08 Dec 2020
〈サカイ〉と堀江敏幸『その姿の消し方』。本とコート、未来のカノン vol.3

長く着られる飽きのこないお気に入りのコートに似合うのは、未来のクラシックになりうる繰り返し読んでも古びない小説だ。アウターの大きなポケットは読みかけの文庫本の定位置になり、もう行き場に困ることもない。記憶に残る1冊とスタンダードとなる1着。時間の重みを感じさせる“未来のカノン”に、豊﨑由美さんの選書を通して出合う。#本とコート、未来のカノン
『その姿の消し方』
堀江敏幸
フランス留学時代、語り手の《私》は1枚の古い絵はがきを入手する。差出人の名はアンドレ・Lで、名宛人はナタリー・ドゥパルドンという名の女性。奇妙な外観の建物の写真の裏側に記された詩篇に心惹かれた《私》は、以来、古物市に出くわすたびにアンドレ・Lなる人物の絵はがきを探すようになる。やがて2枚目が見つかり、さらにもう1枚見つかり、謎の詩人に対する《私》の興味はいや増していき—。詩の意味や名宛人の女性の謎は最後までわからないままだけれど、むしろ、それがいい。謎が謎のままとしてある世界に宙づりにされる気分が決して悪くないことを伝える、堀江敏幸の静かだけれど声量豊かな語り口に浸ってほしい。(新潮文庫/¥460)
ベージュに紺の厚地のウールで切り替えたバイカラーのトレンチ。襟元もダブルに重ねてスタイリングを遊べるデザインに。歴史に裏打ちされたアイテムを、素材やディテールを重ねてアップデート。謎かけのように複雑なパターンでありながら、静謐でモダンな印象に仕上がっている。
コート ¥198,000(サカイ Tel: 03-6418-5977)/ニット ¥38,000(バウム・ウンド・ヘルガーテン | ユニット&ゲスト Tel: 03-5725-1160)/パンツ ¥69,000(アンスクリア | アマン Tel: 03-6805-0527)/メガネ ¥41,000(アンディ ウルフ | ブリンク ベース Tel: 03-3401-2835)/シューズ ¥100,000(ジェイエムウエストン | ジェイエムウエストン 青山店 Tel: 03-6805-1691)
豊﨑由美 とよざき・ゆみ
『週刊新潮』『婦人公論』をはじめとするさまざまな媒体に連載を持つ1961年生まれのライター、書評家。主な著書に『ガタスタ屋の矜持』『まるでダメ男じゃん!』『ニッポンの書評』、大森望との共著『文学賞メッタ斬り!』シリーズなどがある。
Book select&review: Yumi Toyozaki Photo: Naoto Kobayashi, Hiromi Kurokawa Styling: Sumire Hayakawa(KiKi inc.) Hair&Make-up: Hiroko Ishikawa Model: Katya G. Text&Edit: Aiko Ishii
GINZA2020年11月号掲載