10 Jan 2017
YAECA × 大野メリヤス工業所 – 世界に誇る、日本のものづくり。デザイナーが信頼する、工場やアトリエに潜む魅力とは?

有名メゾンの展示会で「実はこの生地は日本の〜」と、告白されることがよくある。トップデザイナーをも魅了するその技術とはどんなものなのか? そこで4人のデザイナーに教えてもらいました。クリエイションに欠かせない、技術や職人さんから見えてきたメイド・イン・ジャパンの底力。
天然染めの商品に定評がある〈ヤエカ〉にも話を聞いてみた
「ぜひ紹介したい人がいます。ニットの変態さん(笑)」
とデザイナー井出恭子さんが語るのは、大野メリヤスの大野政さんだ。
「ニットって、完全な設計図を作ったとしてもその通りには絶対いかない厄介な存在なんです。糸の調子だったり、織る人の気持ちでも、糸の揺らぎは変わってきます。ところが大野さんは、設計図とは違った角度から、素晴らしい提案をしてくれて、さらに妥協せずに納得がいくまで直してくれる。情熱家の大野さんのおかげで、ヤエカのニットの可能性は無限に広がりました」
そこで会いに行ってみると、山形のりんご畑の中にある自宅兼工場には、職人5名が働いていた。
手動式横編み機など、古きよきものが並ぶ工房にヤエカのニットのための糸がたくさん置かれていた。
「イギリスのインディーズバンドって、たとえ音響設備が整っていなくても素晴らしい音楽を作るじゃないですか。うちも規模は小さいですけど、そういうインディーズ活動ができればいいなあと思って」
大野さん、なんとお茶目で豊かな感性の持ち主!
「うちは電力を使わない時代遅れの手横(て よこ)(手動式横編み機)で編みます。目指す風合いをきちんと設計しながら、それぞれの糸に合わせてスピードと力加減を調節する。全工程が手仕事で手間がかかる。意図的に、伝統的、古典的な技術や機械で作ってはいるけれど、そのブランドに合った今の時代の空気感や存在感があふれるニットを作っていきたい」
手横機は織れる横幅に限りがあるので、身頃はいくつかの編み地を手作業でつないでいく。これも繊細なニットの表現のひとつ。
ヤエカのニットに程よい起毛を施すため、アザミの実で仕上げの工程を行う。
昭和40年代の機械を使いやすいように改良している。
技術だけではない洗練された感性も、
支持される職人さんに共通するものなのではないだろうか?
大野さんが手がけた今季のニットに触れる井出さん。
手前: 襟付きカーディガン¥50,000、奥2枚: クルーネックセーター 各¥42,000
(共にヤエカ | ヤエカホームストア)
Photo: Takehiro Goto
Text&Edit: Nanae Mizushima
GINZA2016年12月号掲載