13 Sep 2019
初夏のデザートに簡単&可愛いフルーツ寒天。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.14

小さな料理 大きな味 ⑭
フルーツ寒天
カワイイものに出合うと胸がきゅんきゅんして少女の頃にワープする、いくつになっても。
もうじき初夏がやってくるからかな。つるん、ひんやり、あのカワイイ味が恋しい。
フルーツ寒天を作ろう。
思いついたら気が急いて、すぐ粉寒天を買いに行った。寒天は1年ぶり、いやいや2年ぶり。たしかあのときは野菜の寒天寄せを作ってみたくなったのだ。ひとつに固めたい欲って急浮上するんだろうか。でも、今日はちょっと違う、キーワードは「カワイイ」。明るい色彩が踊りながら誘いをかけてくる。
粉寒天を買ったあとフルーツ売り場に回ると、おあつらえ向きの品物を見つけた。フルーツの小さなパック500円。パイナップル、いちご、グレープフルーツ、りんご、みかん、キウイがひと口ずつセットになっている。これよ、これこれ。透明な寒天のカラフルな断面が早くも目に浮かび、スーパーの片隅で夢見心地だ。
久しぶりの寒天だから、箱に書いてある説明書きを読みながら、手順を追って作った。でも、とても簡単。
【作り方】
①小鍋に水500㏄、粉寒天1袋4グラムを入れて火にかける。
②2分ほど沸騰させ、火を止めて粗熱をとる。
③好みのフルーツを2センチくらいの大きさに切る。
④容器に寒天液を注ぎ、フルーツを彩りよく散らして入れる。
⑤冷蔵庫で冷やし固める。
ちゃんと沸騰させないとキラキラの透明感がでないのは、以前失敗した経験があるから注意した。それに、寒天液の粗熱がとれてほんのり濃度がでたタイミングでフルーツを散らすのも大事。あせってことを進めると、フルーツが下に偏って沈んでしまう。
いちごの赤、みかんの黄色、キウイの緑、仕上がりを想像しながら、ぽつぽつと散りばめるうち、「カワイイ」光景が少しずつできあがってくるから、ちょっとくすぐったい。
わー照れるなあ。ひとりでニヤついたが、そんな場合じゃない。うかうかしていると、寒天がさあっと固まってゆく。
冷やし固めたフルーツ寒天に首ったけ。食後のデザート、おやつ、朝ごはん代わり。ぷりっと冷たい寒天の舌触りとともに、キラ星みたいにいろんなフルーツの酸味が弾ける。
ただし、きゅっとワンポイント引き締めます。
食べるときにレモンを搾ってかけると、おいしさ急上昇。とたんにおとなの味になる。
カワイイだけじゃ面白くない。
平松洋子 ひらまつ・ようこ
エッセイスト。『忙しい日でも、おなかは空く。』(文春文庫)、『野蛮な読書』(集英社)など著書多数。近刊に『忘れない味 「食べる」をめぐる27篇』(編著/講談社)など。
Illustration: Yosuke Kobashi
GINZA2019年7月号掲載