けたぬいぐるみたち。
2年ほど前、若手アーティストたちが出展するブックフェアで出会ったこのぬいぐるみは、私が会場に着いた頃には完売となっていた。キャラ好きの人には見覚えのあるものばかりだろう。正直、これをGINZAのWEBで取り上げるのって大丈夫なのかと不安はある。このたびユトレヒトで100体(!)を展示する個展が開かれるとのことで、製作者であるアーティスト長谷川有里さんと彼女の作るぬいぐるみたちに会ってきた。(大丈夫、きっとこれは愛に溢れたポップ・アートだから。と信じて。)
GINZA: く〜! PEZとか集めてたな〜、バッ◯ス・バニーに、セ◯ミ・ストリート、人形持ってたよ…懐かしい。しかしみんな目から魂が抜けたようなゆるい顔だね。小さい頃からモチーフになるようなキャラクターが好きだったの?
長谷川有里: そうかも。キャラとは言っても原体験として最初にやっぱりキン消し(※キン肉マン消しゴム)ありきなんだけど。ばあちゃんが遠出すると、どこからかキン消しの偽物をまとめて買ってきてくれるんだけど、キン消しって基本的にガチャポンで売ってるものでしょ? だから本物はカプセルに入っているはずなんだけど、なぜかおばあちゃんが買ってくるのはビニール袋にまとめて5、6体入っているやつで、子供ながらに「絶対偽物だ!」とわかってばあちゃんには内緒で自分のコレクションとは別のところに保管してた。でも今思うとその子達が可哀想で可哀想で…
GINZA: ほほう、なんだか今の作品につながるようなエピソード。オリジナルのものを愛しすぎて変形してしまったり、オリジナルになりそこねたものたちのビザールな哀愁漂う魅力ってすごくよく分かる。最初からぬいぐるみを制作していたの?
長谷川有里: 最初は西海岸のスケートカルチャーに影響を受けて平面作品を作っていたんだけど…何か新しい事を始めたいなと思って、ぬいぐるみを作り始めました(笑)。最初に影響を受けてたのはスパイク・ジョーンズだったかな、BEASTIE BOYSの『Sabotage』のPVとか。あんなに本気でふざけていいんだ、っていう…
LAに滞在しているときに、映画の撮影をボーっと見ていたらスパイク・ジョーンズがいきなりその場に現れたことがあって。興奮してチビリそうになって、「スパイク・ジョーン ズじゃん、アンタ、何してんの!」て話しかけたら、「君こそ何してんの!?」って言われたの。その夜はアメリカから国際電話で三重県の実家に電話したよ(笑)。
※スパイク・ジョーンズ監督の「sabotage」でビースティー・ボーイズが演じた刑事3人はぬいぐるみにもなっている。スパイク愛。