完璧にバランスをとるのもいいけれど、不完全であることにも魅力がある。アンバランスを体現していると思われる注目ブランドに直撃取材し、2020-21年秋冬パリコレのオフランウェイでルール度外視の着こなしを激写。アンバランスについて真面目に考えてみる。
注目ブランド、アンバランスの魅力を考察〈Y/PROJECT〉〈JennyFax〉
Y/PROJECT
体に巻きつくような、ねじれたデザインがブランドの代名詞。
「僕はバランスがとれた建築が立ち並ぶベルギーの街で生まれ育ち、当初はそれをデザインで表現しようとしていました。でも、次第に自分自身の世界を反映させ、バランスを崩したりすることに新しい美を見出すようになったんです」(クリエイティブディレクター: グレン・マーティンス)
2020-21年秋冬コレクションに登場した、前面に深いVカットが施されたパンツ(写真上)も、イギリス・エリザベス1世時代(16~17世紀)のコルセットが着想源。それを現代的に表現した。
「ただ見た目がかわいい服を作ろうとしたことはありません。服の構造をツイストして、楽しく服を着てもらいたい」
奇をてらっているようには見えないのは、長い歴史を持つ西洋の美を理解しているからこそ。カナダ出身の彫刻家、デイヴィッド・アルトメイドの作品の「狂気を帯びた美」に共感するという。
オーソドックスなアイテムに得意のツイストを効かせている。デニムはまるで2枚のパンツを重ねたようなデザイン。コットンジャージーのポロシャツ ¥34,000、パンツ ¥57,000(共にワイ プロジェクト | アデライデ)
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Glenn Martens
ベルギー生まれ。アントワープ王立芸術アカデミー卒業後、2013年ワイ プロジェクトのクリエイティブディレクターに就任する。17年ANDAMファッション・アワードのグランプリを受賞。
JennyFax
レースのノースリーブドレスとシャツには、刺繡作家・松永春菜によるお菓子やハート、リボンなどの刺繡が施されている。シースルーのフリル付きトレンチコートを羽織って。チュールのコート ¥42,000、ドレス ¥48,000、一番下に着たシャツ ¥40,000、ソックス*参考商品、シューズ ヒール6cm ¥25,000(以上ジェニーファックス | エムエイティティ
フリルやレース、ファンシーなモチーフであふれるジェニーファックスは、少女性の打ち出し方や装飾が時に過度とも思える。しかし、デザイナーのシュエ・ジェンファンはまったくそう感じてはいないよう。
「出身地である台湾には、ミニマルな発想がありません。たとえば料理も一皿に全部盛ってしまう。色が地味な日本そばは、最初おいしいと思えなかったくらいです(笑)。だからものづくりでも、寂しくなるのがいやで、いつも足りない、と感じてしまうんです」
賑やかなものを好むと同時に、映画『悲情城市』に流れるようなノスタルジーを持ち合わせるという台湾の国民性。加えて、「かわいいものは作りたいけど、かわい過ぎるのはいや」という「反抗心」もあり、メンズのジャケットの後ろにレースを付けたり、ピンク色のかわいい服にエロティックさを出したりする。身に染みついている文化と、バランスへの反抗がジェニーファックスを形作っている。
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Shueh Jen-Fang
1979年、台湾生まれ。パリやブリュッセルでファッションを学び、2006年に夫・坂部三樹郎が手がけるミキオ サカベ立ち上げに伴い来日。11年ジェニーファックスをスタートさせる。