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冬のねぎの甘さとうまみをじっくり引き出した常備菜。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.32

冬のねぎの甘さとうまみをじっくり引き出した常備菜。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.32

小さな料理 大きな味 32

ねぎに癒やされて

5メートルほど前を歩いている女性の背中で、ねぎが揺れている。

危ないかも。目が釘付けになったのは、背中のリュックサックから斜めに突き出ている白ねぎが大きく揺れているからだった。一歩歩くたび、どんどんハミ出る。自分の背中で起こっている事態に、彼女は気づいていない。落ちなきゃいいけれど、と思いながら後ろを歩いていると、あっ。ついにねぎが横倒しになってリュックから飛び出し、路上に落下した。

あわてて走り寄り、ねぎの束を拾って声を掛けた。

「あの、これ、いま落ちました」

えっと驚きながら、彼女はとっさに背中に手を回してねぎの不在を確認。ぱっと顔を赤らめながら状況を理解して、「どうもありがとうございます!」。昼過ぎの路上、冬晴れの午後の小さな出来事。30代半ばくらいのポニーテールがかわいいひとだった。

冬の光のもと、ねぎを買った帰り道は白い艶々がまぶしい。買い物袋でもリュックサックでも、つねに飛び出しながら自分の存在を激しく主張するのがねぎという野菜である。ねぎさえあれば、おかずはなんとかなる働きぶりだから、この自己主張の強さはまあ当然だよなとも思う。

冷え込んでくると、ねぎの甘みがしだいに増してきて、待ってました!という気分になる。辛み勝ちだった夏場のねぎとは別もので、巻きの数も増え、でっぷりと太くなるのがうれしい。火を通すと、ねぎの内側からとろりと湧き出てくるうまみは、寒さや冷えと交換して手にするありがたさだ。

冬場になるとつくり続けている常備菜を紹介します。

ねぎを3本ほどぶつ切りにして、こんがり焼いたのを保存容器に並べておけば、ただそれだけでオールマイティ。

【作り方】
①ねぎを長さ6〜7センチに切る。

②フライパンにオリーブオイルを熱し、ねぎの周囲を転がしながらこんがり焼きつける。途中でふたをして火を弱め、ねぎの甘みをじっくり引き出す。

③保存容器に並べ、ぱらぱらと塩をふっておく。

あわただしい朝、皿の脇にのせるだけで簡単な副菜になる。ハムやスモークサーモンを巻きつければ、白ワインのおとも。チーズやソーセージといっしょにパンにはさんでトーストサンド。スパゲッティの材料にもなる。万能です。

バラすという方法もある。フォークの背で押すと中身がつるりと飛び出るので、刺身と和えて粒マスタードを添えてみたら、急にシャレたひと皿が出現してにんまり。冬はねぎの甘さに癒やされる。

平松洋子 ひらまつ・ようこ

エッセイスト。食文化と暮らしをテーマに執筆活動を行う。『買えない味』で第16回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。『味なメニュー』(新潮文庫)、『忘れない味 「食べる」をめぐる27篇』(編著/講談社)、『暮らしを支える定番の道具134』(マガジンハウス)など著書多数。近著は『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文藝春秋)。

Illustration: Kanta Yokoyama

GINZA2020年12月号掲載

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