04 Jan 2019
モダンチャイニーズの系譜を継ぐ美しい中華。ちょうどいい麺と完璧な小籠包 チャイニーズ・ニューウェーブvol.1

今、東京に中華料理店がたくさんできている。なんだかめでたいことである。 湖南省、蘭州、花屋さん、鴨、発酵。いろんなキーワードをたずさえて。 2018年にオープンした東京新中華、ここにあり。
「 O2 」
清澄白河
黄色のネオンが導く、
清澄白河の中華。
清澄白河で中華、と聞いただけですでに美味しい予感はしていた。そしてチャーシューが出されたとき、それは確信に変わった。まずどの角度から眺めても完璧な長方形。つやつやときらめいた肉を口に入れれば、八角のスパイシーな甘みがじわじわやってきて、まるで夢のよう。
「O2」の中華は、見た目も味もとにかく美しい。サラダには〆サバのまわりに葡萄があしらわれ、きらり輝く卵の炒めものには香ばしいパクチー。秋野菜なんて、さっきまであんなに中華鍋のなかでザッザッと荒く熱されていたのに、こんなに行儀よくやってくる。それでいて車海老はぷりっ、マコモダケはザクッと、音が弾けるくらい食感が生きている。牛ホホ肉の横顔はまるで地層のようで、フォークで簡単にくずれる。とろりとした牛肉にソースをよく絡ませて食べると、肉の旨味のあとに舌先をツンと刺激する甘酸っぱさ。その正体は酢豚でおなじみの糖醋なのだけれど、いつもの中華のようなわかりやすい使い方ではなく、あくまでひっそり。こうして酸味やスパイスを巧みに使うことで、ともすれば欧風にも感じられるようなひと皿に、しっかりと中華の輪郭を与えているのだ。「もとは洋食がやりたかったんです」という店主が目指すのは〝食べ疲れしない中華〟。ヴァン・ナチュールを片手にカジュアルに、でも少し背筋を伸ばして、その可能性を味わいたい。
店名「O2」の由来は、店主・大津光太郎さんの名字から。日本でモダンチャイニーズというジャンルを切り開いた、「トゥーランドット」脇屋友詞シェフのもとで15年修業を積み、今年3月地元・清澄白河に店鋪をオープン。メニューはコースのみで、¥10,000(フカヒレ付き)と、¥5,000の2プランから選ぶ。メニューは日によって異なるが基本は7皿。この日作ってもらったのは、焼きたてチャーシュー、〆サバと葡萄のサラダ、キノコと牛ホホ肉の煮込み、パクチー卵炒め、天然車海老と秋野菜の炒め。
「O2」
住所: 東京都江東区三好2-15-12
Tel: 03-6458-8988
営業時間: 18:00〜23:00LO
休: 月*不定休あり
「西北拉麺」
水天宮
厦門で独自進化を遂げた、
進化系蘭州拉麺が上陸。
細い麺が好きで好きでたまらないという方に朗報。水天宮の「西北拉麺」には、長くて細くて弾力もベストなちょう〜どいい麺があるのだ。汁なしの牛肉拌麺を注文すると、厨房のシェフが小麦粉をこねて伸ばして伸ばしてこねて、あっと言う間に切れ目のない1本の麺が誕生。10秒ほど茹でたらもう出来上がりで、牛肉ソースを真一文字にあしらい、ザーサイとパクチーと小ネギを添えてはいどうぞ。麺をソースと和えながら、ぐるぐる混ぜていただくと、コシは上等。じゅわっと来る肉の旨味も、ザーサイのシャキシャキ感も、胡椒の効き方も、口のなかで何もかもがちょうどいい。香酢や自家製辣油を入れて少し変化を楽しみつつ、ズルッと完食。
いわゆるムスリムの少数民族・回族がつくる〝蘭州拉麺〟に属する麺なのだけれど、数十年前から福建省の厦門で独自発展を遂げて、今や500店鋪ほどに増えているのだそう。現地では牛肉ダレがのった汁なしタイプが主流で、店ごとに味が違うらしい。石材会社を営むオーナーが出張時に食べて感動し「この味を日本でも!」と説得。ムスリム以外には教えない製法だけれど、交渉に交渉を重ね、ハラル認証をとるなら、という条件付きで伝授してもらった。だから豚肉はもちろんなし。素材を吟味し、牛肉も国産の良質なものを使っている。そのうちごはんものも登場する予定、とのことで、次なる厦門の味を心して待ちたい。
水天宮駅から徒歩5分の場所に10月オープン。豚肉や酒類を用いずイスラム法に準拠した安心できる食材を使う、ハラル認証取得済みで、海外客も多い。メニューは牛肉拌麺 ¥780、牛骨薬膳拉麺 ¥800、海老拌麺 ¥780、夜限定の牛肉トマト拉麺 ¥880。トッピングにはパクチー増し、半熟煮たまご、角切りチャーシューなどが選べる。
「西北拉麺」
住所: 東京都中央区日本橋蛎殻町2-2-2 山口ビル1F
Tel: 03-6884-1173
営業時間: 11:00〜14:30・17:30〜21:00LO
休: 日祝*土は昼のみ営業。スープがなくなり次第終了
「 小籠包マニア 」
神田
神田の高架下で食べる、
本気の小籠包。
「点心の中でももっとも難しいのが小籠包なんです」と店主は言った。皮を薄く伸ばして具材を入れ、切れないようにしっかりとヒダを作って留めていく。この伸ばす技術と包む技術を会得するのは至難の業なのだという。確かに蒸し器から取り出した小籠包は、中身が透き通るほどの薄さ。そっとれんげにのせ、黒酢をかけてちゅるりと食べれば、皮から肉汁があふれ出す。饅頭とか餃子とか、包むものには事欠かない中華の世界だけど、小籠包はまるでウイスキーボンボンみたいにキュートで、そのなかに高度な技術が詰まっている。
なぜか「北京蒸籠」と籠屋の看板を出している「小籠包マニア」では、数カ月にわたり本場台湾で小籠包を食べ尽くし、日本人の点心師から味と技術をしっかり吸収。点心はすべてオーダーが入ってから手作り。皮が薄くても丈夫なのは、イースト菌のような老面の存在。現地ではどの小籠包店もぬか床のように持っているそうで、ここでも自家製老面が大活躍。豚肉ベースに鶏ガラスープをいれたプレーンタイプがいちばん人気だけど、黒いかけらがドンとのったトリュフ味、カニ味噌と具を混ぜ込んだカニ味もクセになる。一品料理では紹興酒ベースの自家製ダレにつけこんだ酔っぱらい海老も美味。そうそう、ちまきはあるけど、いわゆる炒飯やラーメンみたいながっつりメシがないのはあえての選択。心おきなくちゅるちゅると小籠包の贅をつくそう。
都内に3店鋪を展開する「ギョウザマニア」の新業態として10月オープン。メインとなる小籠包は4個入りと6個入りがあり、味は原味(プレーン) ¥450〜、蟹肉(カニ) ¥980〜、松露(トリュフ) ¥1,080〜の3種類。一品料理では酔っ払い海老 ¥320(一匹)、よだれ鶏 ¥780、レタスオイスターソース ¥580、美味蒸鳳爪 ¥420、ちまき ¥380などがある。生ビールからハイボール、紹興酒、赤白ワインなど酒類も豊富。
「小籠包マニア」
住所:東京都千代田区鍛冶町1-2-13
Tel: 03-3525-8929
営業時間: 17:00〜23:00LO、土17:00〜22:30LO
休: 日
Photo: Tomo Ishiwatari/Kazuharu Igarashi Text: Neo Iida Cooperation: Akiko Matsuki
GINZA2019年1月号掲載