冷たいお酒とサンドイッチを持って芝生に出かけたい季節がやってきた。今日は90年前に書かれたおいしい野遊びの話をひとつ。
先輩から摘み草ハイキングの誘いを受けた男。おや、いいね。行こう。張り切る支度姿を妻が笑う。 ある晩春の日、朝から集合して田舎路を歩き出す4人の男たち。順番に草を摘んでは振る舞い、杉板に焼き付けた味噌をちょちょんと塗って、瓢箪徳利で持参した日本酒で清々しく喉に流し込む。晴天に恵まれた数時間の出来事が描かれた短編である。 「先輩、いいっすねこのへん」 「お前、さっきからいいっすねしか言ってないだろ」 「次お前の番な。うまい草とってこいよ」「遅かったな。げってまじかよ、それ毒草。ちょっ、食っちゃダメだって!」 言葉使いは多分違うけれど、からかって、じゃれて、労わりあって進むもう若くはないおじさんたち。私のおでこやまぶたにまで、柔らかな陽光がぽかぽかと染みてくるようだ。野蒜、忍冬花、蕗芽、薺…次々と登場する小さな球根や草花の薫香を想像して、気がつくと鼻の穴がふくらんでいた。セレブでインテリで最先端だった露伴も、こんなのどかな遊びに興じたのだろうか。現代の都市ではもはや叶わない贅沢な道草だ。 *青空文庫でも読めます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000051/files/4110_7965.html