現代のものにはない色や柄、フォルムに無性に惹かれるのはなぜだろう。時間という魔法にかけられて、それらはとってもチャーミングな輝きを放つ。ヴィンテージを愛する人に“いちばんのお気に入り”を見せてもらいました。
クローゼットの宝もの 舟山瑛美さんのヴィクトリア時代のジャケット
ウエストを絞ったシルエット、数え切れないほどのボタン、わずかに光沢の残るシルク生地。舟山瑛美さんが大切に保管しているのは、19世紀末のヴィクトリア時代のものと思われるジャケット。
「ファッション専門学校に通っていた二十歳前、東京渋谷の古着店で偶然見つけて手に入れました。当時は服飾史を勉強していた頃。値段は3万円くらいで学生にとっては高かったんですが、どうしても欲しくて。自分で着るためではなく、コレクションとして手元に置いて、細部まで隈なく調べたくなったヴィンテージはこれが初めて。だからとても思い出深いんです」
素材は質感のいいシルク。しかし構造が現代の服とは違ってダーツが今では考えられない入り方をしているし、ミシン縫いではあるが、ロックミシンはまだできていなかったと推測される。そして機能がわからない背中のベルトなど、気になるポイントばかり。
「ウエストの太いリボンは生地が違うので後付けの可能性があります。誰がどのタイミングで何のために付けたのかと、背景を空想させるのもヴィンテージの面白いところ」
昔からコルセットや、それに付随するボーン、レースアップなどのディテール、ボディコンシャスなシルエットに惹かれていた。その志向が、体を細く絞っていたヴィクトリア時代の服と、身体をどう見せるか、という興味につながっていったという。
「作り手となった今も、このジャケットのようなシルエットが好きです。フロントに並ぶ独特のボタンの間隔や、ダーツの入り方も好みのバランス。インスピレーションソースにするときもあります」
舟山さんが考えるヴィンテージのよさは、クォリティの高い服、特に一般のものとは一線を画す、メゾンブランドのウェアに手が届くこと。
「ただ買いやすいだけではなく、昔のオートクチュールやメゾンのピースは、人の手と時間をかけて丁寧に仕立てられているものがほとんど。その高い技術を味わえるのが大きな魅力であり、デザイナーにとっては『これを再現したい』という着想源にもなります。自分のブランドを立ち上げる際、いつかヴィンテージになるものを意識して作ろうと、念頭に置いたことを忘れないようにしたいですね」
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舟山瑛美
ふなやま・えみ>> 〈FETICO〉デザイナー。1986年茨城県生まれ。英国留学から帰国し専門学校卒業後、コレクションブランドなどを経験。〈CHRISTIAN DADA〉ウィメンズデザインを手がけた後、現職に。