GINZA読者のために〈ニューバランス〉の魅力をさまざまな角度からレポートする不定期連載がスタート。そのスペシャルサポーターに選ばれたのはモデルの小谷実由さん。第一回目は、下駄や草履を売る履物屋「三田商店」としてスタートし、約40年以上前から本格的にスニーカーを展開していたという東京・上野の「ミタスニーカーズ」を訪問。「ニューバランス 990」をテーマに、ミタスニーカーズのクリエイティブ・ディレクター国井栄之さんとトークセッション!
ニューバランス特派員、小谷実由が行くNB探訪記。「990シリーズ」編
スニーカーブームの火付け役
「ミタスニーカーズ」国井栄之さんが語る
ニューバランス 990の魅力とは?
〈ニューバランス〉にも造詣が深く、スニーカーマニアの聖地と呼ばれるまでになった「ミタスニーカーズ」。そのクリエイティブ・ディレクターをつとめる国井栄之さんに会いに、噂の老舗スニーカーショップを訪問。『プリズン・ブレイク』さながらの金網に囲まれたインパクトのあるシューズラックを眺めて2Fフロアへ。目に飛び込んできたのは“NB”の電飾看板が掲げられたニューバランスの特設ブース。そこには、この日のためにかき集められた「990」シリーズがズラリ!コレクター垂涎のコレクションを拝見しながら、国井さんのディープなお話がスタートする。
小谷実由(以下小谷) ニューバランスの「990」シリーズについて今日は色々とお聞きしたいと思います。ここにたくさん並んでますけど、これ全部「990」なんですか?
国井栄之(以下国井) そうですね。当時持ち得た最先端の技術で最高のランニングシューズの完成を目指し、4年もの歳月をかけて作られた渾身の1足が1982年に登場した初代「990」v1(バージョン1)になります。そのときの販売価格は約100ドルで、1ドル=280円の時代でしたから、そうとう高額なランニングシューズだったと言えます。ニューバランスといえばグレーが象徴的な色とされていますが、このv1が登場した頃は、ランニングシューズではとてもアバンギャルドなカラーでした。
小谷 グレーのスニーカーはスタイリングに合わせやすいですし、スタンダードなものだと思ってましたが、当時は斬新なカラーだったんですね。
国井 ニューバランスがグレーを選んだ理由は諸説あるんですが、僕が聞いた話では、それまでオフロード中心だったところ、シティランナーが増えてきて、コンクリートにマッチする色合いやボストンの街並みの色にフィットするようなカラーをということでグレーを選んだという説があります。今では確かにスタンダードだとか、クラシックなカラーだって言われますが、白ベースが中心でスポーティカラーが好まれたその当時は、本当に前衛的な色だったんですよ。
小谷 意外ですね!「990v1」の次はv2ですか?
国井 いや、実は「995」、「996」と続くんです。当時はシューズの品番に金額を示す数字を付けることが多くて、99ドル60セントで販売するので「996」と名付けられていました。1988年に登場したこの「996」は、日本を始め世界中で人気を博し、ブランドを代表する最もポピュラーな900番台として知られています。ニューバランスは1000番台、900番台、500番台と大きくこの3つに分けられるんですが、1000番台というのはプレステージで一番のハイエンドラインに位置づけ。500番台は主にオフロードランニングのモデルがラインナップされています。話は戻りますが「996」は、細身のフォルムで足元をシュッと見せたい人たちに支持されていました。それでいて、メイドインUSAで機能性も担保されているので、今でも老若男女問わず人気があるモデルなんです。
小谷 品番の数字には色々な歴史が隠されているんですね。「990」の次が急に「995」にジャンプするあたりはかなりユニーク!
国井 そうなんです。「996」から「999」までは、品番とアップデートを重ねて進化していき、1998年には一周して「990v2」が登場。で、ここからまた数字のカウントが始まります。2001年には「991」が、その後「992」、「993」と発売され、初代モデルのリリースから30周年の節目となる2012年に再び990に戻って「990v3」へ。そして「990v4」、現行モデルの「990v5」に続くわけなんです。今年は誕生から40周年のアニバーサリーイヤーで、「990v6」が予定されていましたが、コロナの影響もあって納期が遅れているみたいですね。お店にもたくさんの問い合わせがきています。
小谷 発売が待ち遠しいですね!楽しみです。
国井 「990」シリーズが1000番台や500番台と圧倒的に異なるのは、“お客さんを置き去りにしない”普遍的なデザイン性です。過去のモデルをしっかり継承しているデザインなので「最新モデルは全くの別物」ってことになりにくいように思います。ファッション的な話でいくと、「990」がフォーカスされたのは、十数年前に「ノームコア」というカルチャーが生まれて、アメリカではなくヨーロッパの人たちが、あえてニューバランスのオーセンティックな靴を履きはじめてから。そして、アメリカにその人気が逆輸入して、さらにアジアへと広がっていったのがきっかけかもしれませんね。ちょうど「992」が発売された2006年頃です。ニューバランス創業100周年のタイミングで登場したこの「992」は、アップルの創設者スティーブ・ジョブズが愛用していたことで脚光を浴びたモデルでもあるんですよ。
小谷 確かに「ノームコア」が流行ったとき、みんな履いてましたよね!「992」は、女の子には少しゴツいかな?って思いましたが、履いてみると驚くほど軽くてフィットする感じでした。見た目がヘヴィな印象なのに軽いっていうギャップもいいですね。
国井 「992」は昨年の2021年に復刻版がリリース。発売されては完売を繰り返している人気モデルです。その誕生当初は、普通のおじさんから歴代大統領まで履くアメリカ王道の“オジサン靴”って呼ばれているようなスニーカーだったのに、21世紀の今、抽選販売で若者たちが躍起になって買い求めているっていう面白い現象が起こってるんですよね。タイムレスでいろんな世代の人たちに響くものこそが、普遍的なものなんだと思います。スティーブ・ジョブズは、黒のタートルネックにブルージーンズというスタイルで、毎日同じ服を着て過ごす究極のミニマリストでした。理由はとてもシンプルで、毎日の決断の数を減らし、重要な決断に費やすエネルギーを節約するためだと言われています。そんな彼が好んだ「992」というスニーカーは、普遍的でありシューズの完成形だったわけです。
小谷 そう考えるとすごいですね。シリーズで40年の歴史があるのに外見はあまり大きくかわっていないですよね。どのモデルもベースは同じ。
国井 何十年も前の靴なのに、復刻を今履いても形がいいってみんなが思うのは、既に当時から完成されていたものなんだなって思います。「990v4」がファッションデザイナーたちの間で流行って世にブレイクしていったように、ニューバランスが発信することだけではなく、ストリートを中心に自然派生して、新しいスタイルで履くことによって、ブランド側が想像していた以上の着こなしが生まれる。若い人たちが新しい感性で付加価値をつけてくれるんです。だからこそ進化・発展していくんですよね。
小谷 お客さんを置き去りにしないデザインだったり、作られた背景を知ると、より好きになれますよね。 大事に履きたいと思うし、人に薦めたくなりました。こうやってどんどん人から人へ広がっていったのかもしれないですね。色々と勉強になりました!
今日のみちくさ
「上野って昔ながらの喫茶店が集まっているエリアで、喫茶店を好きになりはじめたときにしょっちゅう通ってました。特にここ『珈琲王城』は、お気に入りで、この大理石のテーブルとクラシックな柄のベロアソファの組み合わせが大好きなんです。近くにある漢方の『天心堂診療所』と一緒に考案した薬膳のメニューが充実しているんです。コロナ禍の緊急事態宣言中に家を出られなかったときに、通販でここのお店が漢方の黒糖しょうがパウダーを売っているのを見つけて、家で飲んでみたりもしてました。本当に落ち着くんですよ。ここに来ると時間を忘れてじっくり読書を楽しんだり、のんびりして帰ります(小谷さん)」
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国井栄之
1976年生まれ。東京・上野にある老舗スニーカーセレクトショップ「mita sneakers」のクリエイティブディレクター。これまでも数多くのコラボレーションや別注モデルを実現。コラボスニーカーの先駆けとして知られる人物。国内インラインのディレクションをはじめワールドワイドにスニーカープロジェクトを手掛けている。
【SHOP INFO】mita sneakers
住所: 東京都台東区上野4-7-8 アメ横センタービル2F & 1F路面店
Tel: 03-3832-8346
営業時間: 11:00〜19:30(平日) 10:00〜19:30(土日・祝日)
定休日: 無休
INFOMATION
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小谷実由
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、様々な作家やクリエーターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。
Instagram: @omiyuno