女の子にとって象徴的な存在であるバッグは、物語のなかで重要なキーアイテムとなることがしばしば。思いの詰まったバッグにまつわる音楽を荏開津 広さんが紹介。
【MUSIC】バッグにまつわる5曲:selected by 荏開津 広
The Marvelettes
マーヴェレッツ『プリーズ・ミスター・ポストマン』ユニバーサル ミュージック
4人編成のガールグループ、マーヴェレッツのヒット曲で1961年、チャートの1位まで上りつめた。彼女らを擁するモータウン・レーベルの特徴を兼ね備えた曲で、リズムははっきりしたダンスナンバーだが、遠距離恋愛の恋人からの手紙が郵便配達人の持つバッグに入っているだろうか?と思案するという罪のない恋の歌。63年にビートルズがカヴァーして日本でも知られているが、男性が女性からの手紙を待つ歌になったというのもLGBTの時代からするとのんびりしてるような。
Rod Stewart
ロッド・スチュワート『ザ・ベスト1000 ロッド・スチュワート』ユニバーサル ミュージック
ロッド・スチュワートはモッズシーンの“フェイス”として1960年代ロンドンの街角で頭角を現した。モッズはイタリアンメイドのスーツを着こなし、ジャズを聴くという10代のシーンだった。つまり、ロッドはR&Bやブラックミュージックを歌える白人シンガーとしてデビューしたので、それが70年代以降の華々しいディスコヒットとつながる。そんな彼も、この曲でのハンドバッグは物質主義の象徴で、若い女性にお金より大切なものがあると耐乏生活を説く。ロッド初期のヒット作。
小沢健二
『Eclectic』ユニバーサル ミュージック
2002年のアルバム『Eclectic』に収められたコンテンポラリーダンス~シティポップには“バッグ”がドラマチックな誘惑のサインとして登場する。東京郊外の名家に育った少年はアコースティックギターを抱えた早熟な少年・少女たちのバンド、フリッパーズ・ギターで颯爽と登場―東京大学に入学し、小山田圭吾とのデュオになって2枚のアルバムをリリースしソロに。大人になった彼は日本の90年代を定義づけるような幅広い活動へ向かった。「麝香」はブラックミュージックのみならず歌謡曲という90年代以前の日本の音楽の才能たちへのオマージュでも。
Blossom Dearie
『Our Favorite Songs』 *廃盤
一度聴いたら忘れられないガーリーな声のジャズシンガー。1950年代にパリでのグループ活動での成功後、ソロに転身、ニューヨークやロンドンのサパークラブでのライヴ活動を長年続け、そのライヴ録音をレコードとしてリリースした。この曲は、ブルースという名の男友達のファッションをアイテムごとにダメ出しするというユーモラスな曲。しかも(多分)ゲイが多かったジャズシーン界隈のファッションや人間関係を想像させてくれる優れた小品。他の曲でもそうだが、残されたライヴでは、彼女のパフォーマンス中の客とのやりとりも魅力あふれる聞きもの。
aiko
c/w「猫」「テレビゲーム」ポニーキャニオン
シンガー・ソングライター、aikoの2004年のヒット曲。ここでの“かばん”は、実在するバッグではなく、自分の恋の思いの入れ物、というJ-ポップのなかでも変わったメタファーに、曲は複雑なコード進行かつ予想のつかない展開。アメリカやヨーロッパのチャートからの音楽的な影響が考えにくいユニークな個性を誇る。そして、それはaikoという一見どこにでもいそうな女子が、40万枚というヒット曲をたたき出すシンガーという事実とつながる。そうしたことを含め、女子の世界やそのポテンシャルについての不思議な魅力をもった曲。
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荏開津 広
執筆/DJ/京都精華大学非常勤講師。ポンピドゥー・センター発の映像祭『オールピスト京都』ディレクター。