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梅干しエナジー。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.50

梅干しエナジー。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.50

小さな料理 大きな味 50

疲れたな、と思ったら梅干し。

食欲が出ないときも、梅干し。

暑くなってくると、しょっちゅう梅干しに頼る。

年中欠かせない保存食として何十年にわたって付き合いを深めてきた梅干しだが、これから食卓に上る機会が急上昇する。

梅雨どき、まずスタートするのが梅干しご飯だ。米を炊くとき、まんなかに梅干しを一個、ぽんと置く。少しだけ指で押して米のなかに沈め、いつも通りの水加減で炊くだけなのだが、しゃもじでほぐすと、柔らかくなった梅干しがほぐれてうっすら梅色。きゅっと締まった酸味がさっぱりとして清々しく、湿りがちな気分も吹き飛ぶ。白ごまをふることもあるし、青じそやみょうがのせん切りを混ぜれば、手軽な変わりご飯。そのまま結んでおにぎりにしたりもする。梅干しのクエン酸は食中毒のもとになる菌の増殖を抑える働きもあるから、暑い時期に欲しくなる梅干しご飯はちゃんと理にかなっている。味覚の欲求、身体の欲求、両方はおのずと合致しているんだなと実感するのはこんなときだ。

「梅干し=クエン酸の宝庫」と置き換えると、とてもわかりやすい。クエン酸は疲労の原因になる乳酸の蓄積を抑え、疲労物質を体外に排出する働きをもつことは広く知られている。酸っぱい味が唾液の分泌を促し、へたり気味の食欲を猛然とバックアップ。ああ、こうして書いているだけで口のなかにツバが溜まってきました……クエン酸の力はやっぱりすごい。しょっぱ過ぎないこと、つまり塩分の摂り過ぎに気をつけさえすれば、いいことだらけ。

ぜひ試してほしいのが、梅干し風味の野菜炒め。キャベツ、もやし、ピーマン、セロリ、にんじん、にら……野菜なら何でも。豚肉もいっしょに加えれば栄養満点、無敵のおかず。炒めるとき、ちぎった梅干しもいっしょに入れてみてください。適当にちぎった梅干し、ついでに果肉のついた種も放り込み、じゃっ、じゃっ、景気のいい音を立てて強火で炒める。梅干しの風味を生かしたいので、醤油はなくてもいいくらい。酒をちょっとだけ回しかけてフライパンを煽り、水分を飛ばしてからっと仕上げ、軽く塩で味を調えたら、もうそれで。

梅干しは、調味料の役目も果たす。果肉を包丁で叩いてドレッシングに混ぜれば梅干し風味のサラダ。じゃこ、ごまと混ぜ合わせた梅肉ペーストをつくるのも、長年の夏の習慣だ。きゅうりにのせて、がぶり。

今年初めてつくってみた珍味を紹介したい。

【梅干しアイスクリーム】

梅干し一個分の果肉を細かくちぎり、いったん柔らかくしたバニラアイスクリームに入れて混ぜ、フリーザーに戻して冷やし固める。

酸っぱくて、甘くて、目を白黒させながら食べるのも、また楽し。梅干しシャーベットもつくってみようかな。

平松洋子 ひらまつ・ようこ

エッセイスト。食文化と暮らし、文芸をテーマに執筆活動を行う。『本の花 料理も、小説も、写真も』(角川文庫)、『忘れない味 「食べる」をめぐる27篇』(編著/講談社)、『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文藝春秋)など著書多数。初の自伝的エッセイ集『父のビスコ』(小学館)で読売文学賞受賞。週刊文春の連載をまとめた『いわしバターを自分で』(文春文庫)が好評発売中。

Illustration: Kanta Yokoyama

GINZA2022年7月号掲載

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