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春巻きのヨロコビ。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.48

春巻きのヨロコビ。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.48

小さな料理 大きな味 48

 

春巻きのヨロコビ

「春巻きなんて、もう十年以上つくってないわよ。いや十五年か!?」
と、知人のKさん。

「私もめったにつくらなかったのよ、以前は」
と、私。

立ち話をしていたら、そんな話になった。冬のあいだジョギングをさぼりがちだった、そういえば餃子をつくってない……脈絡のない話の途中。

春巻きには、とかく〝面倒〟〝むずかしそう〟〝店で食べるもの〟というイメージを抱くし、以前は私もそうだったの──と、私は続けた。

さて、結論を先にいえば、外で食べるのと同じ春巻きをつくろうとするから、やっかいな気分になってしまうのだ。アレではなく、自分のコレ。あいだに一線を引くと、霧が晴れてすっきりする。

自分でつくる春巻きの中身は、なんでもアリ。私の場合は、ただ切っただけの野菜や魚介をそのまま包んで揚げるだけ。天ぷらよりはるかに簡単だし、失敗がない。

春巻きの皮にきっちり巻かれて守られた中身は、一切の風味が外に洩れない。だから、「揚げもの」ではなく「蒸しものの一種」というのが、私の理解である。火が通りやすいようにせん切りや薄切りにして包めば、もうそれだけで。

たとえば、春。ぜひ勧めたいのは春キャベツの春巻きです。皮の内側でふわっと火の通った春キャベツを、香ばしいぱりぱりの皮といっしょに頬張るときのヨロコビを思うと、いますぐ!という気持ちになる。

【材料】
春キャベツの葉4〜5枚 春巻きの皮(ミニサイズがおすすめ)4枚 油、小麦粉各適量
【つくりかた】
①キャベツの葉を細いせん切りにする。
②春巻きの皮を広げ、刻んだキャベツをぎっしり詰めて巻く(巻き終わりの端に同量の水で溶いた小麦粉を塗り、留める)。
③小さめのフライパンに揚げ油を2cmほど注ぎ、火にかける。
④春巻きを入れ、強めの中火でこんがり揚げる。途中で上下を返して両面を揚げ、全体がきつね色になったら取り出す。

コツは、キャベツをぎゅうぎゅうに詰めてきっちり巻くことくらいです。

油は少なくて構わない。春巻きの高さの三分の一で大丈夫です。途中で上下を裏返してこんがり色がつけば、もうそれで。

熱々の春キャベツの春巻きには、私ならウスターソース。ほら、コロッケやあじフライの付け合わせのキャベツにはソースが合うでしょう、それと同じ。さくさくしゃりしゃり、食べ心地も軽くてさわやか。

そんな話をしてKさんと別れた。何日かあと、「十五年ぶりに春巻きつくった! 今度はそら豆の春巻きつくるぞ!」。弾む文面のメールが来た。

平松洋子 ひらまつ・ようこ

エッセイスト。食文化と暮らし、文芸をテーマに執筆活動を行う。『本の花 料理も、小説も、写真も』(角川文庫)、『忘れない味「 食べる」をめぐる27 篇』(編著/講談社)、『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文藝春秋)など著書多数。初の自伝的エッセイ集『父のビスコ』(小学館)で読売文学賞受賞。週刊文春の連載をまとめた『いわしバターを自分で』(文春文庫)が好評発売中。

Illustration: Kanta Yokoyama

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