03 Oct 2016
ファッションはどこに向かうのか? think now fashion 01 -「High and Seek」ディレクター・夏川イコさん

コレクションからのトレンド提案、ストリートからの流行……同時多発的に新陳代謝を繰り返すファッション。その奥には時代の価値観や感性、私たちがまだ気付いていない、未来への萌芽が潜んでいる。ファッションの仕事に情熱を持って取り組んでいる方をゲストに、ファッションの今と未来を聞く新連載。第1回は、試着に試着を重ね、厳選されたアイテムのみを取り扱う、超偏愛的なセレクトショップ「High and Seek」のディレクター兼バイヤー、夏川イコさんが登場!聞き手はGINZAのおしゃれ総長、プロフェッサー栗山です。
--『ギンザ』では、今年の秋冬シーズンは「おかしなバランス」のシルエットやスタイルが増えていて、極端な方向に向かっているのではないか、モード界が変わり目に来ているのでは、と捉えています。その兆候は感じますか?
かつてのような大きなトレンドがなくなり、業界内のひとたちが焦燥感にかられて「変わり目だ」と訴えたり、世代交代をしたりして自助努力をしているところがたぶんあるのではないかと思います。仕組みを変えるとなると誰かひとりが「うちだけが儲かればいいや」とやるのではなく、業界全体が一緒にならなければいけないことなので、なかなか難しいですよね。私も何かできたらいいな、とは思っているんですが…
--今ファッションに停滞感がある、ということですね…勢いがあったのはいつごろまでだったんでしょうね…
90年代は最高でしたよね。そのころ私はただのファッションが好きなひとだったのですが、アレキサンダー マックイーン、ヘルムート ラング、ジャン コロナ、ジョン・ガリアーノ、コム デ ギャルソンなどをめちゃくちゃ買っていましたね。マルタン マルジェラやアン ドゥムルメステール、ドリス ヴァン ノッテンなどアントワープのブランドも。ものすごく楽しかった。コレクション雑誌や、読み物が多い『流行通信』『ハイファッション』が大好きでした。
--インターネットはまだ普及していませんでしたから、情報がなく、好きなひとは自分でがっついていっていましたよね。自然とは入ってこなかった。
あとはファッションがアイデンティティだ、という考え方がすごく強かったですよね。
--ファッションは自己表現、というやつですね。
年上のひとたちも個性的でした。えーっ!と驚いてしまうような格好をしたひとがたくさんいたし、それがおもしろい時代でしたね。
--その勢いが今は失われていると…
インターネットの普及で情報が簡単に手に入り、知ったような気分になってしまうんですけど、それはあくまで表層的な情報なんですよね。その先を伝えるのは店側やメディアの課題でもあると思います。あと、日本の場合はハイブランドとファストファッションの中間をいくドメスティックブランドの存在も大きいかもしれませんね。海外には見られないマーケットだと思います。まあまあ高いのだけど、ちょっと背伸びすれば買えるくらいの価格帯。
--ファストファッションは「あえて手軽なものを買ってるんだ」という自覚があると思いますが、中間層のブランドはきれいにパッケージングされているからそこで満足してしまって、ハイブランドへの興味が出てきにくいかもしれない。
中間のブランドはハイブランドのムードをうまくすくいとっていますからね。なので元ネタを知らずに着ている人も多いはず。でも、お金がなくて買えないからそういうエッセンスだけでも取り入れたいとがんばっている若い子は好きなんですよ。ファッションを楽しんでいますから。
--売り手が中間のブランドを出しちゃうから、高みをめざすがんばりを食い止めている感じもしますが…自分の足で探すとか、ファッションにまつわるいろんな楽しみが手軽に手に入るのも考えものかもしれないですね。その分、感動やそこに至るまでの思考みたいなものが省かれてしまうかもしれない。
しかもハイブランドより手がかかっていないから世にでるのも早い。性善説じゃないけど、プライドをもってやってほしいところはあります。
--日本は中間層が分厚い、ということもありますけどね…
海外だと、階級で行く場所も違いますよね。日本の場合はそのへんもあいまいです。昔は銀座とかはちゃんとした格好をしなければ歩いてはいけない、みたいなこともありましたけど、そういう背筋が伸びるような場所も減りましたよね。最近は内容が似たり寄ったりなファッションビルばかりが増えて混乱します(笑)。 この均一化の流れは、それぞれの街を訪れる楽しみを奪うのでよくないとは思います。
--これからこの状況が変わる気がしますか?
ハイブランドとファスト的なものの我慢比べが続くのか、うちの店みたいなものが細々残っていくか…やっぱり手作りの文化とか、ちゃんとしたものをちゃんと届けるという良さに気づき始めているひともいますから、そこがどこまでがんばれるか、にかかっているのかもしれません。
--本物を好むひと、というのは常にいるかんじもします。
うちにいらっしゃるお客さまはそうですね。16万円もするジーンズを置いているんですよ。でもそれだけ手がかかっているんです。実際に買って着てみると、全然違うということがわかります。衣料品が溢れているせいか、いいものを手に入れるにはそれ相応のコストがかかる、という当たり前のことが伝わりにくくなっている。「買う」ということは、売り手の理念やものづくり、クリエイティブを応援することです。自分くらいの年齢になると、考えて買い物するようにはなってきます。結局は、自分の行動が社会の未来を創っていくので。
--ふつうは自分のことだけで、そこまでは考えないでしょうね…でもインディペンデントの場合はとくに、このブランドにお金を払う、という気持ちはありますね。どこの会社がやっているか、と背景も気にするかもしれません。
お布施(笑)じゃないけど、買うことで応援する、という気持ちは大事だと思います。私は買い付けをするときに、自分とデザイナーとの考え方がずれていないかということを確認するために直接デザイナーと話すし、インタヴューなどを読むようにしているんです。デザイナー自身に信念がないと、感動するものって生まれてこないです。
--商品を一点だけ見てもわからないですもんね。
いいな、と思ったら掘ってみるといいと思います。その努力がすぐにはかたちにならなくても、必ず自分に返ってきます。投資としていろいろトライしてみるのはいいことです。悪趣味でも奇抜でもなんでも、私はファッションを好きなひとは好きなんです。1日のほとんどは服を身につけているのだから、こだわらない、ということの方がわからない。服は文化であり、着ていて楽しいし、心を豊かにもしてくれます。当然こだわっていた方が、海外ではとくに、ひとも優しく接してくれます。
--ひとと会ってまずはじめに目に飛び込んでくるのは外見ですからね。ファッションには生き方が出ますよね。
「これでいいや」と洋服を身につけていると、そのいいかげんな気持ちが見る人に伝わってしまいます。そういう自分を大切にできない人は他人からも大切にされないと思うんです。今はあらゆる場所で手軽なものが出回っていますが、それらで簡単にすますのではなく、ひとつひとつじっくりとこだわってみる。そうした姿勢はファッションだけではなく、生き方すべてに波及していくはずです。全力で生きるって楽しいですよ!
High and Seek
東京都渋谷区渋谷1-3-18
VILLA MODERNA C-408
highandseek.tokyo@gmail.com
http://highandseek.blogspot.jp
プロフェッサー栗山 Professor Kuriyama
GINZAで独断と偏見による論を自由気ままに披露している自称モード界のご意見番。その自らの好みを貫き通すファッションは周囲に「怖い」と恐れられがちで、「怖い女」の異名もとる。
Text&Edit: Itoi Kuriyama
Photo: Keta Tamamura