ファッションマガジン『L'OFFICIEL Russia』のスタイリスト、ファッションエディターの経歴を持つAndrey Artyomovによるモスクワ発祥・ファッションブランド〈WALK OF SHAME〉。ロシア系デザイナーやスタイリスト、モデルがここ近年活躍を見せる中、すでに〈WALK OF SHAME〉は今年で6年目を迎える。少し恥ずかしいと思うようなシチュエーションやモスクワ独特のカルチャーを元にした服作りは独自のユーモアセンスとして既に多くの海外ショップやセレブティの心を掴んでいる。少しシャイに見えた彼だったが、服の話になると自ら立ち上がりノンストップで説明してくれる程ブランドと故郷をこよなく愛している。バックグラウンドはもちろんのこと、地元のモスクワ・ウファやインスピレーション源について伺った。
ブランドを立ち上げる前からファッション雑誌を中心に活動されていたそうですね。雑誌で働く以前のバックグラウンドについて簡単にお話ください。
地元のモスクワ・ウファの大学で、ファッションデザインコースを専攻していました。学内のコンテスト形式で開催されるショーで受賞した時、『L'OFFICIEL Russia』の編集長が会場でコレクションを見てくださり、インターンシップを受けさせてくれました。数ヶ月インターンを行ったのちも、彼女がそのままアシスタントとして雇ってくれて、学生生活と両立させながらアシスタントとして経験を積みました。結果8年間『L'OFFICIEL Russia』で働いて、スタイリストやファッショエディターなど色々と経験しました。当時ロシアには4つのファッション雑誌しかなかったのですが、その後なにかそろそろ新しい環境に移りたいと考えていた時にコンデナスト社の『Tatler』の立ち上げに関わりました。そして『Tatler』の後には、経済的問題でIssue 0 のみの発行になってしまいましたが、Dazed&ConfusedのJefferson Hackに『Dazed&Confused Russia』の立ち上げ時にファッションディレクターとして任命されていました。
母国で様々な媒体を経験したんですね。それでも学生の頃の気持ちと同じく、ファッションブランドを立ち上げる気持ちは変わっていなかったのでしょうか?
そうですね。そのように様々な媒体を経験したのち、ふと自分のルーツに戻ろうと決意したんです。ここでやらなかったら、後先後悔すると感じていた程自分にとって大きな夢でした。でも、もちろんブランド経営や服作りに関しては0からのスタートだったので困難も多かったですが、今までファッション雑誌で積んだ経験も十分活かせています。雑誌でパリやロンドンなどのショーを見る時に、デザイナー視点から編集者やスタイリストの視点からと両方の視点でショーを見ています。そうすることでデザイナー視点として多くの新しい学びを得られています。
モスクワを拠点に活動していた所からどのように国内外へブランドが発展していったのでしょうか?
ブランドの最初のクライアントは「Opening Ceremony」でした。Instagramを通してブランドを知っていただいたのですが、当時はモスクワ拠点にオンライン販売しか行っていませんでした。彼らから前向きな反応とパリで服を見たいというご返事をいただいたので、その次のシーズンではなんとかパリの普通のアパートの1部屋でショールームを開催しました。そのように徐々にブランドが発展していき、2年前には「Riccardo Grassi」とイタリア、パリのショールームで展示会を開くようになりました。ブランドは6年目を迎え、テイラーやプレス含めていまは15名のスタッフと仕事をしています。
ブランド名がユニークですが、どのような意味でしょうか?
まだブランドを立ち上げていない頃に、友達のCharlotte Phillipsとラリー・ガゴシアンの夕食会に行った時、彼女が知り合いに僕をファッションデザイナーとして紹介したんです。もちろんみんなブランド名やどんな活動しているのかと質問するので、その瞬間彼女が閃いたように「WALK OF SHAME!」と言ったのがブランド名の由来です。彼女曰く、僕そのものを表している単語だと思って咄嗟に出た言葉だったそうです。〈WALK OF SHAME〉の意味についてよく聞かれるのですが、例えばビーチに行ったとき、指輪を取り外すのを忘れていてその部分だけ白く残ってしまう、そういう恥ずかしい体験も〈WALK OF SHAME〉になりえます。特に決まった定義はないので〈WALK OF SHAME〉はシーズン、アイテムそれぞれで異なる意味を持ちます。僕の中で一番大切なのは、リアリティに寄り添いながらも異なる個性やキャラクターを見せること、それを肯定できるような服作りをしています。
アイテムでは90年代のストリートグラフィックのようなモチーフが使われていますよね。
このグラフィックは、高級車からインスピレーションを受けて作りました。高級車なのになぜか馬鹿らしくて意味不明なステッカーが貼ってある、そういうシチュエーションをイメージしています。そういう正反対な意味がミックスしているのも〈WALK OF SHAME〉らしいと言えます。このTシャツは、SNSでパスワードを忘れた時に出てくる暗号からインスパイアされました。グラフィックデザインでは、他にも幼少期に強いイメージを受けた「SONY」のロゴから「SORRY」に変換したタイポグラフィーのアイテムも作っています。
そのように何かシチュエーションからインスパイアを得ることが多いのでしょうか?
そうですね。このドレスの場合だと、ビーチ近くのホテルに泊まった女性が泳いだ後シャワーを浴びて一呼吸つく時のスタイルを意識しました。タオルを簡単に巻いてリラックスするようなイメージがタオル地とシルエットから感じていただけるはずです。またルックにも登場するウファにあるボーイスカウトのキャンプ場からインスパイアされたハットも展開しています。
ルックの撮影場所ともなった地元・ウファ独特のカルチャーや感性も落とし込んでいるのでしょうか?
ニューヨークファッションウィークで初めてプレゼンテーションを行うタイミングだったので、何をニューヨークで見せたら面白いか考え、自分の生まれ故郷を舞台にしました。ウファはロシアの一部で、ファッションの学校もカルチャーもある普通の街です。市名が書いてある看板がそれぞれ市の入り口に立ってるのですが、入る時は普通に地名が書いてあって、反対側から見ると赤い線が引かれているんですよね。住んでいる人側から見ると赤い線が引いてあるんです。それをインスピレーションにしたTシャツがこちらです。
様々なストーリーを表現していますが、ブランドに一貫して言えるコンセプトを教えてください。
一貫して言えるのは何か正反対の意味をミックスしていることです。例えば、自然と都会、フェミニンな要素とメンズのシルエット、先ほどのグラフィックのような高級なものと馬鹿らしいモチーフなど。こちらのドレスは、フェミニンな素材に対して強さを感じるチェーン柄をのせています。今回フェミニンな要素は、ジョージア・オキーフからインスピレーションを受けています。彼女のフェミニズムをわざとオーガニックなアイテムや都会的なイメージなど様々なものとミックスさせているのです。
今までのファッション雑誌での経験はどのようにブランドへ影響しているのでしょうか?
無意識的に影響しているかもしれないです。スタイリストとして働いている時から、ストリートとエレガンスな要素をミックスしながら、サブカルチャーも取り込んで遊んでいました。メジャーなカルチャーもサブカルチャーもミックスしていた延長線に、アイテムでご説明したようにハイとロウの要素を混ぜています。ただ洗練されたものというより、少し遊びが効いているものを作りたいと思います。また自分が若い頃そうだったように、靴下や小物などブランドの若い年齢層のファンが買えるようにアイテム展開も工夫しています。
いまの時代感とどのように関わっていきたいですか?
いまみんな個々の個性を表現したいという気持ち強いと思うので、そういう考えをサポートしていきたいです。自然と10年前からスタイリストとしてストリートキャスティングを行い、5年前にはブランドとしてルックにストリートキャスティングのモデルを起用しました。そのようにそれぞれ違う美、個性があって当たり前だと思いますし、そういう個性が僕にとって一番大切です。
WALK OF SHAME
2011年『 L’Officiel Russia』のファッションエディターやショーのスタイリングを手掛けているスタイリストの経歴を持つ、Andrey Artyomovによってローンチしたモスクワ発祥ブランド。NYや東京の” it girls”やセレブリティを熱狂させるようなコレクションを毎シーズン展開。その抜群な着心地の良さに加え、洗練されたファブリックのミックス、フォルム、カットワークといったそれらのアイロニックなアティチュードは、海外セレブのLeandra Medine Cohen, Katy Perry,Camille Charriere,Natasha Goldenberg,Rihannaから絶大なる支持を得ている 。
2000年代前半のパーティーシーンから論争の激しいソビエト時代の幼少期、惜しみなくも洗練されたセクシャリティへのノスタルジックな発想に基づいたアプローチを進化させている。
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