ブランド初の旗艦店がオープン。
注目される“新しい”メンズウェアの躍進
“男性のための新しい日常着” をコンセプトに2013年よりスタートした〈オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)〉のブランド初となる旗艦店が、南青山にオープンした。〈イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)〉に代わっての登場が話題となった6月のパリコレクション初進出に続き、当店舗では開店初日からアイテムが多数完売するなど、その注目度の高さは明らかだ。南青山3丁目のみゆき通りには表参道駅側から奥に向かって〈イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)〉、〈プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)〉、〈ハート(HaaT)〉、〈ミー イッセイ ミヤケ(me ISSEY MIYAKE)〉など他ブランドも数多く旗艦店を連ねるが、今回のオープンにより「HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE/AOYAMA」は最も手前に位置する”玄関口”としての役割を託された。
表参道駅A5出口から徒歩3分。みゆき通りならぬ“イッセイミヤケ通り”の始まりだ。
空間デザインは吉岡徳仁。かねてよりブランドの店舗や時計を手がけ、イッセイミヤケと共にものづくりの可能性を追究してきた彼が表現するのは“プロセス”そのものの尊さだ。築50年程のビルに残る経年劣化を魅力とした素地に囲まれ、プリーツマシンや新素材のアイテム、それをモダンに着こなすクルーが同時に存在する空間には時のコントラストが生じている。
床などもそのままのテクスチャーが残された、広々とした店内。
さらに店内奥にはマシン同様、実際の製造に用いるプレス機やミシンなど一通りの環境が備わっており、ブランドを象徴する折りひだの加工がガラスを隔てた目の前で行われるという。吉岡氏は不要な足し算をせず、複数のレイヤーとなったありのままのプロセスを示しているに過ぎない。消費者から遠いはずの製造現場を最も近い売り場で公開するという試みを含め、時代と共に人々と向き合い続けてきたメゾンのものづくりを率直に映し出している。
平日の週3回(月・水・金)14:00〜15:00にマシンが稼働。実際にプリーツが出来上がる瞬間に立ちあえる。
男性向けのコンセプトを掲げる
〈オム プリッセ イッセイ ミヤケ〉が、
女性にも支持される理由。
前述したパリコレクションでは、圧巻のパフォーマンスと共に2020SSを発表。会場全体を祭りのように明朗な空気に包み込んだ。モデルの快活な動きやヘルシーな表情からは、ファッションを通してデザイナー三宅一生が見据えるポジティブな未来への期待がうかがえる。しかしメンズブランドの発表でありながら目を引くのは、男性に混じる女性パフォーマーの存在だ。実はブランドが始まって以来、男性だけでなく、女性の顧客も着々と増え続けているという。
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#hommeplisseisseymiyake #isseimiyake
独特なイッセイミヤケのプリーツは、同社が開発した中でもひときわ目を引く革命的素材である。ヴィジュアルの存在感はもちろん、どんな体型にもフィットする着心地や洗濯しても崩れないプリーツの強度に加え、小さく折り畳んで収納・携帯できるといった衣服としての機能性も高い。女性向けプリーツラインとしてお馴染みの〈プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ〉にも使われているイッセイミヤケ独自のプリーツ技術を元に作られた〈オム プリッセ イッセイ ミヤケ〉のプリーツは、前者とは異なるプリーツ加工が施され、従来のものよりも一つ一つの折りひだは大きい。ユニセックスではなく、完全なメンズブランドであるにも関わらず年々増加傾向にある女性の顧客に対応し、「HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE/AOYAMA」には女性の販売員も起用している。この姿勢こそイッセイミヤケのクリエーションが老若男女に支持される所以だろう。
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男性向けと謳われた服を女性が日常に取り入れることは本人自らの意思によるものであって、誰かに強いられたわけではない。同時に、物事の選択やファッションの楽しみ方も自由であることは言うまでもない。三宅氏はそれを大前提としてものづくりに落とし込むデザイナーであり、私たちにいつも多様な選択肢を提示してくれる。
“スティーブが口癖のように言っていたのが、「人はそれに気付く」「人間は気付くんだ」ということです。” ー(Steve Jobs Specialより)
以上はイッセイミヤケのクリエーションに深く共感すると共に、熱狂的な顧客としても知られたスティーブ・ジョブズについて書かれた一文だ。彼のいう“気付き”とは、妥協を許さず突き詰めたクリエーションは、誰かに届いた時におのずと熱量を帯びて伝わるものであることを指す言葉である。ものづくりにおいてプロセスの質は最終的なものの価値に比例し、ものに触れた一人一人の新たな感情や発想を導き出す。その影響は予期せぬ好展開をもたらし、さらなるプロセスの一部として未来へ繋がっていく。
〈オム プリッセ イッセイ ミヤケ〉が、常に社会から規定のスーツスタイルを強いられてきた男性にはもちろん、女性にも選ばれるブランドに成りえたことはむしろ必然といえる。事実このブランドの開発にあたった三宅氏率いる「リアリティ・ラボ(Reality lab.)」は20~80代の男女からなり、伝統工芸や最新のテクノロジーなどあらゆる視点を取り入れながら試行錯誤を続けている。多様性を当然の如く尊重し、カテゴライズした製品を多数打ち出すことで、逆説的にあらゆる壁を取り払うことにチームは成功した。自由性への喜びを思い出させてくれるブランドの国内外への拡大は、ファッションをはじめ、さまざまなジャンルにおいて個人の選択が尊重される社会が近付いているという予兆を意味しているのかもしれない。