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GINZA編集長 写真&モードを語るスペシャルな夜 前編

GINZA編集長 写真&モードを語るスペシャルな夜  前編

先日代官山 蔦屋書店で開かれたトークショーに弊誌編集長 中島敏子が登壇。写真家の水谷太郎さんをゲストに迎え、数々のファッション写真を見ながらGINZAの歴史を読み解いた。話題は撮影現場の裏話から、写真家が作品に込めた思い、そして編集者の使命へと──クリエイティブの最前線を走ってきたふたりの熱量ある言葉が溢れた。


中島敏子(以下中島):こんにちは。中島です。今日のゲスト水谷太郎さんには、私が手がけてきた約7年間、そのときどきで大事な写真を撮ってもらってきました。今日は太郎さんの写真を通じて、GINZAを読み解いていければと思います。まずは2011年5月のリニューアル号。宮沢りえさんに表紙に出ていただいて「すべての女は女優である」ということで編集長としての第一弾を始めました。

水谷太郎さん(以下太郎):そうでしたね。
中島:私はそれまで『relax』という雑誌などを作っていて、女性誌を作ったことがなかったんです。ラグジュアリーブランドのラの字も知らなかった。それが、UFOキャッチャーのように連れてこられて、産み落としたのがこのGINZAでした。アートディレクターに平林奈緒美さんを迎え、自分が面白いと思うものは全部入れて、まずは自分自身が飽きないように作ってきたつもりです。この号は宮沢りえさん、夏木マリさん、永作博美さん、真木よう子さんをはじめ、たくさんの女優さんが洋服を着てくれて、twitterのリツイートの嵐が止まらなかった思い出が。この巻頭のファッションページを太郎さんに撮っていただいたんですよね。

水谷太郎 ギンザ リニューアル号 2011

水谷太郎 ギンザ リニューアル号 2011

太郎:外国人のモデルを、舞台を探してめぐりめぐって劇場にやってきたひとりの女優に見立てて撮ろうというストーリでしたね。当時僕はほとんどメンズの雑誌でしか仕事をしていなかったんですが、この号をきっかけにレディースのフィールドに入りこんだ記憶があります。


写真家 水谷太郎は

生まれるべくして生まれた

中島:「太郎さんといえば」という写真だよね。ちなみに太郎さんは出自がとても素敵な方で、もう、カメラマンになるために生まれてきたような。
太郎:父も祖父も元カメラマンでして、今は父はフィルムの現像やプリントをするラボをやってるんです。小さい頃からフィルムカメラを持って育ったということろはあります。
中島:さすが。やっぱり写真の撮り方を教わったの?
太郎:いや、それが全然。写真に従事してるけど、撮るという表現自体が三世代でまったく違う。おじいちゃんが生きていたときに唯一食卓にのぼった話題といえばたとえば技術的なフィルムの話とか、あのレンズがいいとか、そのくらい。「写真とは」なんていう真髄の話は全員が避けていたところがありますね。
中島:写真一家。
太郎:写真ってものすごいスピードで変化している。とくに、僕らの世代はめまぐるしくて、デジタルが一気に登場して、おじいちゃんやお父さんが撮っていた写真の時代とはかなり変わっているんです。おじいちゃんやお父さんからも、「こんなのは写真じゃない!」なんて言われたこともかなりあったし。
中島:そうなんだ。いま活躍しているカメラマンはおそらく全員太郎さんの会社のラボでお世話になっているくらいの、名門ラボですよね。著名な写真家が使っている。すばらしい紙焼きを覗き見ながら、太郎少年は育ったんだ。
太郎:そういうことです。


”カルチャーの人”と呼ばれた

逆風時代を経て

中島:2011年にGINZAをリニューアルしたとき、「かなり変わった雑誌だね」って言われたんです。カルチャーぺージを充実させたので、「カルチャー誌なの?」って聞かれたりもしたし。ファッションも大きなカルチャーのひとつだと私は思ってるんですけどね。当時のファッション業界はカルチャーを下に見がちで。「カルチャーの人が、え?なに?ファッションやるの?」って言われて、人生で一番アゲインストな風を受けました(笑)。でもリニューアル号が出たら、みんなが「ああ、そうか」と納得してくれた。この特集は女優さんがただ出てくるだけじゃなくて、「モデルを女優に見立てることもありなのね」って太郎さんの写真を見た人は感じたんじゃないかな。白ホリにモデルを立たせてハイキーなライティングして、不自然なポーズを撮らせて…みたいなことに終始したくなかったんです。人々のイメージの中にある女性像とか、なにかこう、自分のなかのエッセンスが入っているファッション写真が撮りたくて、太郎さんにお願いしたんですよね。で、なんかそういうふうにやっていると雑誌の調子もよくなってきて、広告もたくさんいただいて(笑)、GINZAという独特の地位を築いてきた気がします。そんななかで、カルチャーとファッションだけではなく、ファッションそのものに斬り込んだ特集も作ってきました。

232 GINZA 水谷太郎 中島敏子

中島:このおかしなバランスという名の特集を作った2016年は、ヴェトモンが非常にのびてきた時代。極端にビックサイズだったり、肩を落としたり、本当におかしなバラスンスが増えてきた頃だった。こんな名前で呼んだ雑誌はないと思うんだけど、「おかしい」と言っちゃってもいいんだということが読者に伝わったらいいなと思って作った特集です。この表紙も、太郎さん。
太郎:ですね。

232 GINZA 水谷太郎 中島敏子

中島:A to Zの形でページを作って、Cの襟(collar)のページを太郎さんに撮ってもらったんですよね。肩を落とすとか肩を抜くとか、大きなトレンドになりました。
太郎:不格好だけど綺麗、気持ち悪くならないぎりぎりを狙っていった記憶があります。アンバランスが美しい、崩れてるのがいい、ちょとダサいのがかっこいい…ということが出てきたタイミングでもありましたよね。その新しい表現の仕方に悩みました。
中島:洋服がトリッキーなところを、絶妙なバランスで成り立たせてますね。モデルをふたり組にしたアイディアもいい。ひとりが背中を見せたりできるし。
太郎:普段は使わないようなスタジオの端で撮ったんです。最初スタジオの真ん中を使って撮ろうとしたら、きれい過ぎて、なんでこんなに真面目に撮ろうとしているんだろう?と目線をずらしてみたんです。崩すというか。何が面白くてなにがきれいなのか、そんなことをずっと考えていた記憶があります。
中島:(客席に向かって)ファッションカメラマンって、このようにですね、ファッションを非常に理解してくれている存在なんです。写真の上手な人ってたくさんいるし、ポートレートがうまい人にファッションを撮ってもらうこともあるけど、やっぱりファッションを撮るにはファッションカメラマンにしかできない表現があるんですよね。こういう企画のときの太郎さんは頼もしい!


ヴェトモンが切り開いた

”いびつなもの”のかっこ良さ

中島:まったくの私見だけど、洋服って、基本的にはヨーロッパの人が、ルネサンスからの左右均等な”完璧なフォルム”を求めていた時代がすごく長くて、人体の美はこうである、最善のバランスはこうであるって。「完璧な球体が最適な解である」っていう理想を目指してきたんですよね。どうして私がヴェトモン〜バレンシアガの流れが重要だってずっと言っているかというと、彼らは完璧なバランスを壊した美こそがかっこいいと声高に言った点がすごかった。日本人って、そのへん分かってて、例えば金継ぎってありますよね。欠損しているものや不定形な美を愛でてきた文化があったから。ヴェトモンが出てきて、いびつなものが美しい、おかしなバランスが美しいということを言い出してから、いろんなブランドが影響されました。肩を落とすとかね、ユニクロもやってたけど、世界中にひろがって。いびつなものへの偏愛みたいなものが世の中に蔓延したんだなと思った。もちろん、完璧なドレスにも素晴らしいものはたくさんあります。でも、ヴェトモンのようなものを意識的に取り上げていくのがGINZAの良さだと思っています。

ガッキー 新垣結衣 水谷太郎 中島敏子 GINZA 237 2017

中島:そして問題の、ロマンス特集
太郎:問題の?
中島:2017年かな? 表紙含め、中のページも太郎さんに撮ってもらいました。テレビの影響で、新垣さんが日本中の恋人だった時期でしたね。表参道の駅にポスターを貼ったんですが、みんな写真撮ってたみたい。大変な反響でした。
太郎:雑誌でここまで女優さんをちゃんと撮影したことなかったです。
中島:あれ?そうだったの?
太郎:回数はそんなにない。でも、このお仕事でいろんな発見がありました。ハイブランドの洋服をこうして女優さんに着てもらう機会ってなかなかないんですけど、新垣さんのスタイリングはうまくいきましたよね。
中島:新垣さんはモデルではないので、普段からこういう服を着慣れている人ではないんです。でも、ドリス ヴァン ノッテンのもつ清楚さや適度なエッジーさをものすごく上手に引き出してくれました。ところで太郎さん、現場では全然しゃべってなかったよね?
太郎:はい…
中島:トークで乗せるカメラマンもいるけど。
太郎:あんまりそいういうタイプじゃないんですよ。女優さんや俳優さんって、乗せられ慣れているし、モデルよりも撮られ慣れているんです。カメラの前に立って適応する能力が高いっていつも思う。とくに新垣さんは反応が鋭くて。ここまで鋭い人は、カメラマンがどこを狙っているかに反応する能力が高いんですよね。
中島:なるほどね。

ガッキー 新垣結衣 水谷太郎 中島敏子 GINZA 237 2017

太郎:最初にひつだけ、撮影のポイントは手の使い方ということだけはお伝えしました。感情の表現として。あとはあまり話してないです。
中島:女優さんだから、分かるんですよね。
太郎:その道を極めてる人たちは勘が良いし、飲み込みが早い。俺が偉そうに言うことではないんだけど…そういう人たちは撮っていて楽しいですね。俳優さんでもミュージシャンでもコミュニケーションが直感的で早い。
中島:その瞬間を切り取る太郎さんの反射神経もあるよね。話は変わるけど、この前、みんなで撮影している現場で、突然ツバメの鳴き声がしたんだよね。「あ、ツバメだ!」とみんなが見上げてたら、太郎さんはそれまでモデルに向かって構えていたレンズをツバメに向けたんだよね。あとからその写真を見せてもらったら、一番いいアングルをズバッと切り取ってて。あれ、すごかった。
太郎:鳥を撮っちゃう体になってるんです。
中島:ん?
太郎:鳥が動いた瞬間を撮り溜めてるんですよ、じつは。鳥を撮りすぎていて、どんな現場でも、鳥がいると反応して撮っちゃう。
中島:鳥系カメラマン!? 今度まとめて見せて〜。そういえば、自分の撮りたい位置にモデルを動かして撮るカメラマンもいるけど、太郎さんは正反対ですよね。


シャッターが生みだす

密なコミュニケーション

太郎:なんでもある程度好きにしておいてもらいたくて、ポイントだけ伝えて、あとはその人の力で、その人の瞬間で、自分が計算しきれない”間”とかそういうものを撮りたいんです。
中島:非言語コミュニケーション。
太郎:日本語がわからないモデルでも、シャッターを切る音やタイミングに反応してくれたりする。シャッターって乱暴で強力なメッセージなんですよね。
中島:確かに。
太郎:相手が「ここで撮ってほしい」っていう気持ちもわかるんですよ。最初にまず相手の望むように撮ってあげる。でも、途中からは撮ってあげない。言葉で言う必要はなくて、「あ、ここで撮ってくれないんだ」と思うと相手も間を変えてきたりする。シャッターのコミュニケーション。で、本当にズバっときたタイミングで「そこ、いいよ」と言ってあげたりすると、撮られるほうも理解してくれたりね。
中島:私たちの知らないところでそんな密なコミュニケーションがあったんだ。
太郎:そうなんです、じつは。

中条あやみ 水谷太郎 中島敏子 GINZA 20周年 243

中島:次が2017年8月に発売した、20周年記念号。中条あやみさん。この頃すでに大の売れっ子。中条さん二十歳だったんですよね。それで記念で出てもらったんだ。
太郎:でしたね。
中島:どうやって20を表現しようかと相談したら、太郎さんがアイディアを考えてくれたんですよね。
太郎:また難しいテーマがきたなと思いましたね(笑)。華やかさとお祝いと、いろんな意味を込めるにはどうしたらいいか、考えました。何回も練習して。
中島:3人くらい手タレが入って、手がつりそうになってた。お花をくっつける時間もかかりましたね。
太郎:意外とゼロを作るのが難しかった。

中条あやみ 水谷太郎 中島敏子 GINZA 20周年 243

中島:20年前の服を中条さんに着てもらったりしましたよね。当時からあるブランドをフレッシュに着てもらいました。
太郎:今見ると、懐かしさと新しさと、両方あって。
中島:ウェストポーチとかね。

水谷太郎 中島敏子 GINZA インテリア 249

中島:そしてこれが、今年の3月号、インテリア特集。一年に一回いくらい作るんですが、人気企画なのです。今回はものを作ってる人が住んでいる部屋を集めました。この表紙の部屋は、アートディレクター田沼広子さんの部屋をお借りしたんですよね。撮影小道具もほぼそのままで。

水谷太郎 中島敏子 GINZA インテリア 249

太郎:隙がまったくない部屋で、小物ひとつも動かせなかったです。撮り方としてはドキュメンタリーに近いですね。この部屋にもしこのモデルの子が実際に住んでいたら、部屋の一番いいところをよくわかっていて、光を感じているところを撮りたいっていう。
中島:かわいらしい、雰囲気のある写真ばかりで、数を絞るのが大変でした。
太郎:久々にフィルムカメラで撮っているような感覚でしたね。

GINZA 250 中島敏子 水谷太郎

中島:そして4月号の流行ファッション写真集。一冊まるごと写真集のようなものを作りたくて、この春夏流行の8つのテーマを8人のカメラマンに撮ってもらいました。これがいま最高のものなんだよ!とかなり特別に気合いを入れてね。普段は担当企画を割り振って、スタッフを決めて、各チームがバラバラに動いていくんですが、今回は私からみなさんにいつもと違うことをお願いしました。最初に全スタッフに私からの手紙を見せてもらいました。手紙っていうかレギュレーションなんですが。カメラマンの作品性の高いものでありたいとか、写真は裁ち落としにして白枠を作らないでくださいとか、全部カラーで撮ってください、などなど。


いいものを”届ける”ことに

意識的でありたい

中島:世の中にファション誌はたくさんあります。そして、ご存知のように、どんどん雑誌は休刊しています。作る人たちが一生懸命作っていることが伝わっていないことが、この7年間私はとても苦しかった。ものすごく長い時間打ち合わせをして撮影に臨んでも、一か月経てば雑誌は店頭からなくなってしまう。ファッション誌にどんな意味があるのか、 ラグジュアリーブランドが載っている雑誌って読者にとってどんな意味があるのか、作っている人たちに問いかけてみたんです。もちろん私は数字を負っている立場なので、部数とか広告とか、シビアには見ています。でも、クリエイターのクリエイティビティは最大限伸ばしたい。それがGINZAを形作っているものだから。スタッフが満足する質の高いものを作ればそれでいいのかというと、そうではなくて、きちんと届かなくては意味がない。ファッション誌はこういう多くの問題があることを、作る段階からみんなが理解して作ったほうがいいに決まってる。そうしないと、作り手と、読み手がどんどん乖離していってしまう──というのが私の問題意識にあったんです。作り手はいいものを作りたい。その場のグルーヴを大事にする。でも、ものすごくいいものを作れたからといって、それがどれほどの人に響いているかには興味がなかったりする。まず作り手たちが、ファッション誌の役割を感じながら作るといいとなと思って、この号だけは檄文を送りました。そしたら、まあーーーーすごかったですね。
太郎:知り合い同士のカメラマンもいたり、操上和美さんも撮っていたり、同じ号の他のページで高橋恭司さんも撮っていたりして、久々になんかこう、ドキドキしました。「自由にやれ。なにが撮りたいんだ?」って問いただされることって意外とないから。
中島:みんな隣のチームのことを気にしてましたね(笑)。3月売りと9月売りって、ラグジュアリーのブランドのピークの時期でもあったりするので、みんな使いたいルックがかぶったりするの。それを切り分けて整理するのが辛くて。みんなが本気で選んでるからこそ、「ごめんね〜!」と泣いてもらいながら、コーディネートを選んだんですよね。

 水谷太郎 GINZA 250 中島敏子

中島:太郎さんに撮ってもらったトランスペアレントのページ。これがまた素敵なあがり!
太郎:なにしろ透明って言葉をずっと考えて。さっきの鳥の話じゃないけど、”街で透けてるものを見てしまったら、シャッターを切り続けてきた写真家”になりきりましたね。
中島:モデルとカメラの間にいろんなものがあるんですよね。
太郎:モデルとカメラの間に透明なものを置いたり、モデルが着てるもの自体が透けていたり、とか。さらにその後ろに置かれているものが何かしら透けているものだったりとか。
中島:この左の写真について、語ってほしい。
太郎:これは透明じゃなくて、じつは反射なんです。透明を考えすぎて、透明に見える反射になっているんです。写真を撮ったあとに「実はこういうことなんですよ」なんて普段あまり言ったりしないんですけど、この写真に関して言うと、じつはあるコンセプトがベースにはあるんです。この特集におけるファッション写真とは?という大きなテーマがあって、その次に透明っていうテーマが僕に与えられて、ファッション写真のルーツを探っていったときに、まず一番有名なルーツとして30年代のマーティン・ムンカッチという人がいて、もうひとり僕が大好きなドイツ人写真家ハーバート・リストが出てきます。リストはブルース・ウェーバーとかが撮ってる野外のファッション写真のルーツって言われている人なんですけどね。リストが岩場で鏡を使って、白い布をまとった少年を撮った写真があるんです。ファッション写真としてのリストへのオマージュって意味も込めたかったし、しかもモデルの服がマルジェラの今季の洋服で、縫い目のところだけ羽根になっているという、構造みたいなことに挑戦している。ファッションの根本とか構造に、ファッション写真の構造をかけあわせている….という。でも、そういうのって、なんかね(笑)お話する機会もあんまりないですけど。
中島:たまにはね。
太郎:こうやって、いろんな手がかりから写真を撮ったりもするんですよね。
中島:この写真を見た時、鳥肌が立ちました。今の太郎くんのエピソードって、本誌のメイキングのページでも書いたんですけど、それを見た人がググってくれたりして、みんなが写真に興味をもってくれたらいいなあと思いました。なかなか、作り手って語りたがらないのよね。トークショーにも出てくれないし(笑)。でも改めて見ると、タロウミズタニここにあり、っていう非常に美しい写真ですね。撮影の前にコーデチェックといって、スタイリストさんとコーディネートを見ながら打ち合わせをするんです。コーディネートをそのまま撮っても十分素敵なんです。だけどもっと素敵に見せられないかやってみる。それがファッション誌の面白いとこころです。ティーン誌だと、明日どこに着ていこうかとか、明日すぐ真似できるものでなくちゃいけない。でもモード誌は、あえてはっきり写さなかったり、二重露光したり、いろんなことをやっていくわけです。その代わり、見る人に強烈なイメージを残せたらといいなと思って作っています。
太郎:なるほど。
中島:説教くさいことを言っちゃいますが、最近の若い人はあごが弱いから〜!っていつも言うんですよね。
太郎:あご、ですか。
中島:難しいものに対して「わかんない!」って閉じちゃうことが多くて、柔らかくて噛み砕いて口もとまで持っていってあげないと、食べてくれない。おせんべいをバリバリ噛み砕いて育ってきた大人たちは、子供のあごを少し強くしてあげなきゃいけないんじゃないかっていう気持ちも込めて雑誌を作っています(笑)。

YSL 水谷太郎 GINZA 250 中島敏子

中島:この流行ファッション写真集に入っているサンローランのタイアップのページも太郎さんにお願いしました。これは最初から、動画も一緒に作ってほしいという仕事だったんですよね。
太郎:はい。
中島:スチールで8ページ作って、QRを読み取ると次のような動画が流れます。はい、どうぞ。

中島:2分半の動画でした。
太郎:動画もお願いしたいという依頼は、最近の雑誌の仕事ではとても多いですね。何回か他の雑誌の現場で、一番いい瞬間を僕がスチールで切り取ったあと、じゃあ次は動画チームどうぞということで、モデルが少し動いてみせて、それを動画で撮って、編集されて…みたいなことがあって、「ああー良くないなあ」って思っています。

才能ある若い人が集う
自由な場としてのファッション

中島:なんのために一番いいところを切り取ったんだろうって?
太郎:そう。これが誰が見るんだろう?って。だとしたら、今回のサンローランの依頼は、ムービーのちゃんとしたディレクションがまずあって、午前中にムービーを先に撮って、その中で見つけたモデルのいいかたちを夕方スタジオに戻ってから撮る、という方法で撮ってみました。構造を逆にしたんです。そのほうが面白いんじゃないかって。ムービーのほうはわりと若いスタッフで、音楽もyahyelというバンドのMONJOEに作ってもらったんだけど。
中島:音楽。よかったですよね
太郎:映像を志す若い人や、いい音楽を作っている才能のある人がたくさんいるので、そういう人たちと触れあえる場として、ファッションには自由であってほしいと思っています。ファッションって、いろんなことを包括してると思うし。
中島:動画って音楽にもっていかれるところがあるんですよね。ただなんとなくモデルが動いているだけの動画はあんまり意味がなくて、そこにどんな音楽が入ってくるかで、全然違ってみえる。太郎さんがyahyelのメンバーと知り合いで、ブッキングしてくれて、本当にラッキーでした。
太郎:楽しかったです。実験も含めて、今回のようなことが事例として出てくると、雑誌ももっといろんな可能性が出てくるんじゃないかと思いますね。

YSL 水谷太郎 GINZA 250 中島敏子

中島:あえてページに大きくQRコードを入れているんですよ。小さくしないで。動画とスチールが一緒に展開して世界観を作れるようになるといいですよね。

GINZA 251 中島敏子 水谷太郎 知的な服

中島:4月12日発売の号では、知的な服ってなんだろう?という特集で、非常に頭が良さそうなしゅっとした女の人がたくさん出てきます。でもそれだけで終わるのもどうなの…?と思って、そのあとに、「でも、ユーモアがなくちゃね」という特集も作りました。

GINZA 251 中島敏子 水谷太郎 知的な服 ユーモア

中島:このページを太郎さんに撮ってもらいました。ウィットに飛んだファッションストーリーになっていると思うので、よろしかったらぜひ見てください。表紙もかわいくできました。ということで、おしまい! 質疑応答にしましょう。私のGINZAでの仕事はこのトークショーで最後になります。この際聞いておきたいことはどんどんおたずねください。


【質問者1】
──個人的な質問というか、夢なんですが、ファッション誌の編集をするにはどうしたらいいですか?

中島:直球ですね。そう言ってもらえると嬉しいです。ファッション誌はたくさんあるので、仕事につくのは比較的簡単だと思うんです。でも、雑誌やそれを取り巻く環境ってどんどん変わっています。この雑誌の編集がやりたい!と思って入っても、スタッフが変わることもあるし。職場の人間関係があんまり良くない編集部だってあるかもしれないでしょう?だから、どこに入るかよりも、どんなファッション編集者になりたいかを思い描いて、そのための情報を自分に取り込むといいと思うんですよね。昔活躍した有名なファッションエディターの本なんかも読んで勉強するとのもいいかもね。ライフスタイルや仕事ぶりに触れて、自分の中にイメージを描く。メディアの数自体はすごくたくさんあって、これからはウェブのほうが主要メディアになっていきます。雑誌はなくなることはないと思うけど、存在は小さくなっていくでしょうね。でも、ファッションの編集は紙もウェブも同じ。視野を広げて、大事なのは、ファッションを客観的に見ること。ファッションが好きな編集者ってたくさんいて、自分が着飾ることが好きなタイプの編集者もいれば、純粋にページを作ることに喜びを見出す人もいる。これから大切なことは、ファッション全体を俯瞰して見ることだと思う。「こういう理由があるから、今はこれがいい」ということをきちんと言えるようになることです。人気があってちやほやされるブランドの裏には必ず理由があります。それは社会の動きだったり、人々の空気だったり。それを見極めて、いまどうして、例えばバレンシアガやセリーヌが人気なのかを客観的に見てそれを言語化するクセをつけるといいですね。

 

【質問者2】
──中島さんにとって、ファッションとはなんですか?水谷さんが一番大事にしていることはなんですか?

太郎:大事にしていること、ですか…僕は手段に写真を選んでいるので、写真ってものが刻一刻変わっているということにちゃんと気がついているようにしなくてはと思ってます。写真が生まれて200年弱、人間にとっての写真はめまぐるしく状況が変わっていて、同時代における写真を正確に判断しないと正確に写真を扱うことができなくなるんです。とくにファッション写真は。時代に対して写真がどういう存在であるべきか、一番ダイレクトに影響をうけるのがファッション写真。人って、往々にして、いいね!がいっぱいつく写真がいい写真なのではないかという錯覚に陥る。でもみんながいいね!と思う写真と、自分が撮りたい、撮らなくてはいけない写真は違うものだったりもする。と同時に、時代は移り変わって進化していくし、「いいね!」の写真だって”いい写真”であることには変わりないとフラットに見ることもできなきゃいけない。自分が何を写真と思うかの感覚を鈍らせないことがプロとして大切ですよね。
中島:「いいね!」が押されるものがいいものである、という風潮はありますよね。ファッションも同じで、いいね!を多く獲得するものが売れたりして、実際に着たときの肌触りとかカッティングの美しさみたいなことがおざなりになる。その辺を伝えるのもファション誌の役割。
太郎:ですね。
中島:私にとってのファッション…難しいけど、たかがファッション、されどファッションみたいなところがあって。人間中身っていうでしょ?人間の中身と外見はリンクしていて、どんどん細胞は入れ替わってもいるし、内側と外側は互いに影響を与え合っている。今、女性にとってファッションは社会的意味をもってきていて、人とのコミュニケーションツールという意味あいが強い。自分にしっくりくることは第一義だけど、それと同くらい、社会的な意味も意識したい。男の人はスーツがあるからOKだけど、女の人って、服装ひとつで否応なく「仕事できそう」とか「モテそう」「クリエイティブな人」とか、様々に評価される。もう、かわいいだけじゃないのよね、世の中は。かわいいの先にあるものを、自分で意識的に選ぶことが、私にも、みんなにも、必要なことだと感じています。

 

【質問者3】
──宮沢りえさんの表紙からしばらくは、中島さんらしいカルチャー色が強いと思っていたんですが、徐々にモードっぽさが強くなっていたと思っています。ご自身として、どんな変化があったと思いますか?

中島:本とファッション、音楽とファッション、映画とファッション…自分の得意分野とファッションを掛け合わせてひと通り作ってみたんです。すごく面白かったけど、「面白いけどこれ以上は広がらないな」と思ったんです。満足できた、というのもあるし、自信をつけたということもあります。それで、ファッションの本流に切りこんでみようかなと思って。他の分野に頼らずに、ファッションを扱いながらカルチャーを匂わせる、つまり、ファッションの王道をやりながら実はそれだけじゃないことが奥に隠れている、という。そういう挑戦をしていきました。例えば「おかしなバランス」特集は流行ものもなんだけど、テキストや写真なんかでその奥を探るみたいなことをやってきたつもりです。亜流から入って、本丸に行って、最後はファッションの王道で終わった、という感じです。

 

【質問者4】
──水谷さんの写真が大好きです。12,13年前から太郎さんのスタイルがあって変わらないなあと思います。ご自分では自分のスタイルはぶれていないと感じますか?

太郎:意識的には変えていっているつもりです。撮り方のアプローチだったり技術的なものは、やっていけばやっていくほど、クせとか自然とそう撮ってしまう「塊」みたいなものが強くなっていってしまうんです。それをいかに壊して新しいものを取り入れる心積もりでいるかを、すごく大事にしてますね。自分でかなり意識的に変わっていかないと、変わっていっているように見えないんです。だから、いま、「変わっていない」って言われて…少しショックです(笑)。

 

【質問者5】
──太郎さんはフィルムからデジタルに移行されたのが遅かったと思うんですが、実際にデジタルを使ってみて、何か変わりましたか?

太郎:僕、ぎりぎりまでフィルムで粘っていたんですよ。というのは、フィルムを扱えるのと同じように、完全な形でデジタルを扱いたかったから。今って逆に、フィルムを撮る若い人が増えてきた。でも、僕いつも思うんだけど、ノスタルジックだとか写真の質感がいい感じとか、そんなところでファッションがかっこいいとか可愛いとかって簡単に表現できるわけじゃないんです。皮肉っぽくなちゃうけど。もっと別のところでファッション写真って勝負できるんですよ。若い人にはもっともっとデジタルで写真を撮って、誰も見たことがないようなデジタルの使い方や表現っていうのを見せて欲しいし、教えて欲しいですね。デジタルをもっと僕らより率先して使って、デジタルの可能性を探るほうが新しい発見があるんじゃないかと思っている。
中島:確かに、そうだね。

 

【質問者6】
──将来雑誌の編集者になりたい。この時代、どんな資質が求められていますか?

中島:いろいろあるんですけど…本当に。これから編集者を目指す人には、多機能なことが求められるでしょうね。ひとりでパッケージングまで考えられる人、というか。ここからここまで全部できないと許されないような。編集者もただ作っておしまいじゃなくて、本を売るための方法まで考えなくちゃいけない。川下が現場の職人なら、川上は発注者。「こういう意図だから、こういう仕事が必要だ」という川上の視点をもって、そこから川下までまるっと全部自分でできる、それが未来のクリエイターだと思います。単機能で、「これだけは得意」という強みをもっている人ももちろん大事ですけどね。
太郎:確かに、いろんなことを立体的に考えざるをえない時代。個人的にはそんなに器用じゃなくてもいいじゃん…とも正直思うけど。
中島:そっか。
太郎:例えば昔なら、フィルムなら現像所があって、デザイナーがいて、カメラマンは写真を撮るだけでよかった。でも今は写真を撮ってレタッチもして、デザインもして、納品もして。コンピュターひとつで動画編集までできちゃう…こういうことが事実として起こってしまっている。いろいろ出来る人がいてもいいし、でも、不器用な人がいてもいい。自由でいい。自分が何が好きで、何がやりたいかを考えることは大事だと思いますね。
中島:そう。好きな気持ちが一番大事。編集の現場で意見が割れたときは、私は一番熱量が高い人の意見を採用します。その企画で一番汗を流した人が一番エライという法則。編集方針とあまりにも違うときはNGも出すけど、基本的には「ここまで注ぎ込んだ」という人のエネルギーに従う。と言いつつ、こうやって太郎さんも撮った後に写真のデザインまでちゃんとしてるんだよね(トランスペアレントのページを見ながら)。二枚の写真を重ねたり、ずらして並べてみたり。
太郎:そのほうが思いは伝わりやすい。
中島:撮って終わりじゃなくて、より強く相手に伝えるためにパッケージができる能力は、あるに越したことはないと思います。

 

【質問者7】
──水谷さんに質問です。中島さんは、水谷さんの撮った写真を初めて見る立場ですよね。作品に対してどんな風に対処するというか…なんて言われますか?

太郎:僕にとって敏子さんはスター編集者なんです。若い頃、ネットがなかった時代に、『relax』を食い入るように読んで、こんなに面白いことが世の中にはあるんだ!と思ってきたんです。その雑誌を作ってきた敏子さんと今こうして仕事をしているのはとても不思議。胸を借りている感じ。僕の写真については…褒めてくれます(笑)でも、駄目なことはちゃんと駄目と言ってくれるし。すみません、なんか、こんなこと言っちゃって。
中島:いえいえ。私にとって太郎さんは、予想していなかったものを見せてくれる人です。「こういうことになるのか!」って。なんていうか、スポーツ選手みたい。鳥のエピソードじゃないけど、運動神経いいよな〜、っていつも思ってる。そういうのって写真に出てくるから。裏切り方が華麗でさわやか。まあ、お人柄もあるけど。以前ミスターキングを撮ってもらったんだよね。あれも面白かったね。
太郎:あれね…すごい球投げられた。ジャニーズJr.か…!って。ラップができるスタイリストと面白いヘアメイクのおじさんを呼んでみんなでカラオケボックスに行って、スタっフみんなで合唱しながら写真を撮りました。
中島:お兄さんたちが年下の男の子たちを盛り上げている感じもよかったし、自然な表情を引き出せていました。太郎くん、幅広い芸風ですよね。その節は、本当にありがとうございました。
太郎:こちらこそです。

 

中島敏子 水谷太郎 GINZA 編集長 フォトグラファー 蔦屋書店 トークイベント
最後におふたりでぱちり。平日の夜にも関わらず、立ち見が出るほど大盛況!

 

■後編 写真家 奥山由之さんとの対談はこちら

Text:GINZA

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