センスのいい人の条件ってなんだろう?ファッションはもちろんのこと、生き方や考え方のセンスを磨くためのヒントを、キーワードを立ててさまざまな角度から探ります。
“エシカル”=道徳的なファッション。そのあるべきな姿とは?
「エシカル」とは直訳すると「道徳的」ということ。スウェーデンの女子高校生が始めた「Fridays for Future」というストライキを知っていますか?毎週金曜日、学校に行かずに国会議事堂前に座り、気候変動による危機を訴えている活動なんですが、それがいまヨーロッパをはじめ各地の学生たちに広がり続けているのです。政治家や大人たちがもの言わず行動しないことに対して、若者が業を煮やして声をあげている。私たちも彼女たちのように、エシカルについて“当事者”であることをもっと自覚するべき。食器用洗剤の量を少しでも減らすとか、日常の中のささやかなことでもいいんです。自分の一挙手一投足が、世の中のどこかにマイナスインパクトもプラスのインパクトも与えている。そう考え、自覚して行動する。一方「“エシカル”って言っている私、すてき」と流行でとらえて終わらせてしまうのが、いちばんセンス悪いです。
ファッションにおけるエシカルは、環境への配慮はもちろん、製造過程での児童の不法就労や労働搾取が行われていないかなどさまざまな意味合いを含みます。解決策の例としては最近だとカシミア糸の残り屑「カシミアフレーク」がダウンの代用素材として話題です。ただ、道徳的か否かをはかるにはいろいろな立場と見方があることは、意識していてほしいなと思います。たとえばエコファーは化繊素材で生分解しないから、土に還らない。織物などの伝統技術を継承するために親が子どもを生産現場で経験させてはいけないのか。環境や世の中のためになるからと購入したフェアトレードの服が、袖を通さないままクローゼットに眠っているのは果たしてエシカルなのか……。手前味噌で恐縮ですが、「Not Charity, Just Work(チャリティではなく、仕事です)」というEFIの理念に共感して立ち上げたブランド〈TÉGÊ〉で使うのは、アフリカ・ブルキナファソの工房と作った手織り生地。配色のセンス、手仕事の味がすばらしい。いいものを作ったり気に入ったものを身につけることが、結果的にエシカルにつながるのが理想ですね。僕がいま注目しているのは、ロンドンの29歳のデザイナーによる〈ベサニー ウィリアムズ〉。使用生地はすべて国産のリサイクル&オーガニック素材で、ホームレスなど社会的弱者とともに製作し、ブランドの収益の30%はフードバンクに寄付。そのうえコレクションを重ねるごとに、デザインが加速度的にかっこよくなっている。スマートにアップサイクルな服づくりをする世代が増え、それが当たり前になりつつあるのはうれしいことです。
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栗野 宏文
ユナイテッドアローズ上級顧問。クリエイティブディレクション担当。2014年春夏より、国連機関のフラッグシッププログラムであるEthical Fashion Initiative(EFI)と組んでアフリカメイドのエシカルファッションのブランド〈TÉGÊ UNITED ARROWS〉を立ち上げる。右のイラストレーションのサンダルはブルキナファソの生産者と作った生地を使用した今季のアイテムから。
Illustration: Jun Iida Text: GINZA