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名残の白菜。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.46

名残の白菜。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.46

小さな料理 大きな味 46
*2022年3月号掲載の内容になります

名残の白菜

まだ冬の寒さが残っているうちに、名残を惜しんでおきたい野菜がある。

むちっと厚く、大きな葉一枚一枚に味が乗った体格のいい白菜。

透き通った茎の白の美しさも、旬の冬がもうじき終わると思うと急にさみしくなってしまうのだが、そもそも懐の深い白菜だから、こちらの気分と都合に「ハイハイ」と合わせてくれる。しゃきしゃきの浅漬けから、とろりと柔らかなクリーム煮まで千変万化。イキのいいのが手に入ったら、私は、生のまま細切りにしてサラダにすることもある。口のなかでさくさくと軽快な音が鳴ると、寒さの味というのでしょうか、白菜を育んだ冬そのものを相手にしている気がして、スカッとする。

切り方ひとつで違う顔を見せるのも、白菜の楽しいところ。

ざくざく適当に切る、手でちぎる、縦に裂く……それぞれ別の味わいになるのは、白菜ならではの芸当。こちらも、あの手この手で挑みたくなる。

ぜひレパートリーに加えて欲しいのが斜め切りです。

茎に当てた包丁を思いきって横に傾け、すーっと斜めに引き切る。

すると、地層が前後にずれたような厚い断面のひとひらが現れる。この断面の厚さがイイ!

断面を大きく切りたい理由は、ふたつある。

ひとつは、味が染みこむ面積を広げるため。ふたつめは、白菜がふくむ水分を外に出ていきやすくするため。たったこれだけで、料理の仕上がりがずいぶん違ってくることにも驚かされる。

斜めに切りたいのは、強火でしゃきっと炒めるとき。

先に書いたように、すばやく味が染みこみ、しかも仕上がりが水っぽくならないためには、斜め切りが欠かせない。たったそれだけのことで?と首をかしげるかもしれないけれど、実際につくってみると、白菜ってとても素直な野菜なんだな、ということがすぐわかるはず。

この冬も、何度となくつくってきた〝斜め切りのおかず〟を紹介します。

白菜の甘酢炒め。これは中国の東北地方の家庭料理で、白いご飯にもよく合う気取りのない簡単な一品。中国では、白菜のうまさを堪能する代表的な料理でもあります。

【つくりかた】
①白菜1/6束を食べやすい大きさの斜め切りにする。
②フライパンにごま油大さじ1と赤唐辛子1本を入れて軽く熱し、白菜を入れる。
③強火で炒め、白菜が半分くらい透き通ったら、醬油・酒各大さじ1、酢大さじ2、砂糖小さじ2、水1/4カップを加え、全体を大きく混ぜながら炒め煮にする。
④塩で味を調え、水溶き片栗粉を回しかけてとろみをつける。

もし黒酢が手もとにあれば、醤油と酢を黒酢に代えて。

あっというまにできるシンプルな普段着のおかずです。さっぱりとしていくらでも食べられる、食べ心地が軽い、飽きない、三拍子揃っているところもうれしくて。白菜をさっと湯通しすると、もっとシャキシャキ感がアップします。

白菜の冬が終わってしまうのが惜しい。

平松洋子 ひらまつ・ようこ

エッセイスト。食文化と暮らし、文芸をテーマに執筆活動を行う。『本の花 料理も、小説も、写真も』(角川文庫)、『忘れない味 「食べる」をめぐる27篇』(編著/講談社)、『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文藝春秋)、初の自伝的エッセイ集『父のビスコ』(小学館)など著書多数。週刊文春の人気連載をまとめた『いわしバターを自分で』(文春文庫)も発売中。

Illustration: Kanta Yokoyama

GINZA2022年3月号掲載

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