小さな料理 大きな味 20
真冬の肉豆腐
ひさしぶりに『村上朝日堂』(村上春樹、安西水丸著/新潮文庫)を書棚から取り出して読んでいると、「『豆腐』について」と題した続き物のエッセイ四編があった。村上春樹が豆腐について書こうと思ったのは、単純な線のテーマを提出してイラストレーターを困らせようと思ったからだとあるのだが、そのうち豆腐について書きたいことがあれこれ出てきたらしい。
「『豆腐』について(1)」のなかにこう書かれている。
「本当においしい豆腐というのは余計な味つけをする必要なんてなにもない。英語でいうとsimple as it must beというのかな」
本当にその通りだ。でも、べつの側面もある。
味の染みた豆腐、これもすばらしい。さっきの「余計な味つけをする必要がない」とは逆のことを言うようだが、純粋素朴だからこそうまみを引き込む力も強いのだ。
真冬のお楽しみは肉豆腐である。湯豆腐も温まるけれど、甘辛い風味や肉のうまさが染みこんだぶん、豆腐が抱きこむ熱量が多い。煮えばなをよそった熱いのを箸の先でちびちび崩しながら食べていると、首筋や背中がじんわり温まってくる。
[作り方]
①鍋に水(または、だし)1カップを沸かし、醤油大さじ2、酒大さじ2、みりん大さじ1と1/2を加える。
②四分割した木綿豆腐半丁分、斜め切りにしたねぎ1本分を煮る。
③最後に、食べやすく切った牛肉150グラムを入れ、煮る。