25 Dec 2018
冬のマイ定番、さつまいものレモン煮。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.8

小さな料理 大きな味 ⑧
さつまいものレモン煮
さつまいもが出回ると、毎年「キタ!」と思う。
ひょうきんな形、皮の紫色、ごつごつとした手触り、どんな種類でも一本ずつ顔が違うところにも惹かれる。しばらく飾っておきたいくらいだけれど、そうはいかない。
待ち構えて作るのは蒸かしいも。がんがん熱い湯気の立つ蒸籠に皮つきのまま入れて、鳴門金時などのでかいヤツなら30〜40分、じっくり強火で蒸す(ラップして電子レンジで加熱しても、もちろん)。竹串で刺してスーッと通ったら、それで出来上がり。
粗熱がとれるのを待ち、素手でぽくっと折る。目に染みる断面の黄色のまぶしさよ。見とれながら皮の上からナイフを入れ、バターのかけらを切り目に差し込むと、またたく間にとろーっと溶ける光景がまたうれしくて、さあさあ。大きな口を開けて熱いところをがぶりと頬張る。これですよ。この瞬間を待っていた。
昔の記憶を何度でも思い出したい。たとえば、石焼きいも屋のおじさんが使い古しの軍手をはめた手で一本つかみ、新聞紙にがさごそ包んで渡してくれる光景。そのときのわくわくした気持ちが忘れられず、アルミホイルに包んでグリルで焼いたりもする。
さつまいもの効能はいいことだらけだ。とりわけ食物繊維やヤラピンの活躍はすごい。さつまいもを食べ始めると、てきめんにお通じ力がハネ上がります。
炊き込みごはん、さつまいもとりんごのサラダ、豚汁……何でもこなす千両役者だが、私の定番のレモン煮を紹介したい。
【材料と作り方】
①紅アズマなら2cm厚さに輪切り、鳴門金時なら輪切りを半月に切り、小鍋に入れてかぶるくらいの水を入れる。
②干しぶどう大さじ3、レモンの輪切り半個分、白ワイン大さじ1くらい、砂糖大さじ2〜を目安に加え、中火で煮る。
③火が通ったらそのまま冷ます。
あればシナモンパウダーを少しふりかけると風味が増す。レモンの酸味がじわーっと染み、さつまいもが洒落た味に変身します。口のなかでぷちっと弾ける干しぶどうの甘みもうれしいおまけ、翌日は口当たりも風味も右肩上がり。なんて性格がいいんでしょう。
忙しい朝、夕食を食べそこねた夜にも。冷蔵庫にあれがあると思うと安心する、冬の味方。
平松洋子 Yoko Hiramatsu
エッセイスト。食や生活文化を中心に、のびのびとした親しみやすい文体で執筆。『おとなの味』(新潮文庫)、『忙しい日でも、おなかは空く。』(文春文庫)、『野蛮な読書』(集英社)など。近著は、立ち食いそば文化に正面から挑戦した『そばですよ 立ちそばの世界』(本の雑誌社)。
Illustration: Toshiyuki Hirano
GINZA2019年1月号掲載