FROM EDITORS 編アシにこ散歩、今日も一服 vol.1
京王井の頭線 吉祥寺駅から少し歩いた場所にある「茶房 武蔵野文庫」。お店はなんと創業33年。
年々華やかになっていく駅前を歩き回った日は、いつも自然と足が向かうオアシスのような場所だ。店主いわくお客さんが動かなくて困ってしまうという。一度店を訪れると席からなかなか離れられなくなるのは私も経験済み。店の敷居をくぐった途端なんだか時間の流れがかわるような気がする。その日の取材も気づけば2時間経っていた。
はじめて訪れたのは吉祥寺好きの両親に連れられて。3人でカレーセット(ごろごろ具材のボリュームに満足するにも関わらず、飲み物、サラダがついてくる!)を食べたあとに「限定」という言葉に弱い私は冬季しか出ない焼きりんごも注文。それがまた美味しいこと。上にのせられたクリームの固さと甘さがちょうどよくりんごにマッチしていてコーヒーにもぴったりなのだ。その出会いから毎年冬になれば「ここの焼きりんご食べなくして冬は越せない」というのがうちのジンクスになった(が、売り切れてしまうこともありタイミングを逃すと食べれない冬も…)。
そして、読書をするのにうってつけの場所でもある。もちろん、決して物静かな場所ではないし週末は入れないこともあるくらい混雑してしている。しかし、不思議と隣の席で話している人がいても気にならない。
「いつだったか、お客さんでこのお店は音が上にぬけるって言われたことがある。当時はデザイナーとそんなつもりなく相談して決めたんだけれどアーチ形の天井の効果なのかもしれない」そう話してくれた店主。空間にすっとアーチを描く天井は店内のバランスを見て洋風の要素をプラスしたつくりにしたという。
食器の音やカウンターから聞こえてくるまかないの話、その背景に流れるクラシックの音楽も心地よく通り過ぎる。
そのなんとなく聞こえていた開店当初から流し始めたというクラシックの音源はなんとラジオの有線放送。「音楽はクラシックにこだわっている訳ではなく、お客さんの邪魔にならない音にしようと思って決めたんですよ。読書したいのにうるさいと嫌でしょ。流れている音でなんとなく聞いたことあるなっていうくらいがいいと思っているの。一度ジャズが好きな女の子がいてチャンネルを替えてみたのだけれどなんだか合わなかったんだよ」と話してくれた。
「茶房 武蔵野文庫」は、戦後、東京が焼け野原になった時にたまたま蔵書を沢山持っていたオーナーが自分の書庫を学生に自由に読めるよう解放していた「早稲田文庫」がはじまり。それが後に喫茶店となり、アルバイトとして働いていたのが「茶房 武蔵野文庫」の店主だった。
吉祥寺で新たに店を始めた時、店先の通りは古びたアパートや空き駐車場ばかりで猫も通らないような場所だった。周りから誰も来ないでしょと言われても「それなら、俺が人を呼んでやろう」くらいの気持ちがあったという。「デパートの裏ということが決め手になったね。昔の銀座の高島屋や松屋の裏には必ず小さい喫茶店があったのよ。従業員がちょっと一息いれにいこうってみんな逃げ出してくる場所なんだろうね」
気さくにインタビューに応じてくれた店主。野球少年が瓦屋根を割ってしまい謝りに来た時でさえカレーをごちそうしたという。 「ここでしか食べれないものでなければ他のお店と対抗できない」と言う言葉が印象的だった。お客さんやその場所に訪れる人たちへの気配りが何よりも居心地のよさを生んでいるのかもしれない。
「茶房 武蔵野文庫」
住: 東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目13−4 吉祥寺井野ビル 1
☎: 0422-22-9107
営: 9:30-22:00
休: 月・火
編集アシスタントにこ。「茶房 武蔵野文庫」にはもう10年以上前から行っているヘビユーザー。期間限定(10月中旬から2月頃まで)の焼きりんごは毎年待ち遠しい。@2_c_o_