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平松洋子「小さな料理 大きな味」vol.2 ブルーチーズ入り油揚げ

平松洋子「小さな料理 大きな味」vol.2 ブルーチーズ入り油揚げ

小さな料理  大きな味 ②

ブルーチーズ入り油揚げ

アラまた吠えているよ。苦笑いされても、やっぱり全力で言いたい。

「心に一枚、油揚げ」

一枚といわず、二枚でも三枚でも。油揚げラヴァーとして人後に落ちぬこの私は、たいてい冷蔵庫に三、四枚は常備している。
頼り甲斐と安心感に惚れ抜いている。

人生ン十年、振り返れば油揚げと苦楽をともにしてきた。いや、本当です。家族の誕生日、遠足、運動会。母や祖母は、機会を見つけてはおいなりさんをこしらえた。遠足のときはおいなりさん、おむすび、サンドウィッチの三択だったが、おいなりさんの場合は、小鍋で油揚げを煮染める匂いが台所に漂うから、すぐわかる。白ごまと薄い酢バス入り。なかよしの子と一個だけ交換したりした。運動会の徒競走で転んでドン尻、すりむいた赤い膝小僧をかばいながら、みじめな気持ちでお昼に食べたおいなりさんの味も、しみじみなつかしい。甘辛く煮含めた油揚げがいろんな感情を吸い込んでくれていた。

そして今では、油揚げがあるだけで最強の気持ちになれるオトナになりました。冷蔵庫のなかが寂しくても、油揚げさえ焼けば立派な一品になる。醤油を数滴垂らすだけでいいし、生姜醤油ならもっとよし。ざっくり切って味噌汁、細切りにして炊き込みごはん、三角に切って煮物、短冊切りにしてスープ……矢でも鉄砲でも持って来なさい。何でもない料理でも、油揚げがそこにあるだけでふくよかな余韻が生まれる。

とりわけ登場回数の多い一品が、ブルーチーズ入り油揚げだ。半分に切ってそろそろと指を入れて開いた内側に、ブルーチーズを多めに詰めて楊枝で口を閉じ、フライパンでこんがり焼く。片面をきつね色に焼き、裏返した片面が焼き上がる頃には中身がとろんと溶け、香ばしさがたまらない。

冷えた白ワインといっしょにどうぞ。もちろんビールにも日本酒にも合うのだが、えへん!と自慢したくなるのは、白ワインにもさりげなく寄り添う油揚げが誇らしいから。そもそもブルーチーズを詰めようと思いついたのは、余ったチーズの処遇に困ったからだったが、そんな事情も飲み込みつつ、自分の土俵に引きずり込む油揚げは本当にエライ。

調理時間十分以内。癖の強いブルーチーズが油揚げの引き立て役に回っていることに、いつもながら驚く。遅い夜のひとり飲みにも、最強の一品です。

平松洋子 Yoko Hiramatsu

エッセイスト。食や生活文化を中心に、のびのびとした親しみやすい文体で執筆する。『おとなの味』(新潮文庫)、『忙しい日でも、おなかは空く。』(文春文庫)、『野蛮な読書』(集英社)など著書多数。近著は『肉まんを新大阪で』(文春文庫)。

Illustration: Toshiyuki Hirano

GINZA2018年7月号掲載

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