ウィットを効かせた予想を裏切る発想で、いつも目が離せない〈バレンシアガ〉。今季は身の回りにあるおなじみの既製品やベーシックなアイテムに焦点を当て、それらの要素がコレクションに隠されているらしい。よくよく見るとああ、あれね!と合点がいくポイントが多数。GINZAでおなじみの自称モード界のご意見番プロフェッサー栗山が、個人的に気になった10の発想源をご紹介する。
〈バレンシアガ〉に隠された10の謎 2018年春夏コレクションレポート Paris01
1. 服+服
シャツの上からロングスリーブのTシャツを肩から巻いているかと思いきや、シャツの後ろ身頃にTシャツがくっついている。Tシャツに体を通し、前にシャツを垂らして着ることも可能。前にトレンチコート、後ろにデニムジャケットが合体したタイプも。こちらもいずれにも体を通せる。他にオペラコート+セキュリティベスト、ナイロンパーカ+デニムベスト、長袖シャツ+半袖シャツなどの組み合わせがあり、「デュアル」(二つから構成される)シリーズと呼ばれている。
2. ×〈クロックス〉
あの〈クロックス〉のソールが、極厚に!散りばめられたチャームも国旗、花、動物に混じって鋭利なスタッズや〈バレンシアガ〉のロゴなど、本家にはありえないモチーフが。
3. お土産品
パリの免税店やお土産屋でよく見かけるご当地名物をモチーフにしたお土産品が、ジュエリーやチェーンストラップに。
4. スクリーンセーバー
レザーのパンツにプリントされているのはアルプスを思わせる美しい風景。完璧すぎてまさに絵に描いたようだが、こういうのどこかでよく見る…それはスクリーンセーバーのサンプルとしてPCにデフォルトで用意されている画像だった。他にも海に沈む夕日やお花畑などがラインナップ。
5. 新聞・お札
80年代によく見かけたなつかしの英字新聞のモチーフ。お札はドルの他にユーロもあり。
6. アウトドア用パンツ
太ももから膝あたりにファスナーがついていて、ショート丈にもなるアウトドア用コンバーチブルパンツをご存知だろうか。そこからインスピレーションを得たこのパンツは3つにわかれていて、ファスナーでつながっている。丈を変えることはもちろん、素材や柄の異なる別のパンツのパーツを組み合わせることも可能。
7. 店先の日よけ
パンツの上から斜めに布がかぶさっているデザインだが、その縁に何か見覚えはないだろうか。そう、店の軒先にある日よけである。〈バレンシアガ〉の旗艦店がある通りの名前「Avenue Montaigne」と書かれているものも。
8. 日傘
フリンジ付きのレトロな柄のスカートは日傘から発想を得ている。布の切り替えもそれっぽい。
9. スタンダード
これはオペラコートのフロントに縦に切り込みを入れ、切り離した部分をストールのように首に巻きつけるようなデザイン。ボディはファスナーで開閉できるようになっている。その他極端にタイトなツインセットやストレッチを効かせたツイード、シャーリングを施したポロシャツなど、進化したスタンダードアイテムを見ることができる。
10. バイク用のトップケース
バイクの後ろにつけるハードケースがインスピレーション源。頑丈な作りでスーツケースに装着できるようになっている。
このように、風景と化し、すっかり気にも留めなくなってしまっていたり、一般に「ダサい」と隅に追いやられているような存在を堂々とモードの世界に招聘。「100%見たことのないものなど存在しない。知っている何かの組み合わせや変化のさせ方で新しさを感じさせるのがスマートなのだ」。そんなことを言わんとしているのだろうか?ともかく面食らい、戸惑いながらも今季も〈バレンシアガ〉の術中にはめられる。すっかり価値観がひっくり返り、「おしゃれ!」という気にさせられてしまうのだった…
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プロフェッサー栗山
GINZAで独断と偏見による論を自由気ままに披露している自称モード界のご意見番。その自らの好みを貫き通すファッションは周囲に「怖い」と恐れられがちで、「怖い女」の異名もとる。
Text&Edit: Itoi Kuriyama