16 Jan 2017
「最近、日本のブランドってどーなの?」緊急ガールズトーーク! 『GINZA』エディターズチーム編

世界規模の人気を誇るブランド、それに続くと期待される注目の新人に、話題の90’sリバイバルや「裏原ストリート」「私的愛用ブランド」まで。ファッションを生業とする『GINZA』エディターズチームが日本のブランドについて、ぺちゃくちゃおしゃべり。
『GINZA』エディターズチーム
渡部かおり (エディター)
中島敏子 (『GINZA』編集長)
渡部 では、敏子さん。ジャーナリスト、スタイリストに続き、僭越ながら我々がトリを務めるということで。
中島 はい、ではさっそく。最近、来日中のファッション関係者に、「東京来たらどこ行くの?」って話をすると、最も多い答えが(藤原)ヒロシくんの「THE PARK・ING GINZA」。そしてスケシンの「C.E」(1)なのね。
1. 90’s「裏原」ブームを牽引した1人、スケートシングがトビー・フェルトウェル、菱山豊とともに始めたメンズブランド。
渡部 皆さん、こっちがびっくりするほど日本のストリート系ブランドに詳しいですもんね。彼らと話すとあらためて「裏原」というファッションカルチャーの魅力を再確認できます。
中島 メンズ中心だけど、クォリティが高くてカルチャーが背景にあり、バイクとかスケートとか音楽とか、着る〝理由がある服〟なんだよね。理由のあるグラフィックやリベット、ジッパーというディテールがたまらないみたいですね。
渡部 服作りの順番が全然違うから、成り立ちも違う。それが新鮮なのかもしれません。〈C.E〉はロシアでも大流行しているというし、世の90’sブームともリンクして「裏原」カルチャーにまた注目が集まっているということですかね。
中島 雑誌『relax』をやってた頃、一緒にページを作ったグラフィティのアーティスト(ROSTARRやMAMBO)が今、再びピックアップされてファッションブランドとコラボしてて、超久しぶりに再会する、なんてこともあるし。
渡部 グラフィティは次なる大ブームの予感がありますね。まあ、私もNetflixのオリジナルドラマ「The Get Down」にどハマりしてる口ですが……。エヘ。
中島 この前のパリコレで〈ジュンヤ ワタナベ〉のショーでもグラフィティモチーフが出てきたし、注目ですね。
渡部 ですねー。90’sやグラフィティは世界各国共通の流れですが、東京ならではの流行で気になることはありますか?
中島 「洋服を着るプロ」が作る洋服が売れてることかしらね。ヒロシくん(フラグメントデザイン)とのコラボでも話題になった〈クラネ〉(2)とか、〈UN3D.〉(3)、そしてなんといっても〈エンフォルド〉(4)。
2. 大手アパレル会社にて販売員からプロデュースまで幅広く経験した後、2015年に松本恵奈がスタートしたブランド。コンセプトは「オリジナルスタンダード」。
3. 元〈ムルーア〉のクリエイティブディレクター、荻原桃子が2016年に始めたブランド。個性や感性を大切にした大人のためのモードを提案。
4. 本誌の連載でおなじみ、植田みずきの〈エンフォルド〉。キャリアとラグジュアリーの間、「ドメスティックコンテンポラリー」のパイオニア。
渡部 デザイナー本人が可愛くておしゃれでビジネスセンスもあるブランドですね? ジュエリーブランドの〈ビジュードエム〉(5)もそうかな。
5. 2011年にMIOが立ち上げたジュエリーブランド。うさぎやフラミンゴなどチャーミングなモチーフをゴージャスなジュエリーに昇華。
中島 まさに。まず最初に服の専門学校へ行きパターン引いて勉強してという経歴ではなく、洋服が大好きでファッション業界に入り片っ端から着倒してたら、気がついたら作る側にいた……みたいな感じだよね。彼女たちはストリートの観察力も半端なく鋭い。どことなくモテそうな隙や、今流行りの〝こなれ感〟がちゃんと入ってるのよね……。
渡部 インスタグラムのフォロワー数もすごいし、自分自身が広告塔っていうSNSの活用法も上手ですよね。「私もすぐ同じの着たい!」って気持ちに直球ストレートで響く。彼女たちの活躍の土俵は、身近なのに憧れちゃう「読者モデル」という日本の雑誌特有の文化だと思います。
中島 確かにね。そしてやはり「着るプロが作るブランド」の究極は梨花ちゃんの〈LI HUA〉でしょうね。アジア圏では〈メゾン ド リーファー〉(6)のショッパーさえ大人気という噂。服も生き方もいつも全部、女の子の憧れなんだよね。
6. 梨花が徹底したこだわりで作るリアルクローズ。いつ行っても新しい工夫を欠かさない代官山のショップはいつもファンでいっぱい。
渡部 佐田真由美さんの〈エナソルーナ〉もですよね。今年でなんと10周年ですよ! ひとつのブランドを10年続けるって本当に難しいことだから。
中島 背景や方向性はちょっと違うけど、スタイリストの中山まりこさんの〈マディソン ブルー〉とか、ヴィンテージショップのバイヤーを長年務めていた内田文郁さんの〈フミカ_ウチダ〉(7)、ファッションプレスから転職した下中美穂子さんの〈ハウス_コミューン〉(8)も「服を着るプロが作ったブランド」枠かなと。もともと洋服になじんでいる人だから、説得力が違う。
7. ヴィンテージショップ「ジャンティーク」の元バイヤー内田文郁が2014-15年秋冬シーズンより、自身の名前を冠にスタート。
8. NYブランドのPRマネージャーとして活躍した下中美穂子がディレクターに就任し、2014-15年秋冬シーズンから再始動したブランド。
渡部 皆さん、見事に女性ですね。東京に住み、仕事して子育てしておしゃれが大好きで……。「私と同じ!」という共感ポイントが桁外れなのかも。
中島 本当にねー。東京の女性に寄り添って服を作るという意味では、セレクトショップ発のブランドもあるよね。
渡部 これもまた日本特有の現象かもしれません。最近、若手スタイリストの間でユナイテッド アローズ発のブランド〈アストラット〉(9)の黒パジャマパンツをはいてる人がまあ、多くて。私も真似して買っちゃった。
9. 精神的に成熟し、アートを日常で楽しむ大人の男女がターゲット。モダニティを追求したデイリーモードがそろう。
中島 ビームスの〈RBS〉(10)は「東京・原宿のど真ん中!」と思わせてくれる服だし、〈アンルート〉は着やすいトレンドとしてワードローブの味方だし。〈アクアガール〉(11)は女らしさとモードを両立できる。ザ シークレットクロゼットから生まれた〈CYCLAS〉は大人の女性のラグジュアリーな日常着だし。どこもブランディングも上手で、セレクトショップならではの知見があるのよね。
10. 2015年、〈レイ ビームス〉から誕生し、高い人気を誇る。ワンランク上の上質な素材感とひとひねり加えたディテールが特徴。
11. 女性らしさをキープしながら、旬のモードも存分に楽しみたい東京ガールズにとことん寄り添ってきたオリジナルブランド。
渡部 ドゥロワーの元ディレクター吉武味早子さんが手がける新ブランド〈ブラミンク〉(12)も東京の大人のためのコレクションで、本当にワクワクしました。しかし、東京ってファッションを楽しむことにおいてなんと恵まれた環境なのでしょうか。実際、全然おしゃれじゃない人ってもうあんまり見かけない気がしますよね。
12. 元ドゥロワーの吉武味早子による待望の新ブランド。先月、南青山に旗艦店「ブラミンク 青山店」がオープンしたばかり。© TARO MIZUTANI
中島 そこはファストファッションの功績ですね。確かに功罪はあるだろうけど、全体の土俵をガツンとあげてくれた。クリストフ・ルメールのデザインが〈ユニクロ〉で買えちゃうんですから。〈H&M〉やアダストリア系の服が自分の若い頃にあったらなぁって思うもの。
渡部 〈GU〉に行けば気楽にトレンドが手に入りますしね。自分のお金で買って、トライ&エラーを繰り返すおしゃれレッスンですね。
中島 あとね、マニアック路線のブランドも面白いなあと思ってるの。単体のアイテムをとことん研究する人たち。〈ループウィラー〉のスウェット、〈エイトン〉の白T、〈クリーナ〉(スカート専門ブランド)のスカート、〈ターヴ〉のニット、〈ウエムロ ムネノリ〉のシャツ……。ニッチな技術とデザインのオタクな服作りもいかにも日本らしいかも。
渡部 世界に通用するクリエイションにも心躍らされますが、東京の女の子に寄り添って作られた技術のある服は心地よい。いつもありがとう!の気持ちでいっぱいです(笑)。
中島 心地よさって大切。今の時代、おしゃれ以外のことが大変すぎるから! 多くの人にとって、ファッションは手段であって目的ではないと思うんです。この国でスマートに生きていくには、無数にあるアプリを使いこなさなきゃいけないし、災害が来たり世界情勢が動いたらちゃんと察知してサバイバルして、その上で人生を楽しむための服なんだから。
渡部 最後、壮大な話になりましたけど、いろんな意味で、アイフォーンに負けないような服を作ってください!というこれまた壮大なお願いをしてガールズトーク、お開きとします。
『GINZA』というフィルターを通して広~い視野から考えてみた
『GINZA』エディターズチーム
渡部かおり
(エディター)
今回のガールズトーク担当編集。流行りの90’sが青春ど真ん中。愛用の東京ブランドは〈トーガ〉と〈サンシー〉。
中島敏子
(『GINZA』編集長)
『GINZA』を率いてはや6年目、久しぶりにパーマかけて孤立中。夢は「中島閣下と呼ばないで」という曲でのデビュー。
Illustration: Kahoko Sodeyama, Yutaka Nakane
Text&Edit: Kaori Watanabe(FW)
GINZA2016年12月号掲載