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あっという間のブロッコリー。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.57

あっという間のブロッコリー。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.57

小さな料理 大きな味 57

「今年の冬はブロッコリーが豊作です」とニュースで言っていた。画面に映ったブロッコリー畑の映像は迫力満点で、濃いグリーンがみっしり広がって雲海のよう。両手を突き出す葉っぱの大きさも勢いもすごい。農家のおじさんはバサバサ切り捨てていたが、いっぺん葉っぱも食べてみたい。

好きな野菜を五つ挙げろと言われたら、ブロッコリーを必ず入れる。アブラナ科アブラナ属。和名はメハナヤサイ、ミドリハナヤサイ。もこもこの蕾から太い茎まで全部食べられるところが、まず好きだ。無駄なものがなく、捨てるところがない。

でも、ブロッコリーはゆでるだけだから飽きちゃう、なんて言われがち。豊作で安くなってるから二個くらい買ってみたいけれど、単調だから困る、とかね。いやいや違うんですよ、それが。声を大にして言いたい。あんなに利用しがいのある野菜もありません。

かなり楽しいのは、蕾の部分を削るときだ。アタマを逆さにして持ち、包丁の刃を当てて、シャワシャワ、ショリショリ、散髪するみたいにして削ぐと、さらさらの緑の粒の小山。

さて、これをどうするか。私がよくつくるのは、ブロッコリーの炒飯です。いつも通りに炒飯をつくり、最後の緑の粒をざーっと入れて火を通しながら混ぜると、アラまあ! 緑色がきれいなひと皿の出来上がり。パンケーキの生地に混ぜることもある。うっすら緑色をまとうパンケーキにサワークリームがよく合う。

あとに茎が残っています。本音を言えば、これがうれしい。硬さが気になるようなら、外側の皮を剝き、丸太を切るつもりで輪切りにして、肉やソーセージと炒めたり、コロコロに切って塩ゆでにしたのを温野菜のサラダに仕立てたり。あとを引かないさっぱりとした風味、こりこり弾む食感、どんな素材にも合う間口の広さ。よく考えると、私は、茎を食べるためにブロッコリーを買っているかもしれない。

ゆでるときは、少しの湯でいい。小房に切って縦に切り、アタマのほうを下に置く。湯は半分くらいの高さの量でOK。ふたをして強火でゆでると、茎の部分は蒸気で蒸されて火が通る。どちらかというと蒸し煮に近く、こうすると全体がのんべんだらりと柔らかくならない。ブロッコリー嫌いのひとが、「あのぐにゅーっとした舌触りがイヤ」と言うのを聞くことがあるけれど、それ、ゆで過ぎなんです。茎のコリッとした食感を生かすと、この野菜のイメージががらりと変わる。

でも、ぐずぐずにゆでたいときもあるんです。ブロッコリーのショートパスタは、私にとって永遠のアイドルみたいなもので、いつ何度食べてもうっとり。小房に切ったのをパスタと同じ鍋に入れてゆでて取り出し、フライパンの《オリーブオイル+にんにく+タカノツメ+アンチョビ》に入れ、潰しながらぐずぐずに炒めたところへパスタを入れて絡める。

あっという間に大きな一個が、みんなの胃袋のなかへ。

平松洋子 ひらまつ・ようこ

エッセイスト。食文化と暮らし、文芸をテーマに執筆活動を行う。『忘れない味「 食べる」をめぐる27篇』(編著/講談社)、『いわしバターを自分で』(文春文庫)、『おあげさん』( PARCO出版)など著書多数。初の自伝的エッセイ集『父のビスコ』(小学館)で読売文学賞受賞。最新刊『パセリカレーの立ち話』(プレジデント社)の表紙は、娘である画家・平松麻さんの手によるもの。

Illustration: Kanta Yokoyama

GINZA2023年2月号掲載

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