銀座コリドー街の雑居ビル内にあるハイボールの館「銀座ロックフィッシュ」。チャージとうんちくのいらないお店として、気軽さをウリにしているバーだが、こちらの店主、間口一就さんが作るハイボールは、宇宙一おいしいともっぱらのウワサ。さらにつまみ愛にもあふれ、これまでに数々のつまみ本を出版。現在も自ら締め切りを課し、電子書籍『まぐちのつまみ』を不定期で配信するほど、日々オリジナルレシピの開発に励んでいる。缶詰など、身近にある食材を使って、簡単に作られるものか多く、これが驚くほどおいしい。お客さんにレシピを聞かれれば、嫌な顔ひとつせず…、というかキラリと目を光らせて、「よくぞ、聞いてくれた! どうぞ真似して、して♡」と、間口さんは気さくに作り方を教えてくれる。
「大学の時に、バーでアルバイトを始めてから28年。この世界に片足突っ込んだまま、抜け出せなくなった感じ(笑)。2002年に今のお店を開いたんだけど、昔から缶詰が大好きだったので、オープン当初から缶詰を使ったアレンジメニューを作っていましたね。その頃は加工品だけでなく、野菜や魚など生鮮食品もたくさん仕入れて、サラダやカルパッチョも出していました。でもバーだから食べるお客さんが少なくて、食材を無駄にすることが多かったんです。だから最小限の食材で、最大数のメニューを作ることにシフトしていった。ちょうどその頃、『銀座ロックフィッシュ』は、ハイボールと缶詰を使ったつまみがおいしいと、クチコミで広がりはじめたこともあったから、その2つに特化しようと思ったんです。昔から珍しい缶詰を見かけたら絶対に買って、味見していたので、缶詰に対する知識のストックがあったことも大きかった。当時主流だった、ツナやシャケ、コーンなど素材感を生かした調理缶詰に、ひと手間加えてハイボールに合うつまみを作るのは、本当に楽しくて! 最近のものは、『缶つま』のように、そのままでおいしい料理缶詰が多くなってきたので、あまりアレンジしないですけどね」
間口さんがアレンジメニューに使う缶詰たち。コンビーフやソーセージ、オイルサーディンなど、昔から愛されている王道缶詰が多い
「僕はシェフじゃないので、固定概念に縛られることなく、自由な発想で日々レシピを考えています。料理する時、たとえば麻婆豆腐を作るとなったら、豆腐とひき肉が絶対に必要ですよね。でもつまみというカテゴリーで考えると、絶対にこれが入っていないという決まりがなくなるので、料理に対する垣根が下がるんです。だからこそ、つまみには無限の可能性がある。僕が作るのは料理じゃなく、あくまでもつまみ。合わせるのは、ごはんではなくお酒。だからたくさん食べたくなるようなものではなく、少量でもお酒が進むもの、満足してもらえるものをいつも心がけています。缶詰は量もつまみにちょうど良くて使いやすい。それに缶詰が好き過ぎるから、そのまま味わうだけでなく、もっとそいつの可能性を広げたくなるんです。好きな子の新しい一面を知りたいみたいな(笑)。そこでアレンジする時に大事になってくるのが調味料です。料理酒ではなく、日本酒(純米)を使ったり、醬油風調味料のような〇〇風は使わないとか、調味料ひとつでおいしさが左右されるので、ヘンなものは絶対に使わないようにしています。それは今までいろんなつまみを作って、たくさん失敗してきたからこそ得ることができた知識。そこさえちゃんと押さえておけば、どんなアレンジをしても、そこそこおいしいつまみができると思います」
京都の缶詰メーカー「竹中缶詰」のオイルサーディンを主役にした定番つまみ。小さいイワシを使っており、臭みやえぐみが一切ないだけでなく、見た目の美しさも惹かれると間口さんイチオシの缶詰。油を切って、純米酒と醤油をかけて、山椒の実をのせる。さらにコショウを振り、2~3分火にかけるだけ。山椒がピリリと効いて、ハイボールと好相性
スコットランドの郷土料理「スコッチエッグ」をイメージしてアレンジ。「ノザキのコンビーフ」にマヨネーズとケチャップを和えてパテを作る。パテを板状に伸ばして、ゆで玉子を包み、白ごまをまぶすだけ。付け合わせはマカロニ入りのポテサラ
このつまみは、缶詰不使用だが、間口さん渾身の自信作「三枚肉(厚切り)」。使用するのは、間口さんが探し求めてついに出会った、沖縄県安里の市場内にある精肉店から仕入れる皮付きの三枚肉。これを酒と醤油、みりん、五香粉(ウーシャンフェン)を入れて、2時間じっくり煮込んだもの。とろけるおいしさにヤミツキ覚悟。この沖縄豚の生肉を手に入れるために、間口さんはなんと月2回沖縄へ!! お店や仕込みもあるので、毎回の滞在はなんと2~3時間だとか。恐るべし
宇宙一の呼び声が高いハイボール。冷凍庫でキンキンに冷やしたアルコール度数43度の希少な復刻版角瓶を使用。ウイスキー60mlに、ウィルキンソン1本(190ml)を入れて、仕上げにレモンピールで香り付け。氷を使わないのが間口流。たったこれだけなのに、ウイスキーと炭酸の一体感が半端なく、レモンの爽やかな香りが鼻を抜け、なんともクリアで、スッキリとした後味。誰も真似できない、今まで40万杯以上作ってきた経験が生きていると間口さん。もし自宅で作るなら、ピールではなく、レモンスライスを浮かべてもOK。香りの持ちが良くなるとか