女の子にとって象徴的な存在である靴は、物語のなかで重要なキーアイテムとなることがしばしば。音楽のストーリーに見る「靴」を、荏開津 広さんが紹介。
【MUSIC】靴にまつわる5曲:selected by 荏開津 広
Nancy Sinatra
『Boots』Sundazed Music *廃盤
F・シナトラの娘である女優・歌手のナンシー・シナトラの最も有名なヒット。1960年代の時代精神をつかんだビッチーともいえる歌詞は、「このブーツは歩くためにあるの、あなたを踏みつぶして向こうへ行くの」と優柔不断な男性に「NO」と宣言する。ヴェトナム戦争と関連づけられたりもして、当時流行のGo-Goブーツを履いたミュージックヴィデオも話題を呼び、66年にアメリカとイギリスのチャートでは1位。歌詞ももちろんだが、印象深いベースラインもあってレゲエグループから実験音楽家まで数えきれないほどのアーティストにカヴァーされた曲でもある。
RUN-DMC
『レイジング・ヘル RUN DMCオリジナル・アルバム・アップグレイド&ミッドプライス・リイシュー』ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
86年にニューヨークのラップトリオがリリースしたスニーカー讃歌。もともとヒップホップファッションは、スキーゴーグルやフィッシングベストなどそれぞれは関連ないスポーツアイテムを自分たちなりのスタイリングでシティウェアとして身につけるもので、スニーカーも重要なアイテム。だが、ブランド名をそのまま曲名にしたラップは前代未聞であり、当時人気絶頂にあった彼らのツアー会場では集まった観衆がこの曲に合わせて自分たちの履いていたスニーカーを高く掲げてサビを叫ぶという事態に。便乗した「マイ・フィラ」などという曲も当時リリースされた。
Taylor Swift
『Fearless』Big Machine Records
アメリカでは彼女はもともと地味なドーク(英語でのオタク)で、それが努力して快活で美しくイケてる女子に変身したというストーリーもあっての人気。だからこその“シェイク・イット・オフ(噂は振りおとせ)”というわけだが、この曲では近所に住む片思いの相手に、自分の視線に気がついてほしいと願いながら、彼の今のGFと自分を比較するじっと待つ内気女子の心情が描かれる。“彼女はミニスカート、私はTシャツ/彼女はチアリーダー、私は応援席/彼女はハイヒール、私はスニーカー/でも、いつかあなたの探しているものは見つかるはず”。2009年のヒットで彼女の代表曲。
中森明菜
『TANGO NOIR』ワーナーミュージック・ジャパン
おニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」など、社会的に未成熟な女子や男子に職業音楽家があてこんだイメージの曲を提供するのがアイドルのメインストリームなら、そうした大人の思惑をはるかに超えるプレゼンスとパフォーマンスを表現する人物が時代を変えたし、時代も超越していた。山口百恵や中森明菜がそれにあたり、ここでは後者のタンゴになぞらえた情熱的な一夜についての曲を。相手の冷たい手でつかまれて始まる夜の時間、黒いシューズが小道具として彩りを添える。当時のテレビ番組『ザ・ベストテン』の毎週のパフォーマンスは伝説に。
The Shoes
『Crack My Bones』Green United Music
靴についての曲を作るミュージシャンはもちろん、自分たちのグループ名が靴に由来するアーティストたちもいる。ジャマイカの音楽史上もっとも美しいコーラスワークを聞かせるグループ、カールトン&ザ・シューズもその一例だが、このフレンチエレクトロの2人組の場合は、特にシューズに意味があっての名前ではないらしい。だが、彼らの持ち味の軽快なテンポのダンスミュージックは、グループ名を裏付けるような、つい足を動かしたくなるものが多い。ダンスに理屈はいりません。この曲は人の恋愛や別れを引っ越しに例えるヘンにライトなナンバー。リリースは2011年。
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荏開津 広
執筆/DJ/京都精華大学非常勤講師。ポンピドゥー・センター発の映像祭『オールピスト京都』ディレクター。