14 Mar 2019
人気スタイリスト、ロッタ・ヴォルコヴァを魅了する東京発のブランド〈ジェニー ファックス〉

昨年10月、バレンシアガやヴェトモンのスタイリングで名を馳せたスタイリスト、ロッタ・ヴォルコヴァが自身のインスタグラムに「私がスタイリングするジェニー ファックス 2019年春夏のショーが今週の土曜に行われます!」と投稿。そのとたん、東京のファッションシーンが騒然となった。今をときめく人気スタイリストが来日?! ジェニー ファックスとの関係は?! そんな思いが渦巻く中、ロッタ、そしてジェニー ファックスのデザイナー、シュエ・ジェンファンにインタヴューを敢行した。
2018年10月20日土曜の夜、渋谷ヒカリエで行なわれたショーの終了後、ロッタはバックステージできびきびと立ち回りルックの撮影を行なっていた。それが落ち着いたころに、ようやく少し話を聞くことができる。
──今回はロッタさんが熱望してスタイリングをすることになったそうですが、どのようにしてジェニー ファックスを知ったのでしょうか?
ブランド設立まもない2011年ごろ、友人から教えてもらいました。見てみたらすごくクールでクレイジー。そして「カワイイ」。パンクロックでもある。すっかり気に入って、SSAWマガジンの撮影のために服を借りたんです。その時がフォトグラファー、ハーリー・ウィアーとの初めての仕事でした。(リボンと刺繍の)透ける素材のとてもガーリーなアイテムで撮影したのを覚えています。
──そんなに前からチェックしていたんですね…!インスタのストーリーでこのショーのために日本人モデルを募集されていましたが…。
いつもジェニーファックスのショーにたくさんの日本人の女の子が出ているのが好きなんです。今回キャスティングした子たちはジェニー ファックスの一員になれることにわくわくしていたり、ショーが初めてで少し怖がっていたりするのがとてもスウィートでした。そういうナチュラルなエネルギーを感じました。
──今回はどのようなことを考えながらスタイリングされたのでしょうか?
今回イメージしたのは、熱狂的なホラー映画好きのアメリカの少女。その子は幽霊に話しかけるような子かもしれないし、ヘビーメタルを聞いていたりするような、80年代に生きている。おそらく80年代のB級ホラー映画か『ツイン・ピークス』(笑)に登場しそうなタイプではないでしょうか。そんな彼女が今ここにも存在しているように見せるため、異なる要素をミックスしました。かわいらしさ、楽しさ、不気味さ、恐ろしさ、ダークサイド、血とか…そうやってキャラクターを組み立てていったんです。ジェニー ファックスはとても強いスタイルを持っていて、サブカルチャーも大いに参照しています。そうした服をスタイリングするのは、私にとって本当に楽しい「遊び」でした!
──お気に入りのルックはありますか?
たくさんありますよ…!ファーストルックは大好きです。本当に美しくて、シックでエレガント。加えて80年代風のパワーショルダーが力強さをもたらしていると思います。
ビッグサイズのパンティーを重ねたワンピースも大好きです。とても美しいと思う。強いスタイリングかもしれませんが、ワンピースだけであれば日常的に着ることができます。エレガントにも、クレイジーにも、いろいろな着方ができる、というのがジェニー ファックスの面白い点だと思います。
とにかくジェニー ファックスを絶賛するロッタ。たしかに台湾で生まれ、パリ・ベルギーでファッションを学び、東京を拠点に活動するデザイナーのジェンファンが多様な文化を融合して作り出す世界観には独自のものがある。その感覚がグローバルに訴えかけるということなのか。後日、原宿竹下通りから少し入ったところにあるギャラリーで開催された展示会でジェンファンにも話を聞いた。
──まずは、ロッタがショーのスタイリングをすることになった経緯を教えてください!
ロッタが今年韓国での撮影に使うボディパーツを探していた時、ジェニー ファックスのアクセサリーを偶然見つけたようなんです。それがきっかけで3月にちょうど東京に遊びに来ていた彼女を展示会に誘ったところ、2、3ヶ月後にショーのスタイリングをやりたい、というメールが来ました。彼女のスタイリングは以前から面白いと思っていたし、彼女が入ることできっとこれまでのジェニー ファックスとは違うものになる。それでチャレンジしてみることにしました。
──ブランドのイメージを変えたい、といったような思いがあったのでしょうか?
実は2シーズン前から欧米人のモデルを起用したりして、少し「モード」っぽい感じを試しているんです。それまでは日本人や素人の子ばかりに着せていたので、外部からは、コアなファンはいるけど、内輪で楽しくやっているだけ、というふうに見えていた部分があったのかも。今、そうではない面を見せたい、と思っているんです。
──と言っても、王道の「モード」とはまた異なりますよね。これを着たらいつもの自分よりきれいに見える服、というわけでもなく…。
かわいい子は、何を着てもかわいい。そうではない子は方法を考えなければなりませんが、「変な」方向に行くと、それが自分を守ってくれる感じがするんです。ロッタもお気にいりに挙げてくれたファーストルックも、80年代のワンピースをイメージしたのですが、パンツにしてわざとださくしています。
──ではジェニー ファックスは、何かしらコンプレックスを抱えている女の子たちのための服、ということですね。
そうですね。シーズンごとに場所は変わりますが、コレクションの主人公はいつも同じコンプレックスを抱えているかもしれません。私自身のことも時々投影していると思います。映画やドラマが大好きなので、そこからイメージを膨らませているのですが、今回の主人公はアメリカの、テキサスよりもっと田舎に住んでいる女の子です。そういう土地では猟奇殺人事件やオカルトっぽいことが起こりやすいのでショーが始まる前に怪談のようなBGMを流したりしたのですが彼女はもうすぐ高校を卒業して、地元のダイナーに就職することになっている。そんな彼女が、ようやくできた彼とのデートのために、街にひとつしかない洋品店でローラ アシュレイみたいな花柄のワンピースを買うんです。
──具体的にどうやってスタイリングを進めたのでしょうか。
私はいつもスタイリングも考えながらショーの核となるルックのデザイン画を描くんです。最初はそれを見せてやりとりしました。ロッタはクレイジーに見えるかもしれませんが、とても冷静な人です。感覚的な私とは違って…(笑)。
少し話し合う場面もありましたが、終始私を信頼してくれていたと思います。来日してからはサンプルが並んでいるラックの列を何往復もして、まじめに取り組んでくれました。
──ロッタも好きだ、と言っていましたが、ワンピースの上にビッグサイズのパンティを重ねるスタイリングはどうやって生まれたのですか?!
先シーズンに引き続き、ミニスカートがいい、と思ってデザイン画を描いたのですが、ちょっと物足りなかったんです。そこでペールトーンのスーツを着ている女性は透けている白いパンティを履いているイメージだったので、それを上から重ねた絵を描いたのが始まりです。パンティを多く作ったので、じゃあ、ワンピースの上からも重ねる?ということになりました。
──ロッタも楽しんでスタイリングしたようですね!今回のことで世界中で記事になり、改めて注目を集めています。「モード」を意識している、ということでしたが、いずれはパリコレをめざしたりされるのでしょうか?
東京でうまくやっていてもパリで苦戦するブランドは少なくありませんし、私は東京で発表する、というのが今のところ合っているのかな、と思っています。
展示会場はすぐそこの竹下通りがぴったりの「ザ・ハラジュクガール」たちで賑わっていて、ランウェイでショーを発表したりするような、いわゆる「モード」なブランドのショールームの様子とは明らかに違う。しかし、ロッタが指摘していたように、「サブカルチャーの参照」がハラジュクガールたちを魅了するのであって、それがジェニー ファックスの全てではない。
世界で活躍する人気スタイリストが太鼓判を押すように、根幹には確かなスキルを伴った「強いスタイル」があるのだ(公開はできないが、ジェンファンが「モード」を意識した2シーズン前から描き出した精巧なデザイン画もその証明の一つになる)。それに、コンプレックスを抱えるがゆえに、わざと「変な」方向に向かう、屈折した(?)面が独自性をより強めている。ジェニー ファックスは、ただ「カワイイ」だけではないのである。
〈ジェニー ファックス〉
IG: @jennyfax.official
Text:Itoi Kuriyama Photo:photomaker