24 May 2018
今行くなら”半分くらい外”の店 月下

〈赤羽橋 月下〉
ひっそりと、でも大きく開いた塔の下。 まさに、外とつながる夜。
麻布十番で飲んだあと歩いて帰りたくなって、夜の港区をふらふら。東京タワーのまばゆいオレンジに吸い寄せられた先に、その店を見つけた。橙に包まれた「月下」。その扉は優雅に放たれていて、良ければどうぞと話しかけてくるようだった。まわりも明るいことだし、扉のフレームをスクリーンに見立て観察すると、ワンシチュエーションの映画に見えてくる。扉の奥のカウンターのバーテンダーは、今夜も丁寧にカクテルを作る。男女はしっとりとソファに腰掛け、おしゃべりを続ける。あるいはこれが舞台なら、誰かあの小上がりに座ったほうがいい。絶対に絵になるし、気持ちがいいはずだから。縁側と呼ぶのはちょっと違う気がするけど、気持ち的にはじゅうぶん縁側だ。誰も座らないならと、バーテンに一声かけ、座ってみた。歩いたら、少し暑い。モヒートを1杯飲んでいくことにした。ホワイト・ラムがたっぷりダブルで注がれて、だいぶパンチのある2軒目になったけど、そんなことより縁側だ。足を放り出して座れば、まさに内と外の境界線上である。見上げれば、想像をはるかに超える画角の、雄々しい電波塔。ああここは、東京の麓なんだ。そう思って少し泣けた。やっぱりこの縁側、特等席だった。
元自動車工場を改装した、フレンチとお酒を楽しむレストラン。奥の個室は1日1組の予約制。カウンター側は入店可。シェフの山田ゴローさんは元放送作家から転身した異例の経歴の持ち主。
「月下」
住: 東京都港区東麻布1-9-3
☎: 03-3589-4111
営: 18:00〜翌3:00
休: 日・第2、第4土
他の“半分くらい外”の店はこちら。
Photo: Kazuharu Igarashi Text: Neo Iida
GINZA2018年6月号掲載