2021年、ブランド創設100年を迎えたGUCCI。アニバーサリーイヤーの締めくくりにふさわしい、その世界観へと浸ることのできる展覧会「Gucci Garden Archetypes」が東京・天王洲で開催されている。13の部屋からなるエキシビションを、クリエイティブレーベル「PERIMETRON」のプロデューサー佐々木集、映像作家OSRIN、グラフィック&プロップデザイナー森洸大、デジタルアーティスト神戸雄平の4名が巡った。細部にいたるまでブランドの精神が宿った空間の連続。クリエイターならではの視点とともに各部屋の見どころをお伝えします。
PERIMETRONとしての姿勢と共感する部屋が続き…。
PERIMETRONと巡る Gucci Garden Archetypes 03
Room 3 Gucci Beauty Network
――「大胆な人、輝ける人、美しい人のために」と謳ったリップスティック コレクションのキャンペーン映像が多数のスクリーンに流されています。歯並びが揃っていないシンガー、ダニ・ミラーの笑顔もチャーミングですね。
OSRIN(以下O) 一番いいなと思ったのは、俺らがキャスティングする時、割と癖のある人を選びがちなの。リアリティがないから、綺麗な顔の俳優や女優を出したいという気持ちはさらさらなくて。そういう部分でめちゃめちゃ共感した。すきっ歯のモデルを起用しても、押し付けがましくないんだよ。過剰じゃない。
神戸雄平(以下K) そうね、コンプレックスをバネにしよう、こんなに可愛くなれる、というやり方じゃなくて。
森洸大(以下M) すごく自然だったよね。
佐々木集(以下S) ダイバーシティという言葉が流行って、それを言いすぎるのも押し付け感があって好きじゃない。
M 流行りになった瞬間冷める。
O 発信力があるブランドになればなるほど、ちょっと鼻につくというか。個性派を推すことって、実はやりづらいところでもある。でもそれが自然だったし、逆にめっちゃ記憶に残るじゃん、すきっ歯の子が舌を舐めるシーンとか。それで唇とコスメに目が行くわけだから。俺もこういう感覚がすごく好き。綺麗なものって少し壊れている方がいい。
S これはみんな共感できるところじゃないですかね。PERIMETRONは本来そういうチーム。
O そうだね。映像うんぬんより姿勢的なものがヒットしたな。いいな〜って。
K 見せ方はどう?
M 素材がやっぱりよかったよね、木を使うのが。ダウンライトにして黒で締めて、木材っぽくない質感に見せたり。モニターも普通の四角い縁取りだと削りの荒さが出るから、カーブをつけるとか。すごくよかった。
S 全体を通して、使っている材質も気になったよね。結構工夫しているなと思った。
O なんでもかんでも徹底的に大金を掛けるということではなくて、これはこれで行こうというアイデアでね。
K 本当に伝えたいのは、映像の中のメッセージであって、そこに過剰な演出はいらないっていうことか。
O だったのかねえ? あえて黒でね。
S 言ってみれば、モニターをいっぱい積んだとこに板貼っただけ。それだけなのに、これだけミニマムに見せられるのは面白いね。
Room 4 Urban Romanticism 2015年秋冬コレクション
――ロサンゼルスの地下鉄を再現した空間には、3Dプリンタで作られたリアルなマネキンが。車窓には流れ行く景色が映されています。
K レアンドロ・エルリッヒの『地下鉄』という作品を見た時にすごく好きだなって感じて、それを思い出しました。
S 「すごっ、うわ〜!」っていう感想より、アレッサンドロ・ミケーレという人物と近くてよかったなというか。この感覚って俺らにもあるじゃん。
O わかるわ。アレッサンドロが手がけた中では、スペインの画家が描いたコレクションの印象が強いんだけど、あれあまり理解できなかったのね。
S 置いていかれるものもあるけど、この部屋やRoom 10のトイレの発想も自分たちが作っているものと近いというか。全く別の場所でも俺らと同じようなことを思ってたんだな、と親近感が湧いた。
M この部屋から3作品ぐらい連続でそう思ったな。とてつもないレベルにいるところもあるし、近いところもある。
O アレッサンドロは服のデザイナーなわけじゃん。でも、プラスアルファでこの能力って、おぞましいよね。舞台作家じゃないけど、イラストレーションや内装などのディレクションを別角度から発生させなきゃいけないわけだよね。
M 確かに。この作品のクレジットを見てみたいよね。
S クリエイティブ・ディレクターとアートディレクター、2人いたよ。
O アレッサンドロとどういう会話をしてるんだろうね? めっちゃ気になる。
K こういう作品って一番上で指示している人が目立つじゃん? でも、石岡瑛子の個展を見たとき、あれを作った人たちって誰? と思って。アレッサンドロの指示のもと、実際に手がけた人たちもすごく気になるよね。あと、この部屋は一体のマネキンのためだよね? 先程もバッグを空間に馴染ませるという話をしたと思うんだけど、ずっとそう。僕たちも、この部屋に入って最初マネキンのことを全然見なかった。窓に映る映像に漢字が流れてる、とか話してさ。
O Room 2もそうだったよね。馬の毛が動くところに目が行っちゃうからさ。だから、服やバッグは空間の一部なんだろうね。
K それがいいんだろうね、服を売るための仕掛けじゃないな、って。
S 『#014 ヌーミレパーク(仮)』作ってる時を思い出さなかった? 空間を作るのって、期間も予算もそうだけど、もともとあった場所をどう生かすかも考えないといけないから毎回大変。
M 場所のアクセスとかね。
S そう。あと『#014 ヌーミレパーク(仮)』は入口がいっぱいあったじゃん。だから今回みたいに一方向に進んで出られるという展示も今後やってみたい。
M このホール自体はそんなに広くないと思うんだけど、ボリュームを感じたよね。
S 感じた。あと、アーカイブの数も絶対あるね。
O でも6年やで?
S いや、もともとの資本が違うからさ(笑)。100分の6は本当にヤバいよ。
O 憧れるよね。アーカイブをああいう風に見せちゃうのは、ラグジュアリーブランドの強さがある。本当に尊敬できるよね。レガシーだと思う。
Room 5 Tokyo Lights 2016年秋冬コレクション
――光の洪水であふれる部屋は、夜もまばゆく輝く東京を舞台にしたキャンペーンから。壁面のスパンコールや中央に鎮座するデコトラがインパクトあります。
O 2016年頃、PERIMETRONを立ち上げた時ぐらいにこのカラーが流行りましたね。シアンとラベンダーみたいな色は世界中で流行った。
M 海外で作るシアン、マゼンタをうまく再現できる日本人ってなかなかいないよね。
S もっとこってりしない?
O しちゃう、バキバキするんだよ。でも、本当はもうちょっとまろやか。
K 一層フィルターがある感じよね。
M その色味がデコトラのいかつさをまろやかにしてる。この部屋は、キャプションの文章がめちゃめちゃ良かった。
S めっちゃ良かったね。
M アレッサンドロが来日した時に感じた、俺らがよくテーマにしている東京や日本の良さ−−文化が入り混じって、どんな格好をしていても紛れられる−−が書かれていた。日本人として嬉しいし、自分たちと面白いと思うところが近い気がしたね。すごい熱ぃ、東京に対してリスペクトがあるなって。
Gucci Garden Archetypes展
Gucci Garden Archetypes展
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PERIMETRON
2013年、音楽家常田大希がYouTubeチャンネルを開設、映像を公開し始める。2016年、プロデューサーの佐々木集と映像作家のOSRINが参加し、クリエイティブレーベルとして始動。グラフィック&プロップデザイナーの森洸大、デジタルアーティスト神戸雄平をはじめ、10名のクリエイターを擁する。King Gnuやmillennium paradeなどのアートワークやMV、ライヴ演出を手がけるほか、多方面との協業も行う。