今年2月、この世を去ったモード界の皇帝、カール ラガーフェルド。6月20日にシャネル、フェンディ、カール ラガーフェルドの3ブランドが追悼イベント「KARL FOR EVER」を共同で開催した。パリで行われたそのイベントに参加。詳細をレポートする。
カール ラガーフェルド追悼イベントレポート
イベントの招待状。
会場はいつもシャネルが手のこんだセットを組んでショーを行なっているグランパレ。いつもの華やかなムードとは様子が異なり、中に入ると巨大なカールのポートレートがたくさん並んでいる。ドレスコードはなかったが、追悼の意を表してか、黒っぽい装いが多い。
会場のデザインはカールが愛したブラックとホワイトを基調としている。
指定されたジャーナリストエリアからは少し遠かったのだが、中央にはステージが設けられ、その向こうにはピアノが置かれていた。それぞれのエリアの前方には巨大スクリーンがあり、それでパフォーマンスを見られるらしい。
エリアごとに設置された巨大スクリーン。
スクリーンで映し出される会場の全貌を眺めていると、イベントが始まった。
お気に入りだったヴァージニア・ウルフ著『オーランドー』、スケッチ、扇子、音楽、愛猫シュペット、サングラス、本など、カールにまつわるキーワードごとに、生前のインタヴュー映像を挟みながら、親交のあった人々がコメントを寄せる姿が流れる。ポイントごとに、カールが手がけたシャネル、フェンディ、カール ラガーフェルド、クロエを身にまとったモデルたちが登場。シャネルのアンバサダー、ティルダ スウィントンやファレル ウィリアムスなどがパフォーマンスを行なった。
イベントは約1時間半。演出はオペラや舞台の演出家ロバート カーセンが手がけており、まるでドキュメンタリー映画のような構成の映像と、迫力あるパフォーマンスが交錯する一大エンターテインメントだった。そして、見終わった後に心に残ったのは、やはりカールの唯一無二の存在感と偉大さである。
映像でコメントを寄せていたのは、ジャーナリスト、ブランド関係者、女優、モデルはもちろん、ジョナサン・アンダーソンやサイモン・ジャックムス、マーリン・セルといった気鋭の人気デザイナーたち、パリ市長、マーク・ニューソンやジェフ・クーンズ、バズ・ラーマンといったファッション以外の場で活躍する人々。イベントのパフォーマーたちにも言えることだが、カールがあらゆるジャンルに造詣が深いからこその人選だと言える。
また、映像で流れたインタヴューや、ヘレン・ミレンが朗読したカール語録『THE WORLD ACCORDING TO KARL』でもわかるように、その言葉の巧みさにも改めて目を見張った。母国語のドイツ語に加え、フランス語、英語を流暢に操り、自らの精神をよどみなく語る姿は彼のものづくりにますますの説得力を与えていたように思う。
あらゆる分野に精通し、ファッションだけではなく言葉でも自らを表現できたカールだからこそ、こうしたイベントを開催することができたのだ。他のどのデザイナーの生涯も、これだけのエンターテインメントに仕上げることは難しいだろう。
皆がカールとの思い出を語っていた中、シャネルの新アーティスティック ディレクターのヴィルジニー ヴィアールは、未来を見つめていた。
「これからもカールとシャネルの精神にのっとってものづくりを続けていきたい」。
来場したヴィルジニー ヴィアール(左)とシャネルのファッション プレジデント、ブルーノ パブロフスキー。
偉大な業績を懐かしむだけでは、過去を振り返ることを好まなかったというカールは決して喜ばないだろう。彼が残した遺産が今後どのようにアップデートされていくのか、後継者たちの仕事を楽しみにしたい。
Text&Edit: Itoi Kuriyama