小さな料理 大きな味 29
パセリは無限大
パセリの大束を売っている八百屋が近所にある。
十数本まとめた茎の根元がぎゅっと縛ってあり、大きな緑のブーケそっくりだ。いつもクレソンや大葉の隣に置いてあるので、その棚の一角が緑のグラデーションの光景になっており、見かけるたびパッと目が冴える。
大束ひとつ500円くらい。スーパーなどで売られている小束はたいてい4、5本単位で150円ほど、その値段に掛け算して比べてみると、大束は200円ほどお得な勘定になる。お客には近隣の飲食店の料理人も多いので業務用の量なんだろう。
私は決まって、その業務用のパセリを買う。困ったときのパセリ、困らなくてもパセリ。うちの常備野菜なので、パセリを欠かすわけにはいかない。
「あの添え物のパセリがどうして」という声が聞こえてきそうだけれど、いやいや。パセリがお飾り役に過ぎないというのは、洋食からの連想だと思う。フライ、とんかつ、スパゲッティ・ナポリタン、チキンライス。ちょこんと脇に置かれたパセリの緑が皿の景色を引き立てるのだが、パセリの実力はそんなものじゃない。
パセリからいい味がでる。「いい味」を「だし」と言い換えたいほど、パセリが秘めたポテンシャルはすばらしい。野菜のトマト煮込み(4、5種類の野菜をさっとオリーブオイルで炒め、トマトと白ワインで煮た簡単なもの)など作ってみるとすぐわかるのだが、パセリをたっぷり入れるのと入れないのとでは、味の深さがまったく違う。苦みが強いのでは、という思い込みも捨てたい。おいしさにこくが出た、うまみが深まったと感じたら、それはパセリの人徳だ(リスペクトをこめて擬人化)。
パセリの腕を信じれば、パセリも主役に躍り出る。
そのひとつとして勧めたいのが、パセリとアンチョビの組み合わせ。6、7本をみじん切りにして炒めると、えええーと声が出るほど少しの量になるところも、パセリの芸のひとつです。
【作り方】
①洗ったパセリを茎ごとみじん切りにする。
②アンチョビのフィレ4〜5枚、にんにく半かけをみじん切りにする。
③鍋を熱してオリーブオイルを注ぎ、アンチョビとにんにくを炒め、強火にしてパセリを入れ、水分を飛ばしながらさっと火を通す。
万能のソースのように応用できる。こんがり焼いた輪切りのズッキーニにのせたり、焼いたハムに添えたり、ステーキならどの肉とも相性がいい。パスタのソースに使うこともある。
大束を買うと惜しげがない。まだたくさん残っている、よし、明日の朝はパセリとチーズのオムレツを作ろう、ということになる。