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今宵、きつね丼。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.42

今宵、きつね丼。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.42

小さな料理 大きな味 42
*2021年11月号掲載の内容になります

今宵、きつね丼

ご飯のおいしい季節です。豊穣の秋がやってきた。

この当たり前のように繰り返されてきた言葉を口にできることが、こんなにうれしい。ごく普通の日常が巡り来るのはすでにそれ自体がかけがえのない幸せなのだと、去年の春からずっと思ってきた。

金色の実りをつけた稲穂が頭を垂れると、いよいよ稲刈り。そのあと、刈り取った稲を天日干しすることを「はざかけ」といい、これも米づくりにとって大事なひと作業だ。太陽と風にさらすことで、ほどよく籾の水分が抜け、米の品質が上がる。半年かけて丹精込めた米づくりの最終仕上げ。毎年繰り広げられる「はざかけ」の風景があればこそ、今年の新たな米が私たちの手もとに届く。

秋の穫れたてを言祝ぎたくて、新米を研ぐ。

まずそのまま炊いて白米を堪能したら、その次に小丼に進みたくなる。

また白米に戻るのだけれど、その通過地点に小丼がいてくれるのがうれしい。熱いご飯に甘じょっぱい味が染みると米の甘さがぐんと引き立つから、いっぺんそっち方面に走ってみたくなるのだ。

小丼の欲望が高まるとき、よくつくっている料理を紹介します。なんといっても手近な材料ですぐできるので、躊躇するヒマもないところが最高だ(と、いつも思う)。

名づけて、きつね丼。主役はもちろんきつね、つまり油揚げ。あとは玉ねぎと卵があれば、もうそれで。

【材料】
油揚げ1枚
玉ねぎ1/2個
卵2個
だし2/3カップ
醬油大さじ1 1/2
酒大さじ1
みりん大さじ1/2
砂糖小さじ1

【作り方】
①だし、醬油、みりん、酒、砂糖を小鍋に入れて火にかける。
②いったん沸騰したら、薄切りにした玉ねぎ、1センチ角の色紙切りにした油揚げを加え、中火で煮る。
③味が染みたら、溶きほぐした卵を回し入れる。
④椀にごはんを盛り、③をとろりとかける。

甘じょっぱい汁をたっぷり含んでじゅわじゅわのスポンジになった油揚げが、炊きたてのご飯にしなだれかかる。黄色の卵のなかで、そっと巣ごもり。でも、食べていると、いつもおなじ科白が浮かんできて苦笑いしてしまう―やっぱりアレに似ている。そう、かつ丼。ここだけの話なのですが、かつ丼欲がむくむくと浮上したときも、私はこのきつね丼に面倒みてもらっている。

黄色い小丼は明るい月を映すかのようだ。チョイと唐辛子をふりかけると、にぎやかな秋祭りもやってくる。秋風の吹き渡る田んぼいちめん、どっさり刈り取った稲を乾かす「はざかけ」の風景の美しさを思いながら、今宵はきつね丼。

平松洋子 ひらまつ・ようこ

エッセイスト。食文化と暮らし、文芸をテーマに執筆活動を行う。『本の花 料理も、小説も、写真も』(角川文庫)、『忘れない味 「食べる」をめぐる27篇』(編著/講談社)、『味なメニュー』(新潮文庫)、『野蛮な読書』(集英社文庫)、『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文藝春秋)、『遺したい味 わたしの東京、わたしの京都』(姜尚美氏との共著/淡交社)など著書多数。

Illustration: Kanta Yokoyama

GINZA2021年11月号掲載

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