08 Jan 2020
ダイエットも美味しくなきゃ!きのこのデトックス・スープ。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.19

小さな料理 大きな味 ⑲
きのこスープはマジカル
秋のデトックス・スープと呼んでいます。
たっぷり食べても軽くてカロリーは少なく、おなかもすっきり。
でも、ただのデトックスじゃあつまらない。
おいしい!がついてこなければ。
きのこをどっさり使う鍋いっぱいのスープです。いろんなきのこの持ち味がぎゅうぎゅうに詰まっている。20分もあれば、すぐ出来上がる簡単さもうれしい。
①きのこを五種類ほど適当に組み合わせ、ざくざく切ってさっと洗う。しめじ、椎茸、マッシュルーム、エリンギ、ヒラタケ、なめこ、何でも。分量も、割合も、適当で構わない。
②大きな鍋にきのこを入れ、全体がかぶる程度に水を注ぐ。
③味つけは黒酢たっぷり、醤油と酒を少し、ごま油をひと垂らし、タカノツメ1本。
④中火で15分ほど煮る。仕上げに黒胡椒たっぷり、塩少し。
どう作っても失敗のない、拍子抜けするくらい簡単なスープだけれど、味は複雑精妙。自分で自分の持ち味をじわじわ差し出すきのこのチカラにびっくりする。これがきのこの魔法なんだな。ただし、煮るとびっくりするほど嵩が減るので、きのこは思い切ってたくさん使ってください。
酸っぱくて、ぴりっと辛くて、スープは透明なぬるみをまとってとろんとなめらか。カリコリ、ポリポリ、ひと口ずつ変化に富む歯ごたえが楽しい。
この十月、石川県の名峰・白山のふもとに旅をした。土地のひとは、それぞれ秘密のきのこ採りの場所をもっている。親きょうだいにも教えない大事な場所。こっそり案内してもらったら、立ち枯れた樹齢200年のブナの木の幹にびっしり、地元でシロコケと呼ぶブナハリダケが群生していた。しいんと静まり返った山奥、木漏れ日を浴びる真っ白なきのこが光っている様子はファンタジーの世界をのぞき見るかのよう。
きのこは、植物ではなく菌類。その奥深い世界に誘われ、どぎまぎさせられた。
見つけたときも、採るときも、食べるときも、きのこはマジカル。正体をつかんだと思ったら、するりと逃げてゆく。
その一瞬を閉じ込めるスープなのかもしれない。ひと匙すくって口にふくむとき、静まり返った森の光景がわずか一瞬、目に浮かぶ。でも、すぐに消えるので白日夢を見たような気がする。
そんな不思議さも相まって、自分のからだのナニカを浄化してくれるこの熱いスープを愛している。
きのこからの贈り物を、秋の深まりとともに。
平松洋子 ひらまつ・ようこ
エッセイスト。『味なメニュー』(新潮文庫)、『忘れない味「食べる」をめぐる27 篇』(編著/講談社)など著書多数。週刊誌の人気連載をまとめた『かきバターを神田で』(文春文庫)が発売中。
Illustration: Yosuke Kobashi
GINZA2019年12月号掲載