平松洋子「小さな料理 大きな味」vol.3 釜玉そうめん

平松洋子「小さな料理 大きな味」vol.3 釜玉そうめん

小さな料理  大きな味 ③

釜玉そうめん

朝、食べる。うまい。

昼、食べる。うまい。

晩、食べる。うまい。

いつ食べても、たまらんな〜と思う。

これはすごいことだ。朝昼晩、それぞれの時間帯での生活状況が違うし、前後の事情だって複雑に絡む。なのに、つねに満足。

釜玉そうめんの話である。五、六年前から作り続けているのだが、以来ずっと冒頭の状態。黄金のレシピなんていう呼び方もあるかもしれないけれど、この一品については、晴れがましさや派手な感じがまるで似合わない。黙って味方になってくれる、縁の下の力持ちみたいな料理なのだ。

釜玉は、「釜揚げ」と「玉子」のこと。かまたま、と言ってみるだけで語感の優しさにうっとりさせられる。そもそも「釜揚げ」は素朴なおいしさを生む調理法だ。熱湯で麺をゆでたのち、いったん水にさらして締めるのが定石だが、その過程を省く。釜揚げうどん、釜揚げそば、いずれもゆでたての熱いままをふうふういただく。

ならば、「釜揚げそうめん」だってアリ、と考えた。ゆでたてのそうめんをザルに上げ、一、二度振って湯切りをすると、ふっくらと柔らかい白い雲。

そうめんをゆでている間に用意しましょう。ボウルに玉子一個を割り入れ、まんべんなく溶きほぐしたら醤油をひとたらし、以上終了。鍋のなかでゆだった熱いそうめんひと束分を待ち受ける。

ボウルのなかで「釜揚げ」と「玉子」が合わさったら、大急ぎ。菜箸で一気に混ぜ合わせ、そうめんに玉子をからめて椀によそう。海苔を揉んでのせ、七味唐辛子をぱらぱら。ぼやぼやしてちゃだめですよ。なにしろ、釜玉そうめんを作るときの、唯一のコツはスピード感だから。

釜揚げの場合、調理にかかる手間はゆでるだけ。なんだ簡単過ぎるじゃないか、と思うのは当然なのだが、この手間のなさ、何も介在しない直結感においしさの理由がある。

たったいま生まれたてのそうめんが玉子に包まれてふわふわ。そんな幸福感のもと、〈ゆでる・混ぜる・食べる〉、釜玉そうめんは全部ひと続き。朝も昼も晩も、いつ食べてもおいしさが変わらないのは、余計な手間も時間も一切割って入る余地がないからなのだろう。

食欲のないとき、疲れているときも、食べる。やっぱりうまい。

生活を支えて、最強である。

平松洋子 Yoko Hiramatsu

エッセイスト。食や生活文化を中心に、のびのびとした親しみやすい文体で執筆する。『おとなの味』(新潮文庫)、『忙しい日でも、おなかは空く。』(文春文庫)、『野蛮な読書』(集英社)など著書多数。近著は『肉まんを新大阪で』(文春文庫)。

Illustration: Toshiyuki Hirano

GINZA2018年8月号掲載

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