『真顔日記』上田啓太さんが語る ファッションと赤面

「ごく普通の30代男性がファッションについて考えてみた結果です」

先日、スタバで原稿を書いていた時のこと。
近くに3人組の男性客が座っていた。雰囲気からすると友だち同士のようだ。ソファ席で楽しそうに話している。その光景が面白くて、仕事の手をとめて見てしまった。というのは、3人の服の色の並びが、信号の配色そのままだったのである。1人は赤のニットを着ている。別の1人は黄色のシャツだ。そして最後の1人は青いニット。赤・黄・青である。「信号機の3人組がいる!」と私は1人で興奮していた。
もちろん、本人たちは意図してないだろう。今季のトレンドが信号機だとか、そんな話は聞いたことがない。それに、それぞれの男を単体で見ると、わりとおしゃれなのである。こだわってアイテムを選んでいることが伝わってくる。なのに3人そろうと信号機。おしゃれ+おしゃれ+おしゃれ=信号機という、こんな方程式があるか!
こういう予想外の展開が起こるから、ファッションは恐ろしい。配色によって、想像もしなかった何かに似てしまう。しかも3人の合わせ技なのでタチが悪い。自分ひとりじゃ避けようがない。
もっとも、あの3人組は自分たちが信号機になっていることに気づいていなかった。すごく楽しそうに笑っていたからだ。自分たちは信号機になっていると自覚しながら、大きく歯を見せて笑うことは不可能である。他人の私だけが勝手に気にしていた。

おほしんたろう イラスト 上田啓太

私がこういう状況に敏感なのは、過去に似たような事件を経験したからである。スタバの客は3人で信号機になっていたが、私は1人でソフトクリームになっていた。
経緯はこうである。私はバーゲン中の服屋にいた。軽いパニック状態になっていた。大量の客で異常に混雑していたからだ。しかも私は明確なビジョンを持たずに店に来ていた。なにか適当な服を買おうと思っているんだが、こんなときの「適当」ほどむずかしいものもない。へんに考えすぎてしまい、どの服を選べばいいのかわからない。せまい店内だ。さっきからいろいろな人と身体がぶつかっている。まともな思考ができない。なにを買えばいいのか、自分はなにが着たいのか、さっぱりわからない。
こんなときは「なにも買わずに出る」の一択である。常識としては絶対にそうだ。だが私は、パニック状態のまま、真っ白いシャツと黄色のパンツを直感的につかんだ。そして会計をすませ、大急ぎで帰宅した。理由はわからないが、とにかくこの組み合わせが最高のはず、と考えたのだった。しかし家で着てみたところ、完全にソフトクリームだった。鏡の前に、1人のソフトクリームが立っていた。
本当におどろいたんだが、上半身が白で、下半身が黄色というのは、ソフトクリームの配色そのままなのである。鏡には、下半身がコーンで、上半身がバニラの男が映っていた。こんな生き物、神話ですら見たことない。
服屋における混乱状態のなか、すがりつくような気持ちで私がつかんだのは、大好きなソフトクリームの味だったのか。たしかにソフトクリームは最高である。しかしそれは食べ物としてであって、衣類としてではない。いくら好きだからって、自分がソフトクリームになってどうする。そのまま鏡の前で溶けてしまえ。

もっと単純な恥ずかしさもある。人と服がかぶることだ。ソフトクリームとちがい、これは誰でも経験したことがあるだろう。去年の夏、私はユニクロのTシャツをよく着ていたが、これが本当に街のあちこちで、かぶりにかぶった。ユニクロにはこういう危険性がある。
いちばん恥ずかしかったのは、バス停にいた知らない中学生が、まったく同じTシャツを着ていたこと。大の大人の着ている服が、中学生とかぶってしまう。確定申告をしたり、住民税をおさめたりしているのに、すでにそういう年齢になっているのに、着ているTシャツは中学生と同じ。これは恥ずかしい。
カフェで仕事をしていて、ぱっと顔をあげたとき、近くの席に同じTシャツを着た男が座っていたこともあった。あれも非常に恥ずかしかった。見なかったことにして仕事を再開した。しかしすでに、頭のなかは男のことでいっぱいになっている。気のせいだ、あんなものは白昼夢にちがいないと思いながらも、結局、耐えられずにふたたび顔をあげた。当然、男は同じTシャツを着たままだった。さらに今回は、よりにもよって、向こうもちょうどこちらを見ていた。われわれは完全に目が合ってしまった。
あの2秒間、同じTシャツを着た男と視線をかわした2秒間の濃密さは、どんなに愛しあう恋人同士にも再現できないと思う。目と目があうだけで、こんなにもお互いの気持ちがわかること、絶対にないと思っていた。なまなましいほどに相手の感情が入ってきた。すごいね、僕たち、ほんとうによく似てる(服装が)。
しばらくすると、向こうの男は帰っていった。耐えられなかったのかもしれない。「なんかごめん」と思った。こんな形じゃなければ、仲良くなれたかもしれないのに。いつかどこかで再会したいと思った。まったく別の場所で、まったくちがう服を着て。もっとも、その服もかぶるのかもしれないが。

イラスト1

人間心理は面白いもので、他人が同じTシャツを着ているだけで、恥ずかしくなってしまう。そのくせ、葬式で隣の人間が似たような喪服を着ていても平気なんだから不思議なものだ。あの状況だって「服がかぶっている」と言えないことはないだろう。葬式では、参列者全員の服がかぶっているのだとも言える。しかし平気だ。まったく気にならない。むしろ葬式では、1人だけアロハシャツでも着ているほうが、ずっと恥ずかしい。
このへんの心理がずれている人間、どこかに1人くらい、いないんだろうか。つまり、人の葬式で、服がかぶってしまったと1人で照れる人間である。そんな人間を見てみたい。となりの人間も数珠をつけていることに気づいて、さらに赤面したりする。「アクセサリーまでかぶった!」というふうに。
ちなみに、もっと見てみたいのは、知人の結婚式にウエディングドレス姿で参加して、花嫁と丸かぶりしてしまう女。これもぜひとも見てみたいが、そんなやついないか。

上田啓太 うえだ・けいた

上田啓太さんは、1984年生まれの京都在住。「真顔日記」という個人ブログで、生活の中のちょっとしたことについてとか、ネコについてとか、aikoについてとか、aikoについてとか、またまたaikoについてとか書いている人です。中でも「セブンイレブンを想いながらファミリーマートに抱かれる」というエントリはこれでもかとバズったので知ってる人多いでしょう(知らない人は「上田啓太 コンビニ」とかで検索してみて!)。またマンバ通信というサイトで名作マンガを死ぬほど再読して書くという連載もやってます。読んでみて!

おほしんたろう

福岡を拠点に活動するお笑いピン芸人。Twitterに投稿していた漫画やイラストが人気を博し、イラストレーターとしても活躍中。Tシャツも人気です!

Text: Keita Ueda Illustration: Shintaro Oho Edit: Gabin Ito

GINZA2018年5月号掲載