桐生で40年間続く老舗セレクトショップ、「ペニーレイン」が「st company」として生まれ変わった。編集アシスタントにこが3月22日に開かれたプレオープンにお邪魔してきました。
桐生 伝説のセレクトショップへ1DAYトリップ
浅草から電車に乗ること、およそ1時間半。群馬県桐生市は「織都桐生」と言われるほど、かつては幾つもの織物や染色関係の大工場があった場所。歴史ある蔵や建物を利用したファッションウィークも年間行事として盛り上がっている街なんです。GINZAでおなじみのスタイリスト仲子さんも以前、桐生の刺繍職人によるスカジャンを紹介していました。
3月24日にグランドオープンした「st company 」は元々「ペニーレイン」という地元に愛され続けてきたセレクトショップでした。今回、ショップインショップやポップアップスペース、カフェなど、衣食住のトレンドを発信していく新しい場所として再スタート。外から見える階段や屋上、三角屋根の建物、いくつもの部屋に、入る前からわくわくさせられます。元々は老舗の和菓子屋さんだったという建物のリノベーションを担当したのは山本和豊さん。「ドーバーストリートマーケット」の展示や〈ベルンハルト・ウェルンハム〉、〈メゾンマルジェラ〉のショーでもコラボレーションしている〈マイキータ〉の東京の路面店「MIKITA SHOP TOKYO」なども手がけ、今注目されるデザイナーのひとりです。
今回、新しくなった「st company」のお店づくりについて、社長の環 敏夫さんとマネージャーの環 里江さんにお話を伺いました。
ーー元々ここの場所は老舗の和菓子屋さんだったそうですが、なぜこの場所を選んだのですか?
里江さん(左):物件を見つけてきたのはうちの父なんです。知り合いに「ちょっといい場所があるよ」って紹介されて来てみたら、すぐ気に入っちゃったみたいで、私はその後から連れて来られたんだけれど、なんだかすごい場所だな……と。
敏夫さん(右):このビル自体が建設から約45年経っているんですよ。5年前に廃業されているんですけど、元々は「いせや」さんという和菓子屋さんでした。他の方の手に渡って空き家状態だった物件を、ご縁があって購入しました。
とは言え、5年もそのままになっていたんで、とにかくカビだらけで畳は抜け落ちているし、まさに廃墟でしたね。それでもこの建物のポテンシャルがめちゃくちゃ高くて、「あ、これはもう、うちがやるんだな」っていうのをその時に感じたんですよ。絶対ここでやるって。
ーーバイイングの特徴や強みはなんですか?
敏夫さん:うちはデザイナーさんやブランドさんととても距離が近いんです。老舗だからなのか、長い間お取引をさせて頂いているからなのか、お取引先から大事にしていただいています。〈ファセッタズム〉、〈コズミックワンダー〉、〈ハイク〉なんかはもちろん、今回ショップインショップとして出店する渋谷の「ニド・アドゥ」、あとは「ベストパッキングストア」なんかも、全部人と人で繋がっているんです。今のデザイナーとか社長連中が息子の様な年齢なので、ショールームを立ち上げた当初から付き合いがあったりして。そういったブランドの最初の取引先っていうのがたまたまうちだったんです。〈ファセッタズム〉の落合くんは取引先ゼロの時からの付き合いです。今でも覚えていますが、10年前にあるスタイリストさんから「環さん、日本人で面白いデザイナーがいるんですけど展示会見てやって下さいよ」って紹介されたのが落合くんを知ったきっかけです。最初に展示会で〈ファセッタズム〉を見た時、「何じゃこりゃ、この素材の落とし込み方は今までのデザイナーと違うな、めちゃくちゃ面白いな」と思いました。ただ、当時は売れるとは思わなかったですね。〈ハイク〉のデザイナーも桐生出身ということもあって、長いお取引をさせて頂いています。付き合いが長いからこそ、商売だけは絶対にきちっとクリーンにやろうというのが自分の考え方です。
あとはブランドさんを大切にしよう、大事にしようっていう気持ちだけはあります。まだまだうちも非力なとこもありますけどね。だから、今回お店のオープンにもたくさんの人たちが協力してくれて、取引先のお陰だと思っています。色んな方とお付き合いしていて、トラブルがないのがうちの自慢なのかな。本当に人が好きで、人を集めるのが好きなんです。だからこそうちは40年間お店を続けてこれたのかなとも思います。
ーー人との繋がりでできているんですね。
敏夫さん:全部繋がりですよ。本当にそう感じます。
ーー今後の店づくりについて、どのようにお考えですか?
敏夫さん:今、正直言ってアパレル全体が元気がないじゃないですか。こんなちっぽけな地方の一専門店なんですけど、うちがどうにかしてその状況を変えたいって気持ちはあります。志だけは大それているんです。ここ数年の傾向を見ていると、間違いなく地方専門店が衰退の時代に入ったと思います。現状を変えていかないと地方は元気にならないなと思いました。だから、私もう68歳なんですけど、背伸びして見栄を張ってリニューアルに踏み切りました。〈ヨシオクボ〉(今回、muller of yoshiokuboはブランドとして初めてインショップをオープンする。)、〈ファセッタズム〉、〈コズミックワンダー〉もみんな「面白いじゃないですか」って賛成してくれて、ここまでこれたんです。ただ、ここ2ヶ月はやっぱり誰もやっていないことをやるのはきついなとも思いました。でもあと戻りは出来ないし、何かヒントを見つけてもらえる場として「st company」を参考にしてもらえたらと。どうせなら注目される場所を作ろうと思いました。
ーー設計者の山本和豊さんにはどういう経緯でリノベーションをお願いしたんですか?
敏夫さん:山本さんとは、まだ彼が35歳くらいの時に知り合いました。熊谷にある、元々フォークリフトとかクレーンの教習所だった施設を「ニューランド」という商業施設に手直しした設計者が彼でした。
初対面から意気投合して、この建物と出会った時にすぐに彼の顔が浮かびました。設計者にとってはめちゃくちゃ大変な仕事だったと思います。だから、彼には感謝しかないです。
ーー建物にこだわった部分はありますか?
敏夫さん:わたしのアイデアで、元々ふたつあった建物を橋で繋げました。片方をローマ字で”honkan”、もう片方を”bekkan”と言う風に名前をつけました。キッズスペースは”kobeya”と呼んでいます。
ーーお店の名前を「ペニーレイン」から「st company」に変えるきっかけというのはあったんですか?
敏夫さん:「ペニーレイン」にはすごく愛着があるんですけれど、やっぱり社名をショップ名にしようと思ったひとつのきっかけとしては、お店を変えなきゃという思いがありました。
ここ一年で地方や都内のお店をたくさん見てきました。周りのお店を見て、「本当に面白い店を作らないとうちも残れないんだな」と思ったんです。展示会へ行って洋服を見つけた時、売れるかどうかではなく、まずうちのお店に合うかどうかを考えます。うちのスタイリングやセレクトというフィルターを通して、どうアレンジできるかを考えていきたいと思いますね。そこが面白いんですよ。
ーー今後どのようなイベントを行っていく予定ですか。
里江さん:今月の31日から〈ハイク〉のポップアップストアが決まっています。各ブランドさんがポップアップを提案してくださったりして、4月の〈アグリス〉のポップアップストアではヨシダナギさんのイベントも開催予定です。
環さんのお店づくりに対する思いを聞いて、これからお店がどう展開していくのか楽しみになりました。実は私がたまたま出会った地元のお客さんは、なんと以前の「ペニーレイン」には20年近く足を運んでいたといいます。とにかくスタッフの方がフレンドリーだというのが、買い物に行く決め手だそう。関係性を大切にする環さんの姿勢は、会社全体に伝わっているのだなと改めて感じました。
桐生の街に残るノコギリ屋根や横型の信号機、古いキリンビールの看板、駅を出ると見える赤城山はなんとも新鮮な景色。東京の人混みに疲れちょっと羽を伸ばしたいなんて週末は、桐生へ出掛けてみてはいかがでしょうか。
「st company kiryu」
住所: 群馬県桐生市川岸町177−4
Tel: 0277-22-5535
営業時間: 11:00-20:00(水曜定休)
@stcompany_kiryu