12 Dec 2021
北海道の幻の島「ユルリ島」を写したウェブサイトが誕生。写真家・岡田敦が見つめた海と霧と馬

北海道は根室半島の沖合にある、ユルリ島。メディアが立ち入ることのほとんどなかったこの島の姿を10年間に渡って紡いできたのが、写真家・岡田敦だ。そして、今回中心となり地域と一緒に手がけたウェブサイト「YururiIsland Website」は、まるでアートギャラリーのように、美しく神秘的な世界を見せてくれる。
人間は地図の全てを知っているのだろうか?どんなに時代が進んでも、人里と切り離された世界がまだある。また、かつて人がいた土地でも、今は名前を残すのみとなった場所だってある。しかしそこでも時間は生きている。歴史から消えても、海や風や草原は、ときに人の痕跡をも巻き込みながら、それぞれのリズムで時を重ねて行く。
ユルリ島は、まさしくそんな場所だ。
根室半島・落石地区の港からわずか2.6km。半世紀前に最後の住人が去り、昆布漁のために連れてこられていた馬たちだけが残ったのだという。
今、ユルリ島は北海道指定の天然記念物。人の上陸は厳しく制限されていて、その存在は海の向こうに浮かぶ島影で思い出されるのみ。−−だったのだが、この島に魅せられた岡田敦氏が特別に許可を得て、10年間にわたりユルリ島の情景を撮影し続けた。
木村伊兵衛写真賞も受賞している岡田氏が出合ったのは、海風に吹かれる、今や野生となった馬たち。霧の中に揺れる草原に、ときには真っ白な雪原。そして、静かに打ち寄せる波…。
「YururiIsland Website」で繰り広がるのは、神秘的で静謐な世界だ。写真だけでなく映像も掲載されていて、気鋭の音楽家haruka nakamuraも参加。島の四季をおさめた4本のショートフィルムは、ただただ美しく、行ったことのない場所なのになぜか懐かしいような、胸が切なくなるような…そんな気持ちになる。
このサイトは「旅情をそそる」というのとは違って、もっと根源的ななにか、忘れられた過去や、野生への憧れのようなものを抱かせる。この地球上の、しかも日本に、こんな世界が存在しているということがなんだか嬉しく、神聖な心持ちすらしてくる。これは、岡田氏の写真の芸術性のなせるわざだとも思う。
だから、GINZA読者のみなさんにもぜひ、ギャラリーにアート作品を訪ねるような感覚で「YururiIsland Website」を見に行ってみてほしい。
また、2022年1月12日(水)〜3月13日(日)には北海道の帯広美術館にて岡田氏によるユルリ島の作品が展示される。
【ユルリ島ウェブサイト Yuriri.Island|The island of lost world】
ウェブサイト: https://www.yururiisland.jp
インスタグラム: https://www.instagram.com/yururi.island/
【北海道立帯広美術館「道東アートファイル2020」】
会期: 2022年1月12日(水)〜3月13日(日)
住所: 北海道帯広市緑ヶ丘2番地 緑ヶ丘公園内
開館時間: 9:30〜17:00(入場は16:30まで)
Tel:0155-22-6963
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日が休館)
*同美術館開館30周年記念特別展「道東アートファイル2020」の一環として岡田敦氏の作品を展示。
【アーティストトーク】
日程: 2022年1月15日(土)
時間: 14:00〜15:00
*岡田敦が作品「ユルリ島の馬」について解説。
*要観覧券、要予約、先着25名。
Text: Motoko KUROKI