公式スケジュールに載っているブランドのショーだけがパリコレではない!その合間をぬって、世界各国のたくさんのブランドがプレゼンテーションやショーを行なっている。GINZAでおなじみの自称モード界のご意見番プロフェッサー栗山が買い物と美食の時間を削って潜入捜査した。
まず向かったのは、アクセサリーブランド〈House Of Malakai〉のショールーム。〈リック・オウエンス〉2017-18年秋冬コレクションはショーを儀式と捉え、司教や主教が典礼の執行時にかぶる冠「ミトラ」をTシャツとスウェットで製作し話題を呼んだが、そのヘッドピースを手がけたらしい。
〈リック オウエンス〉2017-18年秋冬コレクション
デザイナーのMalakaiさんに話を聞くことができた。
〈House Of Malakai〉デザイナーMalakaiさん
-どのような経緯で〈リック オウエンス〉とコラボレーションされたのでしょうか?
インスタグラムで私の作品を見たリックのスタッフから連絡をもらいました。実は以前、リックと彼の妻、ミシェル・ラミーと共通の友人がいて、ディナーを共にしたことがあったんです。彼らはその時点で私だと気づいていませんでしたね(笑)。彼の美しい世界観に参加することができ、すばらしい体験でした。
-Malakaiさんの感覚と〈リック オウエンス〉には通じるところがありそうですものね…そもそもどうしてアクセサリーブランドを設立しようと思われたのでしょうか?
私はゴシック、パンク、フェスティバルレイブシーンなど、さまざまなコミュニティに属し、パフォーマンスアートやDJなどをやっていました。その際、自分やスタッフのためにコスチュームもたくさん作ったのですが、アクセサリーに多くの反応があったんです。アクセサリーは壮大なコレクションを作り上げなくてもインパクトを与えることができるので手始めにいいと考えました。これまでにビヨンセやケイティ・ペリー、リアーナなどのためにヘッドピースをデザインしました。
-錚々たる歌姫たちに!すごいですね!ブランドのコンセプトはありますか?
古代の神秘さと都会的なストリート感覚の融合だと思います。私はインドネシアのバリにスタジオを構えています。バリは神秘的で、高い精神性があり、想像をかきたてる場所です。住まいはベルリンなのですが、アンダーグラウンドなサブカルチャーがあり、かつて住んでいたサンフランシスコを思い出させる、親しみのあるホームです。双方で体感したことを組み合わせてものづくりをしているんです。たとえばストリートのハットやバイザーに羽根のモチーフをあしらってひねりを加えたこちらの商品はそれがわかりやすいかもしれませんね。
-今後の展望を教えてください。
セレブリティとの仕事は継続しつつ、アクセサリー以外にも、服やバッグにもコレクションを拡大し、いつかショーをやってみたいですね。頭からつま先まで〈House Of Malakai〉のヴィジョンで埋め尽くしたいです。
全身〈House Of Malakai〉ワールド、かなりのインパクトがありそうだ…そんな思いを胸に秘めながら次に向かったのは〈DUMITRASCU〉。Andra Dumitrascuが2016年にスタートしたばかりのベルリンベースのブランドだ。ブランド自体は初耳だったが、ストリートキャスティングで注目を集めているWalter Pearceがスタッフとして名を連ねていたため、興味本位で集合場所のポンピドゥーセンターへと向かった。
集まったのは、ほんの10人ほど。スタッフに案内され、裏通りのカフェへと連れて行かれる。どうやらここがバックステージらしい。
だらだらと店前に並ぶ、たしかに味のあるモデルたち。そしてエスニックなムードが漂いつつも、スポーティな要素もある服ではありますが…って、えっ?これだけ?と動揺していると、今度は地下鉄の入り口へと誘導される。聞けば、「これから切符を買って来ますので、地下鉄のホームでショーをご覧ください!」とのこと。
あちこち移動している間に残念ながら時間がなくなり、本番は見られなかったのだが、その後ゲリラショーを無事決行できたらしい。
有名ブランドであれば大混乱を招くのは間違いないが、観客がまばらな新人だからこそできる演出。ショータイムはラッシュアワーに設定されていたので、たまたまホームにいた人々も巻き込んで話題にしてもらおうという目論見もあったに違いない。
オフスケジュールのブランドで最後に紹介したいのは日本発の〈IKUMI〉。本誌2017年11月号「東京ブランドニュース」で取材した際、30歳を機に、2018年春夏より発表の場をパリへ移すと聞き、ぜひショーを見たいとデザイナーのikumiさんにお願いしていたのだ。
会場は地下にあるレストラン。おどろおどろしい音楽と共に、ショーが始まった。
「異次元のIKUMI星に住んでいる妖精たちが地球にきた」というテーマで、妖精や幽霊のイメージをシースルーや刺繍で表現したという。たしかに、刺繍はよく見ると幽霊の絵だ。おおこわい。そして服に負けず劣らず強烈なインパクトを放っていたのがヘアメイクだ。
GINZAでもおなじみのUDAさんがメイク、NORI TAKABAYASHIさんがヘアを手がけていて、耳がとんがっていたり、ツノが生えていたりする。これがより一層ショーに漂う不気味さに拍車をかけていた。
なんだかんだ言ってパリコレにはやっぱり人が集まる。そして私のように公式スケジュール以外にも関心を持つもの好きも世界中からたくさんやって来る。告知もインターネットでなんとかなる。協会の面倒な手続きを経て登録せずとも、以前よりはゲリラでショーをしやすくなったに違いない。おとなしくショールームで展示会をするよりは爪痕を残せるかもしれず、見る者も予定調和の壮大なショーとは違い、ハプニングを楽しめる面もある。が、まだアンダーグラウンドな存在だからこそできる自由な表現に驚かされるばかりではいけない。一番重要な服のクオリティ、魅力も冷静に判断しつつ、ブランドの成長に伴って今後どのような展開を見せていくのかを注視していかねばなりませんね、と思うのだった。