プロフェッサー栗山がモードのニュースをわかりやすく解説 – ラフ・シモンズがカルバン・クラインのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任

プロフェッサー栗山がモードのニュースをわかりやすく解説 – ラフ・シモンズがカルバン・クラインのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任

COVER PHOTO © Willy Vanderperre

GINZAでおなじみの自称モード界のご意見番プロフェッサー栗山による「モードそうだったのか!!」。独断と偏見を交えながら最新ニュースを嚙み砕きます。


「ラフ・シモンズがカルバン・クラインのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任」

という発表でモード界がざわついたのは8月2日。

ずいぶん時間が経ってしまった。

編集部から、絶対このニュース取り上げてよね!という指令が下り、そりゃそうですよね!ビッグニュースですもんね!と調子よく引き受けたものの、なかなか筆が進まなかったのだ。

 

それはなぜか。

 

こうしてあらためてラフ・シモンズに向き合ってみると、私はそんなに彼に思い入れがないことに気づいてしまったのだ…!

 

ラフ・シモンズは1968年ベルギー生まれ。

工業デザインを学び、もともとは家具デザイナーだった。現在アントワープ王立芸術学院のファッション学部長も務めているデザイナーのウォルター・ヴァン・ベイレンドンクと友人で、彼にマルタン マルジェラのショーに連れて行ってもらったことをきっかけに、独学でメンズウェアを作るようになる。そして、1995年自身のブランドを設立した。

以降彼はベルギー・アントワープをベースに自分自身と周囲の仲間たちのための服を発表していく。ニュー・オーダー、ジョイ・ディヴィジョン、クラフトワークといった音楽や、アート、ユースカルチャーが重要なインスピレーション源となり、ストリートキャスティングでモデルを起用したりした。

 

フォトグラファーロバート・メイプルソープの作品をプリントしたラフ・シモンズ2017年春夏コレクション Photo by Getty Images

 

ところでこのかんじ、見覚えがある。今をときめくヴェトモンだ。ヴェトモンのデザイナー、デムナ・ヴァザリアもマルタン マルジェラに影響を受け、自分や仲間たちのためにユースカルチャーを反映した服を作り、知り合いを辿ってショーのモデルに起用している。そうしたスタイルが、コミュニティの外側の人々をも魅了した。

 

が、ラフ・シモンズとヴェトモンの間には大きな違いがある。前者がメンズウェアに限られていた、ということだ。だから、コアのラフ・シモンズファンというのは、90年代半ばに「ユース」だった世代の男性たちが大半なのだ。

 

私もそのころは「ユース」で、すでにファッションバカだったのだが、自分が実際に着られないメンズウェアにほぼ関心がなかったため、ラフの名前はもちろん知ってはいたものの、そんなに気を留めていなかったのである。当時は女性たちの間で、今のようにメンズブランドを積極的に着るような動きはあまりメジャーではなかった。

 

ということで、彼の名前をちゃんと意識したのは2005年にジル・サンダーのクリエイティブ ディレクターに就任し、ウィメンズの世界に登場してからだった。その後ディオールのアーティスティックディレクターになり、昨年10月まで彼は女性用の服も作ってきたわけだが、そこでは、自身のメンズウェアブランドでやってきたことは極力抑えていたように思う。課せられたブランドイメージにそって慎重に仕事をしていたこともあるだろうが、彼の根幹を成していたユースカルチャーのようなものは女性向けではない、と考えていたのだろうか。ミニマムで知的な服づくりはそのままに、持ち味のアートの要素も取り入れてはいたが、彼が自身のブランドで見せていたようなカルチャー色はほぼ出していなかった。それゆえに、彼の服を好む女性たちはラフ・シモンズについている男性ファンほどの熱をそんなに持ち合わせていなかったように思われる。

 

さて、新境地ではどうなのだろうか。

カルバン・クラインはこれまで手がけたふたつのブランドとはちょっと違う立ち位置だ。コレクションラインはラグジュアリーだが、カジュアルなブランドイメージも大いにある。カルチャー色を出してもそんなに問題はなさそうなかんじだ。ヴェトモン効果でウィメンズの世界でもユースカルチャー礼賛の今、自身のブランドと同様のスタンスで女性向けの服を作ることができるのではないだろうか。

 

ひとつ気がかりなのは、「チーフ・クリエイティブ・オフィサー」という聞き慣れない彼の肩書きだ。どうやら「カルバン・クライン コレクション、カルバン・クライン プラティナム、カルバン・クライン、カルバン・クライン ジーンズ、カルバン・クライン アンダーウェア、カルバン・クライン ホームの各ブランドにわたって、世界的規模でカルバン・クライン・ブランドのクリエイティブ戦略を率いる」役回りらしい。映画『ディオールと私』(2014年)で見られた繊細そうな彼に、アメリカのビッグビジネスにもまれつつそんなにたくさんのブランドを見ることなどできるんだろうか。とっても心配だが、映画にも出ていたラフの右腕ピーター・ミュリエ氏も一緒にカルバン・クラインへ行くらしい。ピーター、まずは2017年秋のお披露目コレクションが無事成功するように、これからもラフを支えていってあげてね!

プロフェッサー栗山

Professor Kuriyama
GINZAで独断と偏見による論を自由気ままに披露している自称モード界のご意見番。その自らの好みを貫き通すファッションは周囲に「怖い」と恐れられがちで、「怖い女」の異名もとる。

Text&Edit: Itoi Kuriyama

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