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すっぱうまいスープのこと。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.47

すっぱうまいスープのこと。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.47

小さな料理 大きな味 47

すっぱうまいスープのこと

中国料理に「酸菜火鍋」という鍋がある。北の地方料理にして、家庭料理。気軽に旅ができない状況が続いているから、かつて北京や山東省の町で食べた味を思い出すと、むやみに恋しい。

一度知ったらやみつきになる味わいのおおもとは、白菜の古漬けだ。中国の北の土地では、甕に漬け込んで白菜を発酵させる自家製の漬け物を家庭の保存食にする。たっぷり乳酸発酵したのを取り出しては、豚肉、野菜、魚介、春雨などといっしょに煮るのだが、まろやかな酸味の染み出た「すっぱうまい」風味がたまらない。

でも、その気になれば似通った味はつくれる。白菜の古漬けを漬物に置き換えれば、わざわざ鍋に仕立てなくても、ごく簡単に「すっぱうまい」スープができる。

私が一番よく使うのは、高菜の漬物です。しっかり漬かって乳酸発酵が進んでいれば、そのぶんスープの味が深くなるので、おいしそうなのを見つけたら多めに買っておき、手をつけずにそのまま冷蔵庫のなかで育てることもある。

[高菜の漬物と豚肉のスープ]
【材料】(3〜4人分)
高菜の漬物100g 豚肉100g 長ねぎ10​cm分 酒大さじ1 ごま油大さじ1 水3 1/2カップ 片栗粉、塩、こしょう各適量

【つくりかた】
①高菜の漬物をボウルに張った水に浸し、軽く塩抜きしてから水気を搾る。
②高菜を粗いみじん切り、豚肉を細切り、長ねぎを薄切りにする。
③鍋にごま油を熱し、まず高菜とねぎをじっくり炒め、最後に豚肉を入れて炒める。
④酒と水を加えて煮る。途中であくを取る。
⑤塩、こしょうして味を調え、水溶き片栗粉を加えてとろみをつける。

高菜をほかの漬物に置き換えれば、いろんな漬物が活用できる。もちろん本家本物とおなじく白菜の漬け物はぴったりだし、なすやキャベツの漬物……とにかくなんでも。数種類混ぜても構わない。ぜひ試してもらいたいのが、たくあん。太めの細切りにして、高菜と同じようにつくってみてください。干して水分の抜けたこりこりのたくあん、つまり、大根の変貌ぶりにびっくりするはずだ。

冷蔵庫の奥のほうから、うっかり忘れていた漬物が発見されるときがありますね。あちゃー、と一瞬あせるのですが、いやいや、むしろラッキー。迷わずざくざく切って、ごま油で炒めて水を入れ、酒をちょろり。塩分がそれほど強くなければ、塩抜きの手間もいらない。酢を足せば、酸辣湯ふう。あっというまにできる漬物スープにうどんやそうめんを入れれば、忙しい朝や昼ごはんも簡単に一丁上がり。

どんな調味料にも出せない豊かなうまみ。これが漬物の贈り物です。

外から調味料をあれこれ足しても決して現れない、漬物の内側からじんわり染み出る味。漬物スープを食べるとき、乳酸発酵によって生まれた恩恵を丸ごと自分の身体に取り込むイメージを描く。

平松洋子 ひらまつ・ようこ

エッセイスト。食文化と暮らし、文芸をテーマに執筆活動を行う。『本の花 料理も、小説も、写真も』(角川文庫)、『忘れない味 「食べる」をめぐる27篇』(編著/講談社)、『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文藝春秋)など著書多数。初の自伝的エッセイ集『父のビスコ』(小学館)で読売文学賞受賞。最新刊は週刊文春の連載をまとめた『いわしバターを自分で』(文春文庫)。

Illustration: Kanta Yokoyama

GINZA2022年4月号掲載

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